加えて、その進捗のモニタリングと管理を確実にするためにPDCAサイクルを回していくことも欠かせない。進捗のモニタリング対象となるアジェンダの例として挙げられるのは、「後継者の育成」「人材の内部調達」「外部人材調達のための魅力発信」「カルチャーの変革による生産性向上」「人材のウェルビーイング向上と代謝」といったものになる。こうしたアジェンダの改善に向けて進捗を確認し、連続的に適時適切な施策を打っていくことになる。
もちろん、人的資本経営の実践に向けては、経営層だけでなく、HR領域にも変革が求められる。例えば、今までのような人事、労務といった体制だけではなく、事業に資するための人事の役割として、機能別の組織へと再構築する必要がある。
また、労働市場に対してのコミュニケーションを含めたHRBP(HRビジネスパートナー)の整備や、従業員に対して自社の魅力をいかに伝えていくかを考え実行するHRコミュニケーション、また、HRのDXを図り、企業全体に対して人事のケイパビリティの発揮をサポートするHRIS(人事情報システム)の導入などがそれに当たる。
こうして、経営戦略と事業戦略の連動、経営チームや人事部の組織変革、PDCAサイクル、取り組みを効率化する仕組みの導入といった総合的な取り組みによって、企業は事業ポートフォリオ変革に向かっていく。
本シリーズの第1回では、失われた30年を取り戻し、変化に柔軟に対応できる組織へと企業を導く、人的資本経営の定義や背景、実践ポイントについて紹介した。我々が執筆した書籍『人材マテリアリティ 選択と集中による人的資本経営』でも、実際の取り組み事例などから、企業の人的資本経営のあり方について解説している。ぜひ参考にしていただきたい。
次回は、人的資本経営における「人材マテリアリティの特定と人材ポートフォリオ策定」について掘り下げていく。