自動車販売デジタルシフトがもたらす
ビジネスモデル変革

第3回 オンライン販売(後編):
オンライン販売をきっかけとするディーラービジネスモデル変革

 

2021年9月7日

武藤 彰宏

戦略ビジネスユニット
ダイレクター

 

自動車販売のデジタルシフトをテーマにした本シリーズの第1回インサイトでは、オンライン販売を「メーカー主導で、契約に至るまでの流れをデジタル空間上で完結できる状態」と定義し、メーカー主導ということをポイントとした。第2回インサイトでは、このメーカー・ディーラーの役割分担の変化に対応するため、販売奨励金・営業スタッフの評価・育成などの諸制度の再設計が必要となり、そこでは顧客代替・人間関係づくりの視点を持つことが必要であること、さらにお客様との「つながり」に目を向けることでディーラービジネスモデル変革の端緒となる可能性があることを解説した。

本インサイトの冒頭にあたり、ディーラービジネスモデル変革が目指す姿を共有するため、2015年版の「自動車ディーラー・ビジョン」に記載されている「2025年に向けた将来ビジョン」の1テーマを引用する。
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コア・ビジネスの一層の強化・拡充
⇒顧客のカーライフを守り豊かにするワンストップ拠点化

ディーラーは「顧客のカーライフ経験を、顧客と共に豊かにデザインするサービス業」を目指す方向性が望まれるのではないだろうか。
(出典:日本自動車販売協会連合会『自動車ディーラー・ビジョン(平成27年版・2015年版)乗用車店編)』
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2015年に描かれた2025年のキーワードは、「顧客」「カーライフ」「経験」「顧客と共に」「デザイン」「サービス業」だった。
2015年と言えば、ディーゼルゲート事件があり、フォルクスワーゲン社がディーゼル車から電動車に戦略転換した年である。その後のグローバルでの電動化の進展を思うと、自動車業界における2015年ははるか昔のことのようである。

現状、日本の自動車販売業界にとって上記の目指す姿は、方向性は納得するものの、すぐに実現することは難しいという状況ではないだろうか。
アビームコンサルティングは、本インサイトがとりあげる自動車のオンライン販売が、「お客様との”つながり“に重きを置いたビジネスモデルの実現に向けた変革の端緒となる」と考えており、それは上記のビジョンの実現にもつながるものと考えている。
本インサイトでは、そのために必要な視点・考え方を解説する。

まず、顧客起点のディーラービジネスモデル変革のための2つの重要キーワードを解説する。それは、LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)およびCX(Customer Experience/顧客体験)である。いまや、ありふれた概念であるこの2つのキーワードは目新しいものではないが、限定的な視点でコンセプトが流布されてきたことで、その本質的な価値が失われているように思われる。
アビームコンサルティングでは、LTVをより本質的に問い直すことから、顧客起点でのビジネスモデル変革を提案している。

顧客起点のディーラービジネスモデル変革の重要キーワード:
LTV(顧客生涯価値)のLifeとは?

「ディーラーにおけるLTV最大化」。この言葉から、何を想起するだろうか?
ディーラーは、車両販売だけではなく、販売した車両の車点検や一般修理などのサービス収益、保険更改に関する手数料等からも収益を得ており、車両販売からの利益は一部でしかない。そのため、顧客から生涯に渡って得られる利益を考えた時、車両販売に限定せずに、これら他収益まで含めて考えるべき、という考えが一般的ではないだろうか。

では、”Life Time Value”は、誰の”Life”を指すのだろうか。
先の考えにおけるLifeは、端的に言えば、車両(カー)のLifeであり、”Life Time Value”は販売した車両のLife Time(保有している期間)を通じて、そこから生まれる収益(Value)を吸い上げるという考え方である。この考え方は、自社視点に偏っており、自動車を工業製品として捉え、店舗はその工業製品を売り、メンテするための拠点でしかない。

