九州・沖縄の翼として展開するソラシドエア。同社はインターネットでの販売力向上に向けて、アビームコンサルティングをパートナーにデジタルマーケティングへの取り組みを強化することにした。さまざまなシステムに分散するデータとホームページアクセスデータをデジタルマーケティングプラットフォームに統合することで、搭乗客のデータの可視化と、顧客が求める価値を意識したマーケティング施策が実行できるようになった。
九州・沖縄の翼として展開するソラシドエア。同社はインターネットでの販売力向上に向けて、アビームコンサルティングをパートナーにデジタルマーケティングへの取り組みを強化することにした。さまざまなシステムに分散するデータとホームページアクセスデータをデジタルマーケティングプラットフォームに統合することで、搭乗客のデータの可視化と、顧客が求める価値を意識したマーケティング施策が実行できるようになった。
経営/事業上の課題
課題解決に向けたアビームの支援概要
支援の成果
ソラシドエアは、1997年に設立された宮崎県宮崎市に本社を置く「九州・沖縄の翼」として、地域に根ざしたエアライン事業を展開する航空会社である。同社は「空から笑顔の種をまく。」をブランドコンセプトにして、安全運航を第一に、サービス品質の向上、ネットワークの充実、地域活動の振興、そしてこれらを支える人材の育成に取り組んでいる。
2021年3月には長年の悲願であった東京(羽田)―沖縄(那覇)線の新規就航を実現、同年3月28日時点での運航は東京(羽田)―宮崎の1日12便を筆頭に、東京(羽田)―熊本、東京(羽田)―長崎、東京(羽田)ー鹿児島、東京(羽田)―大分など、14路線1日78便だ。インターネットやスマートフォンの利用が一般化し、幅広い世代の購買行動のデジタル化が加速する中で、インターネットで航空券を販売するLCC(格安航空会社)やオンラインだけで取引する旅行会社(OTA)が台頭。ソラシドエアでも、個人向けの航空券の大半がインターネットで販売されるようになっている中で、同社では営業の主戦場はインターネットであると認識。チャレンジングな販売目標達成のため、従来取り組みが弱かったデジタルマーケティングを強化し、デジタル上での競争力を向上させることにした。
「これまで、マイレージ会員、予約、搭乗実績と個別にシステムを構築してきたので、それぞれのデータがバラバラに管理されていました。そこで、データに横串を通して一元的に管理し、マーケティングに活用できるようにするデジタルマーケティングプラットフォームが必要だと考えました」とソラシドエア営業本部営業部セールスマーケティング課マネジャー大野耕司氏は語る。
ソラシドエアでは、デジタルプラットフォーム構築を決める前に、アビームコンサルティングに営業活動全体のアセスメント(評価)を依頼していた。アセスメントに当たっては複数のコンサルティング会社が候補に挙がった、航空業界に関する知見があり、他の航空会社でも実績があったことから、アビームを選んだ。そして、アビームが営業活動におけるターゲティングやマーケティングなどの評価を行い、その結果から複数の注力するべきテーマを抽出、そのひとつがデジタルマーケティングプラットフォームの構築だった。
デジタルマーケティングプロジェクトでもアビームを選んだのはアセスメントの経験からソラシドエアについてよく理解していることだった。「会社の規模や社員のマインド、ターゲット層を理解した上で、お客様データの収集・蓄積からターゲティング、コミュニケーション実行や分析までのグランドデザインを描くことができると判断しました」(大野氏)。
ソラシドエアでは、航空券を自社サイト、コールセンター、旅行代理店で販売しているが、セールスマーケティング課は自社サイトでの販売力強化が主な業務だ。そこでプロジェクトでは、マイレージ会員管理、予約管理、搭乗実績管理の各データベースのデータを名寄せして、マイレージ会員/非会員を問わず、顧客の予約から搭乗までを一貫して見ることができるようにするとともに、自社サイトを分析し、顧客がどのようにウェブサイトを見ているかもつかむことを計画した。
