三鷹市役所

三鷹市役所

Customer Profile

会社名
三鷹市役所
所在地
〒181-8555 東京都三鷹市野崎一丁目1番1号

※会社名、肩書き、役職等は取材時のものです。

ICT事業継続計画(BCP)策定プロジェクト。
地方自治体のICT事業継続計画(BCP)策定を支援。自然災害、停電、サイバー攻撃などさまざまな脅威に対応、リスクや優先度、行動手順を可視化し、実効性あるBCPを実現。

東日本大震災では、日本が地震大国であることを改めて思い知らされた。また、台風や集中豪雨などの風水害も後を絶たない。今、産業界ではあらゆる視点で事業継続計画(BCP)が検討されている。中でも注目されているのが、情報通信技術(ICT)の領域である情報システムだ。これは行政サービスにおいても同様である。あらゆる行政サービスにICTが浸透している今日、システムなしでは行政サービスが成り立たない。
ICT利活用の先進的自治体として知られる三鷹市は、そのリスクへの危機意識がどこよりも高かった。その現れとして、全国の自治体に先駆け、ICTに特化したBCP(ICT-BCP)の策定に取り組んだのだ。行政サービスは市民生活に直結するだけに、実効性のあるICT-BCPでなければならなかった。

プロジェクト概要

課題

  • 積極的なICTの利活用、最先端の情報システム導入の結果、統一ドキュメントによるシステムの把握が困難
  • 業務システム構築時アウトソーシングのため、システム障害に係る脅威発生時の対応が不安
  • システム障害に係る脅威発生時のシステム停止とその復旧対応の遅れにより行政機能不全が長期化する懸念
  • システム障害に係る脅威発生に備えた想定脅威の把握と適切なリスク分析による効果的な投資

ソリューション

  • 災害時のみならず、行政サービスの継続に影響を与える非災害時に発生する脅威まで幅広く対応
  • 地理的条件や過去の災害発生等、地域特性を踏まえた脅威シナリオを作成
  • 複雑な行政業務を「見える化」し、市民や社会に与える影響を綿密に分析
  • 情報システムに対するリスクを定量的に評価し、資源毎に顕在リスクを抽出
  • 現場職員が復旧活動に資することのできる、実効性のある行動手順の作成
  • PDCAサイクルに沿った計画運用 マネジメント(BCM)の確立

成功のポイント

  • 自治体業務に精通したコンサルタントによる“的確な調査・分析の実現”
  • “全庁全部署を巻き込む”横断的な体制づくり
  • “主観に寄らない”判断基準(定量評価手法)の適用

Story

後藤 省二氏

私がABeamに初めにお願いしたのは3点、“われわれのことをよく知ってほしい”、“同じ視点で考えてほしい”、“一過性の仕事にしてほしくない”。この3つすべてに見事に応えてくれました。

三鷹市
企画部 情報化担当部長・ 情報推進課長事務取扱
後藤 省二氏

Story

プロジェクトの背景

行政の情報システムが停止すると市民生活に直接影響がでてしまう

 三鷹市では、他の自治体と比べても先進的なICTの利活用に取り組んでいる。2007年度より「三鷹市ユビキタス・コミュニティ推進基本方針」を策定し、2008年には1つのサービスとして、地域SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のシステム「ポキネット(みたか地域SNS)」の運用を始めた。日経BPネットが行うe都市ランキングでは常に上位に位置しているのもうなずける。
 自治体における情報システムの構築では、プログラムを理解する専門の職員がシステムを構築するケースも少なくない。しかし、三鷹市の場合は、システム構築・運用に関してはアウトソーシングを基本としている。
 「システムを構築することが目的ではなく、あくまでより便利で、豊かな暮らしをサポートする行政サービスを届けること、そして業務の効率化が目的です。ともすると、情報システム担当者にとっては、最新システムの構築そのものが目的になりがちです。そうではなく、職員は市民のニーズの把握や企画により注力すべきです」と三鷹市企画部地域情報化担当部長・情報推進課長事務取扱の後藤省二氏は語る。目指すべきは市民に向けた行政サービスの向上なのである。
 「三鷹市に限らず、今や行政業務・サービスは情報システムなくしては成り立ちません。住民基本台帳のデータベース化が進み、ネットワークを介したサービスが次々に誕生しているのです。しかし、脅威が発生した際、情報システムがダウンしてしまえば、行政サービスも停止してしまう。それは、我々の責務である市民生活の安全確保や災害復旧にも直接影響してしまいます。ですから、万が一、情報システムに障害が起きた場合、どのようなリスクが生じ、どのように事業を継続し、復旧していくのかを体系的に事前に決めておくことが大切です。これは、災害時だけでなく、サイバー攻撃などの非災害時も想定してあらゆる事態を考える必要があります」(後藤氏)。

