失われた30年を取り戻すための“真”の人的資本経営の実現に向けて、ポイントごとに全5回で解説する本シリーズ。
第3回となる今回は、人的資本経営のKGI、KPIの設定とモニタリングの方法について、人的資本経営戦略ユニット 細田 俊之が解説する。
失われた30年を取り戻すための“真”の人的資本経営の実現に向けて、ポイントごとに全5回で解説する本シリーズ。
第3回となる今回は、人的資本経営のKGI、KPIの設定とモニタリングの方法について、人的資本経営戦略ユニット 細田 俊之が解説する。
今回は、人的資本経営の目標値をどのように設定するのか、どのようにデータを集めるのか、また、収集したデータをどのように分析するのかにフォーカスしていく。
本シリーズの第2回では、人材マテリアリティ(重要課題)の特定について解説したが、マテリアリティの解決に当たって策定するKGI、KPIは、なぜ重要になってくるのだろうか。もし、数値目標が曖昧だとしたら、いわば照準が定まっていない状態で闇雲に打ち手を打つことになる。この状態では、芯を食った打ち手にはならず、目標達成がおぼつかないばかりか、人事リソースを浪費することになってしまうだろう。
一方で、KGIを定量的な数値として精度高く目標設定することにより、例えば5年後の目標からバックキャストして2年後、3年後、4年後の目標値を設定することができる。
そして目標値と現状とのギャップを明確に認識することによって、施策をこのまま続けた延長線上に達成が見えているのか、または抜本的な改革が必要なのかが見えてくる。さらに場合によっては、設定した目標自体を変える必要も出てくるだろう。KGI、KPIをより解像度高く定めることで、こうしたアクションにつなげることができる。
人的資本経営の高度化において、このように数値目標を設定することは必須だ。ただ、これまで人事領域において目標値を設定するプロセスは、必ずしも一般的に行われてきたとはいえない。もちろん従業員数や人件費、離職率などの推移には注目しており、これらに対して主に昨対比などで数値目標を定め、動向をモニタリングしてきたはずだ。
しかし、それらは現在の事業のあり方の延長線上の目標であり、現行の事業と非連続的なあり方をも模索する「事業ポートフォリオ変革」を視野に入れた事業戦略とはリンクしない。そもそも、事業戦略達成に向けた人的資本に関するKGI、KPIは、多くの企業で今まで設定されてこなかったと見ている。そのため、まず自社にとって事業戦略を達成する上で「人的資本の目標とはどのようなものか」について、十分に議論する必要がある。
では、具体的にKGI、KPIをどのように設定していくのだろうか。まずは、KGIから見ていきたい。KGIにおいては、経営戦略、事業戦略とリンクした5年先、10年先の人事領域のありたい姿を解像度高くイメージして戦略に落とし込み、その状態を定量的に表現していく。
例えば、ある地域からの採用が中心の企業であれば、毎年いかにその地域から人材を採用できるかが事業継続性の焦点になるだろう。しかし、そこで議論を終始するのではなく、企業として中期的・長期的にどうありたいのかというところまで踏み込んで議論することにより、その地域からの人材採用の意義やUターン人材の模索、雇用延長の見直し、退職者の再雇用検討など、新たな論点が見えてくる。それらの施策の是非を検討し、どのように組み合わせることが、5年後の目指す事業ポートフォリオなど、自社のありたい姿にどのようにつながっていくかを見極めて、指針を定めること。それが採用における人事戦略となる。
そして、議論の末に導き出された各施策の組み合わせを、その地域からの採用人員、Uターン人材の採用人員などの数値に落とし込んでいく。これらの目標値が、とりもなおさず事業戦略を達成するために必要な人材の数であり、自社の人材の充足率がKGIとなる。また、KGIからバックキャストして、1年後、2年後、3年後など、KGIに至るまでのマイルストーンとなる中途の指標がKPIとなる。
続いて、このKGIに対して、具体的にどういったアプローチで人材を充足していくか、第2回でも触れた「人材ポートフォリオ」に照らし合わせて説明していく(図1)。図の左側は、事業が求めるロール(職種)を示しており、横に並んでいるのは、そうした人材を必要としている部署と、供給できる部署の要員状況を可視化している。先ほど採用をベースに人材の充足を述べたが、この人材ポートフォリオを見れば、人が足りない状況に対して部内で育成するのか、他部署からの異動で調整するのかという社内における施策も見えてくる。
ここで人材充足について、別のアプローチにも触れておきたい。労働人口の減少や労働市場の流動性の高まりで、事業が求める人材の量的な確保が難しくなっていることは言うまでもないが、「生産性把握のための人材ポートフォリオ」(図2)を作成し、人材の充足状況を質的な面から可視化すると、単に人数が足りていないのか、それとも育成が足りていないかが可視化できる。これによって、KGI達成のための打ち手が、採用なのか、異動なのか、育成なのかが見えてくる。こうして人的資本充足のための施策の精度が高まっていく。
KGIが定まったところで、次にどうやって目標値に近づけていくのかについて見ていきたい。このプロセスでは、現状と目標値のギャップのモニタリングが欠かせない。具体的には、KGIとのギャップの確認と、施策の進捗状況および効果の確認がポイントとなる。これを的確に把握し、次のアクションにつなげていくことを連続的に行っていく。
ただ、日々の業務がある中で、これを人手で進めていくことには限界がある。アビームコンサルティングでは、デジタルを活用した「人的資本経営モニタリング基盤」をSaaSにて提供している(図3)。経営陣が数値目標にコミットし、それをスローガンだけに終わらせず、経営会議、取締役会議の中で進捗を確認、改善が必要であれば打ち手を検討し、引き続きモニタリングしていく。そのためのツールがこのモニタリング基盤となる。
ここまでシリーズ第3回として、KGI/KPIの策定とモニタリングプロセスについて紹介した。今回のテーマを含めて、我々が人的資本経営について執筆した『人材マテリアリティ 選択と集中による人的資本経営』では、実践のポイントや具体的な取り組み事例などを詳しく紹介している。ぜひ参考にしていただきたい。
次回は、人的資本充足において重要な要素となる、社内外への自社の魅力発信に向けた「エンプロイヤーブランディング」について掘り下げていく。
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