プロジェクトはIT基盤全般の見直しと刷新を行う非常に大規模なもので、期間は約3年、関与者は最大300名以上に及ぶ。ポイントとなる工事領域の開発は開発規模が大きく、高いリスクがあるため、要件や仕様の認識の齟齬を早期に発見・解消することが重要になる。そのため、ウォーターフォール型開発ではなく、Enterprise Agile開発を採用し、高品質・高生産性の確保を目指した。「ウォーターフォール型の開発では、最後のテストフェーズになった段階で大きな手戻りが発生して、本稼働が先延ばしになる可能性があります。私たちにとっても初めての経験でしたので、大きなチャレンジとなりましたが、Enterprise Agile開発であればリスクを回避しながら、完成形に確実に近づけていけるので、計画通り約3年間で稼働させることができると考えました」(古谷氏)。
「OutSystemsを利用したことで、言語やコーディングのような学習コストの高い知識の習得に時間をかけることなく、われわれの業務プロセスを理解してもらったり、そのシステム化の方法を議論したりといった本質的な部分に、より多くのリソースを割くことができました。今回、アビーム側は入社したての若手社員もプロジェクトに加わりましたが、OutSystemsを初めて使ったにもかかわらず、わずか2カ月程度で大きく成長し、第一線で活躍できるレベルの設計・開発者になりました。アビーム社員の能力が高いこともあるとは思いますが、ツールとしてベストな選択だったと思います」(高橋氏)。
反復アプローチとして、開発初期からシナリオ検証を実施して、速やかに認識違いを解消し、次の機能開発に反映させていく。しかし、今回のように画面だけでも500以上に上る大規模開発で、かつ300人以上のメンバーが関与している開発現場では、モデルとして考えたようなスムーズな連携を行うことは現実的に難しい。実際、開発当初は変更要望がうまく伝わらなかったことや、変更によってシステム不整合が発生するなど様々な問題が発生した。そこで開発期間中に振り返り期間を設けて集中的に取り組むことで、問題解決に努めた。そういったことを繰り返していく内に、メンバー間の連携を確立することができ、プロジェクトを安定的かつ確実に進めることが可能になった。「初期の段階ではつまずきもありましたが、そこで講じた改善策が後の工程で生きてきました。効率がどんどん上がっていき、品質も改善する方向に進んでいきました」(古谷氏)。
大規模プロジェクトのため、全体の進捗だけでなく、ユーザー部門と工事、会計、人事など分野ごとに会議体制を設け、管理を行った。アプリケーションも会計・人事のSAP、工事領域でのEnterprise Agile開発、DX推進基盤としてのワークフローやデータ連携基盤、ID管理、クラウドフォルダなどのミドル系ソリューションの3つの領域があり、バランスを取りながら一体的にプロジェクトを進める必要があった。「工程表は非常に複雑になり、すべてを図式化することは不可能でした。しかし、図表に表せない部分も含めて、アビームが全体を把握し、ポイントを押さえた形でプロジェクトを運営したことで、計画通り開発を進めることができました」(高橋氏)。