現在、世界65カ国に約130の拠点を有する伊藤忠商事。事業投資拡大にあわせ、経営人材・経営管理人材の育成プログラムを開発するにあたり、パートナーに選んだのは、アビームコンサルティングだった。
現在、世界65カ国に約130の拠点を有する伊藤忠商事。事業投資拡大にあわせ、経営人材・経営管理人材の育成プログラムを開発するにあたり、パートナーに選んだのは、アビームコンサルティングだった。
経営/事業上の課題
課題解決に向けたアビームの支援概要
支援の成果
創業以来150年以上、伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)は、「先見性」「誠実」「多様性」「情熱」「挑戦」からなる「ITOCHU Values(伊藤忠の価値観)」を基本的な価値観として受け継いできた。今日では、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、保険、物流、建設、金融の分野において、幅広いビジネスを展開している。商流の中間に位置し、需要と供給を繋げるトレード取引の拡大に加え、近年では国内外における事業会社への投資を通じて新たな成長領域に進出している。
たとえば2012年12月には、米国ドール社のアジア青果物事業およびグローバル加工食品事業を買収するなど、伊藤忠商事として大型の事業投資案件が相次いだ。これに伴い、営業部門が財経部門に対し事業会社の経営を管理できる人材(経営管理人材)の派遣を要請するケースが増えてきた。しかし、団塊世代の定年退職と時期が重なったこともあり、財経部門から事業会社への人材派遣には、事業規模や重要性などに応じて優先順位を付けざるを得ず、人員の不足感に拍車がかかっていった。
さらに連結事業経営主体に移行する中で、新会計基準への対応や、投資スキームの多様化に伴うガバナンスの高度化が必要となってきた。投資先のリスク管理や収益確保の担い手として、将来の伊藤忠ビジネスの根幹をなす経営管理人材の早期育成が急務となった。
そこで計数情報の成り立ちを理解するとともに、数字から経営課題を発見し、改善に向けた行動計画につなげることで、精度の高い経営管理を実現する手法を、演習により学ぶことを目的とした「経営人材・経営管理人材育成プロジェクト」がスタートした。
経営人材・経営管理人材育成プロジェクトは、営業現場における日常の経理処理や月次、期末決算の処理のみならず、伊藤忠商事の事業活動を貫く共通のルールや思想を実務に即した体験を通じて実感し身につけることを目指している。
そのためには、単に会計や税務などの一般的な経理知識を一方的に講義するような既存の量販型の研修では不足している。既存の枠組みを超え、伊藤忠商事の営業現場・投資の実務を反映し、成功・失敗の疑似体験を組み合わせたこれまでにない総合的なプログラムが必要となる。
加藤氏は、「監査法人を含む何社かのの提案を検討しましたが、アビームコンサルティングが、もっとも伊藤忠商事の現場実務に対する広く、深い知識を持っており、実践的な育成プログラム開発が期待できた」と語る。
また河崎氏は、「2005年~2006年の期間、アビームコンサルティングの支援で実施していた伊藤忠商事の“業務改革プロジェクト”に参加していました。このプロジェクトでは、商社の現場業務を詳細に見えるかする必要がありましたが、アビームコンサルティングは、当時から高い業務分析スキルで伊藤忠商事のビジネスを理解していったことも大きな評価ポイントでした」と話している。
経営人材・経営管理人材育成プロジェクトを、中心となって推進したのは伊藤忠人事総務サービス 株式会社(以下、伊藤忠人事総務サービス)である。
専務取締役の加藤久尚氏は、「安全、確実、効率、信頼をモットーに、人事関連業務、人材開発・研修業務などを通じて、伊藤忠グループの経営合理化や付加価値創出に貢献しています」と語る。
伊藤忠商事では、職能マインドを醸成する目的で、営業部門の若手社員を短期間、法務部や監査部といった職能部門に配属する職能インターンを実施している。しかし財経部門では、数字を極めて慎重に扱う必要があるため、大勢の若手営業担当者を受け入れる体制を確立することは困難だった。
伊藤忠人事総務サービス グローバル人材開発部 研修第一課長の河崎 崇氏は、
「もっと多くの営業担当者により実践的な経営管理の知識を勉強させたいという思いがありました。従って、座学で学ぶだけではなく、業務経験に通じる実務的なプログラムにするにはどうすればいいのかが育成プログラムを開発する上で、最大のポイントでした」と当時を振り返る。
また、この育成プログラムは、経営人材・経営管理人材に求められる財経リテラシーを、若手の営業担当者が習得することを目的としている。経理・財務の専門家ではない、日々の業務で多忙な営業担当者をいかに引き付け、集中してプログラムに取り組んでもらうか、その工夫もプロジェクトの課題であった。
