ヘルスケア

企業には持続可能な社会への貢献と価値向上の両立が求められています。中でも製薬企業をはじめとするヘルスケア業界はSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」の実現に向け、医薬品アクセス向上や革新的新薬の創出、気候変動対応などを重要マテリアリティに掲げ、具体的な目標設定や達成度評価、裏付けとなるESGデータ公開を積極的に進めています。

今後はこれらの開示に留まらず、各活動が企業価値にどう影響するかの関連性実証、さらには10～20年後の未来を見据えた社会課題解決と価値向上への道筋を具体的に示し活動することがより一層求められていくでしょう。例えば、医薬品アクセス向上の取り組みでは、地域の制約なく、必要な時・必要な人に・必要な医療が届く社会を実現する挑戦を戦略へと組み込み、企業の社会的／経済的価値両立を目指す「サステナビリティ経営」の推進が必要です。

その過程では、活動の及ぼす社会的・環境的影響を金銭換算する「インパクト会計」の実践による社会的価値の可視化、さらには活動の中核を担う人材にフォーカスし中長期的な価値創造を目指す「人的資本経営」といった取り組みも期待されます。

このように企業は、果たすべき使命のもとで社会課題解決を目指した取り組みを自らの戦略に組み込み活動を推進して、その社会的インパクトを可視化し積極的に開示することで、ステークホルダーとの共創を進め、成果を次の打ち手へと反映し続けることが重要です。

医薬品の安定供給と安全性の確保は、人々の生命や健康に直結する医薬品を取り扱うヘルスケア業界にとって、最も重要な使命の一つです。これまでも安定供給に十分留意した調達・供給網が構築されてきましたが、世界の地政学リスクが高まる中で、柔軟性を備えたグローバルサプライチェーンのリスク対応は喫緊の課題です。さらに、医薬品市場のグローバル化にともなう偽造薬混入や流通過程での品質劣化や盗難防止に向け、製造から医療機関へ納入されるまでのトレーサビリティの確保が強く求められています。

また、CDMO（Contract Development and Manufacturing Organization／医薬品開発製造受託機関）と呼ばれる製剤研究・治験薬製造などを担うビジネスプレーヤーとの連携、既存の枠組みを超えた新たな付加価値の創出も期待されています。

このような状況に対応するため、ヘルスケア業界では、複雑化・細分化されてしまったサプライチェーン全体を再考し、安全かつ柔軟性を兼ね備えた包括的なサプライチェーンの構築に加え、デジタルツイン、AIなどのデジタル技術を活用することで、より強固な事業基盤を整備、研究開発から製造、販売までの一連の業務プロセスを高度化する取り組みが重要となっています。さらには、人々の健康を支えるため、予防・未病段階での取り組みがより重視される中、企業を跨いだデータ共有や活用促進といった既存の組織やバリューチェーンを超えた新たな取り組みへの発展も期待されます。