一方で、前述のディーラー・ビジョンで使用されている「カーライフ」のLifeは顧客のLifeである。第2回インサイトでは、自動車は、一度買えば、8年前後は「カーライフ」を伴にする家族のような存在と表現した。
ディーラー・ビジョンや本インサイトで言う「カーライフ」は「車両(カー)のライフ」ではなく、顧客視点で「カーと伴にあるライフ」のことである。また、Lifeは、車に乗っている時間だけではないため、Lifeは生き方・生き様と解釈するべき考えである。

まとめると、「自動車販売におけるLTV最大化」が意味するものは、「ディーラーのケイパビリティを活用して、お客様が実現したいと思う生き方を実現できるように支援することで、自社の収益を継続的に確保」することである。(図1参照)

図1 LTV最大化の考え方

図1 LTV最大化の考え方

顧客起点のディーラービジネスモデル変革の重要キーワード:
CX(顧客体験)は、何のExperienceか?

自動車販売業界で、CX(顧客体験)として話題に上がることが多い古典的なテーマをいくつか例示する。

  • メーカーサイトでの閲覧履歴をディーラー側に連携して、シームレスな商談を実現する
  • お客様が気軽に問い合わせできるようにロボットを導入する
  • 運転中に車から入庫予約が取れるようにコールセンターと連携する

この事例での、CX(顧客体験)のExperienceは、購入や入庫に関する体験であり、いずれも「車両(カー)のLife」に関する体験である。これらの接点は、ディーラーにとっては収益源として重要であるし、管理顧客全体で見れば毎日のように発生していることではあるが、個々の顧客にとっては購入や入庫は稀にしかない。そのような稀な点を「カスタマージャーニー」と称して整理する試みは、顧客のカーライフから見るとあまりに部分的である。

顧客視点で見たカーライフにおける体験は、日々の生活の中で、自動車が登場する体験である。
ある日常のカーライフを例示すると次のようになり、これらが、自動車販売業界が見据えるべき、CX(顧客体験)である。

  • 平日: 子供を塾にお迎えに行きがてら、近くのお店にデザートを買いに行く。夕食後の散歩からの帰り、ガレージに収まったブランドロゴが溶け込んだ自宅の風景に満足する
  • 休日: 新型コロナ感染症の感染状況を見ながら行き先を決定し、可能であれば大きめの公園にドライブし、トランクに常備したボールを持って子供と遊ぶ

この視点から見ると、顧客は工業製品である車両だけから体験価値を得ているわけではない。
子供を塾に送る際、乗っていくクルマのブランド・モデルによって、周りの親御さんから知的に見られることもあれば、クルマにお金をかける人と見られることもある。また、スポーティなクルマで公園に遊びに行く際、スポーティなイメージのまま遊べるよう、クルマのブランドロゴが入ったタンブラーを持っていくこともあるだろう。「カーライフ」を伴にする家族のような存在であるクルマは、単なる工業製品ではなく、ブランドが提供するCXへの入場券なのである。


ここまで、LTVとCXを、顧客視点で包括的に捉えるべきキーワードであることを解説してきた。
オンライン販売が展開された際には、メーカー・ディーラー本部主導で提供されるオンライン上での体験価値と、リアル店舗で提供される体験価値が融合されていることが理想であることは明らかである。この融合された姿の内、どこまでがオンライン上で提供され、どこまでがリアル店舗で提供されるものであるかはブランドが提案する世界観はもとより、お客様に応じて変わってくるものではあるが、おおよその役割分担は定めておくべきである。

顧客起点のディーラービジネスモデル変革に向け、問い直すべき「リアル店舗の存在意義」

これまで、リアル店舗は、「ショールーム」と呼ばれ、メンテナンス拠点としての「工場」の存在が安心感を担保してきた。これは、リアル店舗を工業製品である車両を売り、メンテナンスする拠点としか見ていない見方である。しかし、リアル店舗がこれだけの存在であれば、オンラインやネットワーク化された整備工場に代替され、いずれリアル店舗は淘汰されるだろう。
多様な顧客のニーズに対応するためにも、メーカー・ディーラー本部・店舗がオンライン・リアルの組み合あわせを提供していくには、オンラインに求める役割があるように、リアル店舗は「リアル店舗でしかできない顧客のカーライフの支え方」で、「お客様が実現したいと思う生き方を実現できるように支援する」役割を担うことが期待されている。