Story

アビームの選定理由

実効性があり、各自治体の特性を踏まえたICT-BCP策定が必要

 今回のICT-BCPは、「三鷹市地域防災計画」と大きな関連性がある。地域防災計画では、「「災害発生時においても、市の行政サービスの一定レベルを確保するとともに、すべての業務が最短で再度提供できる」ことを目的として事業継続計画を策定すること」としている。行政サービスの多くが情報システムに依存している以上、情報システムの継続と復旧は、最優先課題でもある。
 今回その三鷹市のICT-BCP策定を全面的にサポートした ABeamの社会基盤・サービス統括事業部パブリックセクター・ プリンシパル/執行役員の鈴木由宇は「地域防災計画とICT-BCPは相互に連携しあう役割を持っています」と今回のプロジェクトとの関連を説明する。「ですから、“脅威発生時の事業継続能 力の向上”と“被災からの復旧時間の最小化”がICT-BCP策定の大きな目的です」(鈴木)。
 もちろん、一般的に情報システムに関するBCPは、今に始まったわけではない。総務省では2008年に「地方公共団体におけるICT部門のBCP策定に関するガイドライン」を作成している。しかし、これはあくまで一般的なガイドラインである。地域の属性、たとえば山間部、川沿い、海沿いといった地理的条件や保有す る情報システムの種類、数、構築・管理手法などは、自治体によって千差万別だ。
 「ポイントは、各自治体の地域特性、情報システムの特性に合わせ、いかに実効性のあるBCPを策定するか。これに尽きます」というのは、ABeam社会基盤・サービス統括事業部パブリックセクター・マネージャーの横内崇だ。たとえば、豪雨発生時の浸水エリアといった地域の特性なども踏まえた上で、ICT-BCPの策定が求められるのだ。
 「これまでABeamは、さまざまな都道府県、市区町村の情報システム構築をお手伝いしてきました。私自身、今回のICT-BCPを担当する前の1年間、三鷹市の基幹系システム再構築に係る要 件定義、システム全体最適化の仕事に従事していました。もともと三鷹市には、さまざまなシステムが導入されていましたが、 立て続けにシステムのオープン化を実現した反動なのか、システム管理のために作成したドキュメント類に一貫性が欠ける、と感じる点がありました。これでは脅威が発生した際に、情報システムの復旧にあたり混乱が生じるのではないかと内心感じ ていましたが、それらの整理がICT-BCPを策定する前段階において、システム全体最適化という業務を通じて整理できたこと は非常に大きかったと感じています」(横内)。
 システム最適化プロジェクトも担当していた三鷹市企画部情報推進課主任の山賀則夫氏は「システム最適化では、ICT資産の 棚卸しを行い現状をきちんと把握することで、無駄な開発や機能の重複といった課題が抽出されます。その上でクラウドの導入やリスクの分散等、将来に向けた理想のシステム像について検討を行いました。これは全庁最適化のみならず、ICT-BCPを 策定する上でも非常に重要なことです。今回のICT-BCPでは、サイバーテロのような被害も想定しますが、そうなるとシステム自体のセキュリティもリスクとして顕在化します。三鷹市では平成16年に情報セキュリティマネジメントシステムの ISO27001を取得し運用していますが、セキュリティとユーザビリティは相反する面もありますので、そのバランスを保つのに苦労しています」と付け加える。

 

全体スケジュール

Story

プロジェクトを推進する上での課題

想定脅威のシナリオ、優先業務の選定がICT-BCP策定の方向性を決める

 ICT-BCPの策定における事前調査・分析で大切なのは、「想定脅威の検討」と「ビジネスインパクト分析」「リスク分析」である。
 「想定脅威の検討」では、あらゆる自然災害、事故災害のうち、三鷹市の地勢、人口、交通、施設・設備に加え、過去の災害状況等も考慮して、今後、発生可能性が高く、三鷹市にとって何が脅威となるかが検討された。
 その結果、震災、風水害、セキュリティインシデント(システム障害や侵入など)、感染症の4つを脅威と判断し、その脅威が発生した場合のシナリオが策定された。
 次に「ビジネスインパクト分析」、“非常時の優先業務”の選定である。ICT-BCPでは、災害時業務および非災害時業務に対してそれぞれ優先度を設定した上で、“非常時の優先業務”を選定する必要がある。そして、選定された“非常時の優先業務”を実施するにあたり、情報システムが必要不可欠な場合、そのシステムを「優先システム」として定義する。また、優先システムは、システムの基盤となる「インフラシステム」と、各業務の実施に利用している「個別業務システム」に分類し、「災害時」と「非災害時」でそれぞれ活用できる資源が異なることに着目しながら、特に「インフラシステム」については、早期復旧が必要となるシステム機能が精査された。
 ABeam社会基盤・サービス統括事業部パブリックセクター・マネージャーの秋山竜彦は「重要なのは、脅威が発生した際に限られた資源の中で、何を優先業務と判断し、それを継続するためのシステムを、どのような優先順位で復旧し確保していくか、を取り決めることです。これは、ICT-BCP計画の全体に大きな影響を及ぼす重要な作業であり、見極めには綿密な分析が必要です」と語る。

