2019年9月、T-CASと名付けられた人事情報システムが完成し、目標管理、人材中期計画の順に、運用を開始した。運用開始後、社員から「使いやすい」「シンプル」「やっと最先端のツールが導入された」「管理が楽」という意見がある一方、年配の社員からは、「使いにくい」「エクセルのほうがよかった」という声もあったという。導入当初は初歩的な質問も含め1日100件を超す問い合わせが1カ月以上、人事部とシステム部門に寄せられた。
また、運用開始後のトラブル対応や安定運用の実現にも試行錯誤が必要だった。リリース直後には開発中に想定していなかったトラブルが発生することがあり、ミニマムな改善を繰り返しながら、より良いシステムを作り上げていった。「アビームコンサルティングは運用開始後の保守対応も担当しており、東レだけでは解決策が見いだせないトラブルに対するアドバイスや解決に必要な作業を担ってもらい、大変助かりました」(柳井氏)。
T-CASの導入は、東レの人事情報システムにおいて大きな転換点であり、2つの点で評価することができる。1つは人事情報というセンシティブなデータをクラウド上で管理するという前例を作ることができたこと。従来、情報セキュリティの観点から保守的な判断をしてきた面もあったが、クラウドで管理するようになったことは情報セキュリティの観点からも大きな前進であり、他本部・部門での導入も進むと考えている。
もう1つは先進的なシステムを導入し、先行企業に並ぶことができたことだ。T-CAS導入に関して、若手社員から比較的高い評価を得ることが多い。職場のIT環境は、デジタルネイティブ世代である若手社員のモチベーションの源泉になるポイントであり、目標管理などをエクセルと紙で運用する状況から脱却できたのは、エンゲージメント向上の観点からも大きな意義があった。
現在、東レでは基幹人材の育成に関する基本的考え方を再構築するために、重複した制度の統廃合や各制度の趣旨の徹底に取り組んでいる。その実現のための人事情報基盤としてT-CASを最大限活用することで、スピーディーに対応することができる。