2023年に上場企業に対して有価証券報告書での人的資本の開示が義務化されたこともあり、人材戦略を持続的な企業価値向上に向けた経営戦略の主要テーマとして捉える企業は増加している。一方、人材に関する投資は短期的な結果を生むものばかりではなく、またその変革をリードする人材も不足している。人的資本経営を支える実効性ある人材戦略とは何か、企業の変革支援に当たるアビームコンサルティングの山田貴博代表取締役社長に聞く。
2023年に上場企業に対して有価証券報告書での人的資本の開示が義務化されたこともあり、人材戦略を持続的な企業価値向上に向けた経営戦略の主要テーマとして捉える企業は増加している。一方、人材に関する投資は短期的な結果を生むものばかりではなく、またその変革をリードする人材も不足している。人的資本経営を支える実効性ある人材戦略とは何か、企業の変革支援に当たるアビームコンサルティングの山田貴博代表取締役社長に聞く。
ビジネスを取り巻く環境が急速に変化・複雑化する中、経営戦略や事業戦略、ビジネスモデルなどの抜本的な見直しが求められている。こうした時代の要請を受け、ROIC(投下資本利益率)経営といったデジタルテクノロジーを活用した経営の高度化がすでに始まっている。また、変革の波は経営のみならず、顧客体験やサプライチェーンなど企業活動のあらゆる領域に及んでいる。
「テクノロジーは人の能力を最大限に引き出すために存在する。それなくしては変革もイノベーションも成功しない」と、アビームコンサルティング代表取締役社長の山田貴博は指摘する。テクノロジーの徹底した活用に加え、人が生み出す価値の最大化、テクノロジーと人の活用バランスの最適化が伴わなければならない。
「変革やイノベーションは、“テクノロジー”の持つ変革実現力と“人”の持つ変革リーダーシップを最大限に引き出してこそ、実現するものだからです。企業価値を高める方策としていま人的資本経営が注目されているのも、そこに理由があります」(山田)
アビームコンサルティングが考える人的資本経営とは、「経営や事業の〈ありたい姿〉を実現するために、経営戦略や事業戦略と連動した人材マテリアリティと人材戦略を策定し、人材ポートフォリオに落としたうえで、組織設計、社内労働市場づくり、人事組織の再設計等の変革を実行。その成果を経営指標として可視化・評価し、新たなアクションを策定するというPDCAを、デジタルテクノロジーの徹底的な活用により推進する。そのPDCAの実現を通じて、変革を加速する新たな企業カルチャーを醸成し、そのカルチャーが変革人材を創出していく」ことだと山田は言う。
そうした変革の基軸となる人材戦略において、対応すべき課題は山積している。人材不足から来る人材確保・育成、経営アジェンダの変化に対応した人材戦略や事業ポートフォリオと人材ポートフォリオの連動、日本式ジョブ型雇用導入、多様な専門性を受容し、活用するカルチャー変革、社員のエンゲージメントの向上、次世代経営層の発掘・育成など、いずれも解決の難度は高い。
「私が特に憂慮するのは、経営人材の圧倒的な不足です。人材育成に関しては、経営人材のサクセッションプランを作成するだけでなく、人材育成プログラムに組み込み、中長期にかつ段階的に継続性をもって取り組むべきでしょう」(山田)
人材をめぐる課題は、経営戦略や事業戦略に連動した人材戦略の策定・実行によって解決していくのが、本来のあり方である。経営サイドが、その戦略を理解して人材戦略へと落とし込めるCHRO(最高人事責任者)を指名し、経営と人事が連動してこそ、人材戦略は結実する。問題は、そうした能力を備えたCHROないし適任の人材がいるのか、だ。
「現状では、極めて少ないでしょう。仮に事業と人事の双方に通じた人材がいないのであれば、事業を理解している人材がCHROを務め、人事労務の専門家が必要に応じて事業側を巻き込みながら、人材戦略の実現を支えるという〝適材適所〟も一つの方法です。いずれにしても、人材戦略が経営戦略の一部であることを理解し、みずからどう経営に関与していくのかを意識して、戦略を実行していく能力が求められます」(山田)
アビームコンサルティングでは、今期(2020年4月)から新中期経営計画「Strategy 2027」をスタートさせた。顧客の人的資本経営や人材戦略の策定・実現を支援する立場にあることから、「我々自身が人的資本経営のリーディングカンパニーであるべき」との考えの下、経営環境の変化に対応して、新たな経営戦略と事業戦略を策定し、連動した人材マテリアリティと人材戦略を策定。今期は組織や事業について見直しを行い、次のステップとして、来期は人事制度や人材開発面に加え、変革を後押しする新たなカルチャーの醸成についても取り組んでいく。
人材領域の課題解決には、「自前主義を捨て、多様な専門性を受容・活用していくカルチャーづくり、および社員・ミドルマネジメント・経営層の行動変容とそれを促すシンプルなメッセージが不可欠」だと山田。また、「専門性を有したビジネスパートナーとの連携」と「自社内のタレントの把握・活用」も欠かせない。最近は人材不足を補う手段として、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を導入する企業も増えてきてはいるが、「業務の丸投げは意味がない」(山田)。実際、同社では「共創型アウトソーシング」を全面に打ち出している。
「我々は変革実現を目的とした『共創』を意識しています。これはお客様に寄り添い、経営戦略や事業戦略、成長戦略、人事戦略の実行上の課題をしっかり把握したうえで、多様な変革の提案をしていくことを意味しています。さまざまな変革を支援する際は、我々とともにプロジェクトを経験していただくことで、お客様の社員の成長や変革をも促します。日本やアジアの多様な文化や商習慣を理解した日本発のコンサルティング会社のよさを活かしつつ、まずはお客様の成長や成功を優先し、その変革の中でお客様やアビームの社員が成長していく取り組みを推進し、その結果としてアビームの成長があると考えています。変革や成長の主役はお客様であり、コンサルタントはお客様の変革にしっかりと『伴走』していくべきです。そういったカルチャーの中で、そのような意識を持った人材が集まっているのがアビームコンサルティングです。我々自身の競争力の源泉も“人とカルチャー”にあるのです」(山田)
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本記事は「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー」2025年1月10日発売号記事より転載
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