経営人材・経営管理人材育成プログラムの開発は、目指すべき人材像・保有すべきスキルセットを定義することから始まった。多種多様なビジネスをグローバルに展開する商社人材が、共通して求められる経営管理スキルとは何か。目指すべき営業人材像の実現に全社共通の育成プログラムがどのように貢献できるのか。
営業現場での経営管理の経験者へのインタビューや、各部門へのヒアリング結果を基に、伊藤忠商事、伊藤忠人事総務サービス、アビームの3者でミーティングを重ね、徐々に育成プログラムの輪郭を描き出していった。
その結果、経営管理を行う若手商社人材には、本社で事業会社のモニタリングに携わる段階と、投資先に出向して現場で経営管理を担う段階の2つの転換点が存在することが判明した。そこで、それぞれの転換点までに備えておきたい基盤を整えるため、「基礎編」と「応用編」の2つのコースを開発する方針を決定した。
基礎編は、「営業経理」を学ぶプロセスと、「決算処理」を学ぶプロセスの2つで構成され、最後に総合演習が実施される全10日間のコース。基礎編で目指すのは、営業活動が数字に与える影響を理解し、基本的な経理のルールに照らして、異常値や不整合を発見できるようになることである。
一方、応用編は、基礎編で読めるようになった会社の数字をいかに事業管理・事業投資に活用するかが最大の目的。伊藤忠商事がどのようなポリシーで出資や撤退を決めるかという知識や、会社のルールなどを学ぶ゙「事業投資」のパートと、計数に基づいて経営を管理するための経営計画の立案や予算・実績管理のセオリーやポイントなどを学ぶ「事業管理」のパートで構成される全6.5日間のコースである。
演習では、ある商品の販売戦略を立案すると、市場環境を反映して、どれだけ売れたのかといった数字がアウトプットされるツールを利用。結果数字を見ながら戦略立案や経営管理の手法を学ぶ。
河崎氏は、「期間が比較的長く、堅いテーマが多いので、忙しい営業担当者にいかに受講の動機付けをするかが重要でした」と語る。
そこで、受講生が集中力を維持できる工夫を徹底した。例えば、一方的な講義を減らして演習を多く設定するとともに、営業現場を離れ、受講者同士のネットワーキング形成効果も期待できる宿泊プログラムを実施する、個人の理解度に応じたフォローを行う、成績優秀者を社内報に掲載するなどの施策である。1回のトレーニングには約30名が参加。開始から約1年半で延べ180名が受講している。
経営人材・経営管理人材育成プログラムの終盤には、理解度を測定するための総合演習を実施しているが、受講者全員が合格点を取得している。また知識の習得だけでなく、実際に処理や判断を伴う疑似体験を盛り込むことで、インターンシップに変わる育成プログラムとして機能している。
加藤氏は、「育成プログラム用マテリアルの作成プロセスにおいて、営業現場のOJTで教えられてきた経営管理の知識を体系的に形式知化することができたのは画期的でした。こうした育成プログラムを実施しているのは伊藤忠商事だけであり、他社との差別化においても有効であると評価しています」と語る。
実際の育成プログラムでは、リスク管理部門や財経部門の先輩社員も参画し、講義の補足、質疑応答、社内での処理方法の解説や体験談を紹介するなど、リアリティの向上にも取り組んでいる。
また、先輩社員と受講者の活発なコミュニケーションを通じて、受講者の意識改革も期待できる。
アンケートでも、ほぼ全ての受講者が非常に満足・満足と回答。「これまでの現場では、断片的だった知識の点と点が線でつながった」「営業現場で必要な基礎知識を体系的に学ぶことができた。会社の若手には全員受講させるべき」といったコメントも多数あった。
加藤氏は、「伊藤忠商事の人事担当者からも、“受講者からとても良いプログラムだったと報告を受けています。このような報告を受けることはほかにあまり例がありません”というフィードバックを得ており、全般的に好評と捉えています」と話している。
今後、伊藤忠人事総務サービスでは、経営人材・経営管理人材育成プロジェクトをグループ企業にも展開していくことを検討している。
加藤氏は、「伊藤忠商事の哲学や思想をグループ企業に伝播していくこともわれわれのミッションの1つです。その一環として、将来的に育成プログラムをグループ企業にも展開できればと思っています」と語る。
一方、河崎氏は、「育成プログラムを受講した社員が、正しい知識を習得し、現場に戻って、次の新入社員を指導するという体系が確立されることを今後の成果として期待しています。また、現場での指導や実践と育成プログラムの相乗効果が生まれることも期待しています」と話す。
伊藤忠商事は、本プログラムを長期的に継続する方針である。
加藤氏は、「アビームコンサルティングには、引き続き初心を忘れず、一緒にプロジェクトを推進してもらえることを期待しています」と話している。
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2017年1月1日
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