総合商社大手の三菱商事株式会社。同社はグローバルレベルで激変するビジネス環境に晒されているリスクマネーとそのヘッジ策を適時・適切に管理するためのカントリーリスク管理システム「リスクエクスポージャーシステム(RES)」をアビームと共にローコードプラットフォーム(LCP)を活用し再構築。現場業務の実務負担の軽減、正確性・迅速性の向上を実現させた。将来の環境変化にも柔軟に適応可能とするだけでなく、IT・デジタルによる業務高度化という観点でも大きな前進となった。
総合商社大手の三菱商事株式会社。同社はグローバルレベルで激変するビジネス環境に晒されているリスクマネーとそのヘッジ策を適時・適切に管理するためのカントリーリスク管理システム「リスクエクスポージャーシステム(RES)」をアビームと共にローコードプラットフォーム(LCP)を活用し再構築。現場業務の実務負担の軽減、正確性・迅速性の向上を実現させた。将来の環境変化にも柔軟に適応可能とするだけでなく、IT・デジタルによる業務高度化という観点でも大きな前進となった。
経営/事業上の課題
課題解決に向けたアビームの支援概要
支援の成果
三菱商事株式会社(以下、三菱商事)は、世界90余りの国・地域に広がる拠点と約1,700の連結事業会社と共に事業を進める総合商社である。天然ガス、総合素材、石油・化学ソリューション、金属資源、産業インフラ、自動車・モビリティ、食品産業、コンシューマー産業、電力ソリューション、複合都市開発の10グループに産業DX部門を加えた体制で、あらゆる産業領域において、貿易のみならず、世界中の現場で開発や生産・製造などの役割をパートナーと共に担っている。
三菱商事は、2022年度からの3カ年の新しい経営の指針として「中期経営戦略2024 MC Shared Value(共創価値)の創出」を打ち出した。その目標は、あらゆる産業知見とグローバルネットワークを駆使したインテリジェンスを有機的に「つなげ」・「つながる」ことによる、グループの総合力の最大化だ。
「昨今のビジネス環境では、一つの国の事象がグローバルレベルで波及していきます。その変化を予見し、適切に対応するため、三菱商事では各拠点に蓄積されている様々な情報を効率的に吸い上げて、事業経営や営業活動に役立てるグローバルインテリジェンス機能の一層の強化を目指しています」と三菱商事 グローバルリスク総括部カントリーリスク管理チーム マネージャーの鈴木 崇之氏は語る。
三菱商事では、ビジネスを展開している国ごとのリスクマネーやそのヘッジ策を管理するために、リスクエクスポージャーシステム(RES)を運用してきた。しかし、システムの老朽化や属人化が進み、外部環境の変化に対応しづらくなっていた。そんな中、全社IT施策として、今まで利用してきたプラットフォームから2022年3月末までにクラウドへの移行が必要になった。
「クラウドへの移行を絶好の機会と捉え、営業部門などの利用部局、主管部局であるグローバルリスク総括部双方の実務の負担軽減を検討しました。また、集計作業の正確性や迅速性も向上させるシステムとして再構築し、カントリーリスク管理基盤の強化を図ることにしました」と三菱商事 グローバルリスク総括部 カントリーリスク管理チーム マネージャーの松原 由布子氏は説明する。
三菱商事では、カントリーリスクに晒されているエクスポージャーの実績把握のため、年2回、1000人規模の利用部局のユーザーが数営業日でリスクマネーやそのヘッジ策を入力、その入力にもとづいてグローバルリスク総括部が数営業日で集計・分析するという調査業務を行っている。
「IT部門から見ても、いくつものシステムからデータを集めて、10万行に上るExcelデータを数営業日で集計するのは負荷が高いと思いました。しかも複雑な業務を特定の担当者が実施しています。サステナブルに業務を継続していくためにはIT・デジタルによって業務負荷の軽減と属人化を解消する必要があると感じました」と三菱商事 ITサービス部 コーポレートシステムチーム マネージャーの古志 豪克氏は振り返る。
今までのRESでは入力データの集計に時間をとられてしまい、集計結果を基にしたリスク分析などの本来注力すべき業務に十分な時間を割くことができない状態だった。そこで集計作業を自動化すると共に、カントリーリスクそのものが大きく変化する可能性を想定して、システムの柔軟性と拡張性も確保し、持続的に業務を支えるシステムにすることにした。加えて、利用部局に過度な負担をかけずに通常業務に注力できるよう、できるだけ簡便、効率的に入力できるようにすることも計画した。
三菱商事は計画を実現できるパートナーを選定すべく複数社からの提案を受け、比較検討した結果、アビームに決めた。
「クラウド移行の期限が迫る中、コスト・スケジュールが合う提案を探すことに苦慮していました。その中で、LCPを活用した超高速開発コンサルティングによって、業務改善要件がプロトタイプに反映されて早い段階で動く画面を確認することができ、期限内にすべての要件を実現するというアビームの提案はとても優れたものでした。しかも将来の柔軟性・拡張性も担保されていました。また、最後まで主軸となるコンサルタントが伴走してくれることも安心材料となりました」(松原氏)