Story

課題解決のソリューション

全庁を巻き込んで、リスクの可視化に取り組む

 優先業務の選定と業務が停止した場合の影響度の特定については、全庁業務を対象に調査する必要があった。
 三鷹市企画部情報推進課課長補佐の土合成幸氏は、「行政は縦割りのイメージがありますが、このICT-BCPの策定については、全庁を巻き込んで行わなければなりません。現場の職員はICTBCP策定という初めての経験にも関わらず非常に協力的であり、全庁的な災害に対する危機意識は高いと感じました。優先度の特定については、人命・財産の保護、社会的な影響、市民サービスやコンプライアンスの面からも検討しました。大変な作業でしたが、ABeamのノウハウがあったので、当初予想したよりはスムーズに進めることができました」と語る。
 ABeamプロセス&テクノロジー事業部インダストリーソリューションズセクター・シニアコンサルタントの小泉拓也は、「誰が、どのシステムを使い、どのような業務をしているか、そのすべてを洗い出すために、まずはアンケートで概要を調査した後、業務主管課ごとにヒアリングを行いました。また、ベンダー(システム構築事業者)に対しても同様の手法で実施しました。これらは、全庁を対象とすることに加え、計画策定のベースとなる重要な工程であるため、約3カ月掛けて綿密に分析を行いました」とその業務可視化プロセスについて説明する。
 三鷹市企画部情報推進課主査の丸山真明氏は、「本市における情報システムの最終的な復旧については、各システムのベンダーに来庁してもらい復旧してもらうことになります。しかし、今回の東日本大震災でも経験しましたが、災害時には携帯電話は繋がりにくく、連絡がつかないという盲点がありました。固定・携帯電話よりはWEBの方が繋がりやすいこともわかりました。現在、三鷹市の「ポキネット」を災害時の連絡手段として活用できないか、検討しています」とリスク対応を語る。

 

ICT-BCP策定の効果

Story

導入効果と今後の展望

ICT-BCPは生き物、運用マネジメントでブラッシュアップする

 リスクの分析が終われば、いよいよ行動手順の作成に入る。脅威が発生した場合、「誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように行うか」を明確にし、職員が実際に復旧に向けた行動を取ることができる手順を策定するのだ。これにより、復旧時間や復旧レベルを定量的に算出しつつ、どの情報システムを、いつまでに、どの程度まで復旧させるかという目標値が確定する。時には、想定シナリオに立ち返り“本当にこのシナリオでいいのか”、この状況下でどこまで冷静に行動できるのかを考え直した。基準や視点が変れば行動手順も変ってくる。その後、後藤氏が最も大切だというICT-BCPの運用要項の作成に入る。これは、「リスク分析実施手順書」、「リスク対策実施手順書」から構成される。さらに、3月末の納品を控えて起こった東日本大震災は、職員のBCPへの意識をさらに高める結果となった。突然の計画停電の対応等、完成間近であったICT-BCPが有効に機能した部分はかなり大きいが、予想以上に電話が繋がりにくいなど、震災のおかげであらわになったリスクもあった。三鷹市庁舎では大きな被害はなかったものの、新たにわかったリスクはそれぞれ課題として改めて認識され検討が進められた。
 こうして約1年をかけ、三鷹市のICT-BCPは2011年3月末に完成した。
 しかし、後藤氏は今後のマネジメントこそ重要だ、という。「ICT-BCPは完成したわけではありません。これから運用して初めて成果が問われるもの。私は、ICT-BCPは生き物だと思っています。実効性のあるものにしていくためには、今後もブラッシュアップしていかなければならない。優先業務も時代や環境の変化で変ってくる可能性があります。ICT-BCPは、動的な計画です。その時々で絶えず変化し適合していく必要があるのです」(後藤氏)。ICT-BCPの策定後、いかにPDCAサイクルでチェックを行い、実際の運用で進化させていくかが大切なのである。
 その後、5月には現場教育の実施、6月・7月には内容のチェック、8月には改訂作業、12月には現場訓練と続く。また、今夏、計画停電は実施されなかったが、実施されたとしても準備は十分にできていたという。
 三鷹市は、人口約18万人、職員が約1,000人。行政規模としては大きい方ではないが、平均的な規模でもある。したがって今回の三鷹市のICT-BCPは、多くの自治体にとって、よいモデルとなるだろう。実際に策定以来、多くの視察・研修の申し込み対応に追われているという。市民としては、災害時には行政の復旧・復興に頼るしかないことも多い。ひとつでも多くの自治体が、実効性のあるICT-BCPを策定することを願ってやまない。

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