これらを通して、ウェブサイトや各データベースの顧客をひとりの顧客として捉え、その求めるものを求めるタイミングで提供できるようにすることを目指した。それに対応して、マイレージ担当、サイト分析担当、予約管理担当と別々になっている社内の体制も見直すことを計画した。「従来、販売戦略は搭乗実績を基に立てるため、その担当者はひとりのお客様を予約段階までさかのぼって見ることができませんでした。
それが販売戦略を立てる上でも問題になっていたので、全体を通して見ることができるようにすることで、最適な販売戦略の立案も可能になると考えました」とソラシドエア営業本部営業部セールスマーケティング課マネジャー原留美子氏は説明する。
デジタルマーケティングの最大のメリットは、実施したマーケティング施策に対する効果測定ができることにある。これまでソラシドエアはデジタル領域のマーケティングに取り組み、アクセスログデータとして集客やコンバージョンの測定を行ってはいたものの、具体的な施策や対策を講じることができていなかった。
今回のプロジェクトではデジタルマーケティングプラットフォームを構築して、全体を見渡して、顧客に適切なタイミングで最適な価値を訴求できているかどうか、顧客の反応を測定して、リアルタイムにマーケティング施策をチューニングできるようにすることが最大の目的だった。
プロジェクトで最も苦心したのが顧客像や顧客経験を想像し、顧客が求める価値の神髄を考えることだった。「以前、私はグラウンドスタッフ(地上勤務職員)だったので、搭乗するお客様の雰囲気はなんとなく分かっていました。ただ今回のプロジェクトでは色々なお客様がいることを理解した上で、ひとりのお客様を想像し、カスタマージャーニーを描き出さなくてはいけません。搭乗するお客様が持っている背景について、プロジェクトメンバーと徹底的に話し合い、アビームの助けも借りながら、ひとつの流れを作り出すことができて本当によかったと思います」とソラシドエア営業本部営業部セールスマーケティング課桜井里奈氏は振り返る。
ソラシドエアでは、プロジェクトを主導して進めてきた経験がないため、どうしてもツールで何ができるのかに意識が向きがちだ。それに対して、アビームはソラシドエアがやりたいこと、やるべきことは何なのか考えるべきだと進言し、軌道修正を図るかたちでサポートした。これによって、プロジェクトメンバーは顧客に提供すべき価値を常に考える思考を定着させ、デジタルマーケティング活動のベースを得ることができた。
2020年3月に運用を開始したデジタルマーケティングプラットフォームは、マイレージ会員データ、予約実績、搭乗実績、そしてウェブアクセスログデータを名寄せする。そして、顧客を一意に特定し、セグメンテーションを実現。その情報を基に、ネット広告やマイレージ会員を含む顧客向けコミュニケーションを効果・効率の観点で最適化して実行する。
「ウェブサイトのアクセス分析を担当していますが、トップページにアクセスするお客様について深掘りできるようになりました。またトップページアクセス後にどのページに移動するか、移動してほしいページにアクセスしているかなども可視化できるようになりました。その中で、お客様が今どういう状態でいらっしゃるのか、お客様の課題は何かが見えるようになっていて、毎日大きな手応えを感じています」(桜井氏)。
2021年8月現在、デジタルマーケティングプラットフォームは安定的に運用されており、その仕組みを有効に活用していく新しいフェーズに入りつつある。そこでは航空券の予約や購入など実績ベースでの分析に加えて、ウェブサイトへの流入ベースの行動分析ができるようになった。これがコロナ禍でトレンドが頻繁に変化する現在のような状況で、有効に活用できる可能性が高い。「運用が始まると、すぐに新型コロナウイルスの感染が拡大し、その状況に合わせて、スピード感を持ったプロモーションの展開が求められるようになりました。コロナ禍の状況ですが、分析したデータをマーケティング施策に本格的に生かしていく新しい局面が始まっていると考えています」(原氏)。
ソラシドエアでは構築したデジタルマーケティングプラットフォームを土台にして、顧客の状況を把握し、最適な価値の提供とエンゲージメントにつなげ、顧客満足度を向上させるマーケティング施策を展開していく考えだ。
Customer Profile
2021年11月1日
加治 達也
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