「LCP活用は他社の提案にはなく、三菱商事も十分な経験がありませんでしたが、アビームとは2000年初頭からの長い関係にありました。基幹システムも含めた三菱商事グループの様々な案件に関与しており、RES再構築の目的や業務要件も理解していたことから信頼に足るパートナーと評価しました」(古志氏)
RES再構築プロジェクトは、アビームの提案で、ウォーターフォールを基本とした堅実な開発スケジュールの中にアジャイルアプローチを組み入れた形にした。具体的には要件定義工程からプロトタイプによるレビューを繰り返し、グローバルリスク総括部・アビーム間の認識を実物ベースで合わせ、文字情報では伝えきれないニュアンスを含む要件を確実に取り込んでいった。また、従来のスクラッチ開発のような工程ごとのメンバー入れ替えを行わず、業務・システムを理解したアビームのコンサルタントを継続的にアサインし、開発品質の維持・向上に努めた。
「グローバルリスク総括部とアビーム、そしてITサービス部の3者がそれぞれの役割を理解して、コミュニケーションをとり、適切にサポートし合いながら、プロジェクトを効果的・効率的に進めることができました。LCPによる超高速開発は新しいアプローチでしたが、要件定義段階で動く画面を確認することができたので、グローバルリスク総括部との信頼感も醸成されていました。そうしたことから、本プロジェクトはスムーズに進むだろうと判断しました」(古志氏)。
一般に、アジャイル開発ではドキュメントを作成しないというベンダーもある。しかし、今回のプロジェクトでは利用者の規模や利便性を踏まえ、ドキュメントを価値のある成果物であると共通認識を持ち、必要十分な内容・点数を精査し整備していった。
プロジェクトでは、要件定義段階ではなかった新たな要望もアジャイルアプローチで柔軟に取込みながら開発を進めていった。開発期間中にグローバルリスク総括部の繁忙期が重なり情報伝達が不十分となったことで、関係者間で認識のズレが発生したこともあった。そのため後半の受入テスト序盤で不具合が生じたが、アビームが俊敏に原因を分析、効果的な対策を立案・実行した。
「どんなプロジェクトでも往々にして問題は起こります。重要なのはその後の対応力です。今回、アビームは冷静な分析と高いリカバリー力を発揮し、遅延させることなくプロジェクトを進めてくれました。表面的なシステム仕様に留まらず、業務や課題の本質に踏みこみ、できない理由を探すのではなく、実現に向けて柔軟に対応していく。その前向きな姿勢はとても安心感がありました。まさにアビームの強みを実感しました」(鈴木氏)。
LCPを活用した超高速開発コンサルティングの特徴
再構築したRESは計画通り2022年4月に稼働を開始した。従来はシステムの制約上、システム外での集計が中心であったことから、細かな調整や割り切りが必要だった。新しいRESでは多数のデータをシステムで自動集計することができ、数値の精度が向上し、作業負荷も大きく削減された。
「集計数値の算出や入力チェックの結果がワンクリックするだけで出力され、期待以上の簡便さに驚いています。新しいRESを利用した業務に慣れていくにつれて、集計にかかる時間は以前のシステムに比べて少なくなり、本来注力すべきリスク分析業務に時間が使えるようになります」(松原氏)。
「利用部局からも『これまで機能が限定されていてやむなく割り切りっていたが、とても入力しやすくなった』『システムのレスポンスも非常によく、使いやすい』など評判も上々です。今後、事業経営や営業活動などに活用できるデータを提供していくため、アビームと共に本質的な議論を重ねていきたいと考えています」(鈴木氏)。
これからも内外の環境変化によってリスク管理や業務のあり方が大きく変化することは確実だ。グローバルリスク総括部ではRESの柔軟性や拡張性を生かして、必要な機能や対象範囲の拡充を進め、グローバルインテリジェンス機能の一層の強化を行っていく。
「三菱商事におけるIT・デジタル化の点で今回の取組みは重要な領域であり、大きな前進となりました。アビームは野心的で前向きな提案内容を確実に実現してくれました。また、リスク管理のプロであるグローバルリスク総括部の担当者とも業務についてディスカッションができ、コンサルティングファームとしての力を実感しました」(古志氏)。
ITサービス部では、今後、社内の様々なシステムの更改・刷新を進めていく。そんな中、より深刻化していくITリソース枯渇の解決策として、また業務部門の負担を軽減する先進事例として、今回のLCPを活用したRES再構築のノウハウを部内に組み込み、展開していく。その先にあるのは、ビジネス環境の変化に柔軟に対応できるシステム構築の推進である。
今後、外部環境の変化は激しくなり、カントリーリスクへの対応はますます重要になっていきます。必要となるRESの機能拡張にアビームと一緒に取り組んでいきます
三菱商事株式会社
グローバルリスク総括部
カントリーリスク管理チーム
マネージャー
松原由布子氏
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