リアル店舗にしかできないこととは、何か?
これまで自動車販売業界の中で重視してきた「つながり」に回帰することが、検討の第一歩だと考えられる。ここで、「何と何がつながるのか?」によって、2つの考え方が存在する。

1つの考え方は、リアル店舗で地域住民と店舗スタッフ、地域住民と地域住民がつながるということ。つまり、人とのつながりであり、地域に根差して人に接することがリアル店舗にしかできないことである。これは、特に国産車の独立系ディーラーが得意とする方向性であり、地域住民が集まる場として、自動車以外の商品やサービスを展示する場になったり、イベントを開催する場になったり、時には地域住民の憩いの場にもなる事例が見られる。この場合、リアル店舗は「地域に根差し、人が集う場」となっている。

もう1つの考え方は、ブランドとして確固たる世界観を確立し、その世界観と顧客がつながるということ。つまり、ブランドとのつながりであり、物理的に具現化されたモノや店舗スタッフが演出する世界観を体験することがリアル店舗にしかできないことである。これは、特にプレミアムブランドが得意とする方向性であり、ブランドの世界観を体現したテストコースやカフェを設ける事例が見られる。この場合、リアル店舗は「ブランド発信拠点」となっている。

上記2つの考え方は、どちらを選択するかによって、店舗デザインや店舗スタッフに必要なスキルセットが異なってくる。例えば、地域に根差し人に接する店舗であれば、お客様に寄り添いその輪の中に入っていくことになるが、ブランド発信の店舗であればお客様をブランドの世界観に引き込むことになるため、両店舗でお客様への接し方が変わってくると想定される。よって、1つの店舗がともに担うことは難しく、どちらかに比重を置くことになる。

さらに、リアル店舗の存在意義は、もう1つの問い「リアル店舗は、何を収益源とするのか?」を組み合わせることで、4つに分類できる。(図2参照)

図2 リアル店舗の位置づけ

図2 リアル店舗の位置づけ

前述の「地域に根差し、人が集う場」「ブランド発信拠点」という分類は、車両販売・サービス等のこれまでのディーラー収益を前提に考えている。
さらに、今後、「お客様が実現したいと思う生き方を実現できるように支援」する存在になることを考えると、いわゆるモビリティサービスまで提案範疇に含めることも考えられる。その場合、次の2つの分類が追加される。

  • モビリティサービスの地域拠点(人とのつながり×モビリティサービス): リアル店舗で地域住民とのつながりを大切にしながら、地域住民の「モビリティ」に関する課題に向き合い、ソリューションを提供していく
  • 広域・領域横断サービスを支える広域ネットワークの一部(ブランドとのつながり×モビリティサービス): 自ブランドが展開するモビリティサービスが普及していった後、モビリティサービスで使用する「サービスカー」を支えるネットワークのハブとなる

「モビリティサービスの地域拠点」としてのリアル店舗は、地域課題に向き合うこととなるため、提供するサービスは自ブランドの自動車やモビリティサービスに限定されず、他社が提供しているモビリティサービスまで包含する可能性がある。この場合、リアル店舗でのスタッフに求められるスキルセットは、地域や顧客の課題を発見し、各サービスをソリューションと仕立て提案することに変化していくと想定される。

以上4分類が、オンラインでは代替困難で、将来的にリアル店舗に残されると想定される存在意義である。
いずれの分類においても、店舗を工業製品である車両を売り、メンテナンスする拠点とは見ておらず、「販売した車両のLife Time(保有している期間)を通じて、そこから生まれる収益(Value)を吸い上げる」ことを経営の中心には置いていない。中心に置いているのは、ディーラーは「お客様が実現したいと思う生き方を実現できるように支援」する存在であるという考え方である。
ここまでの「リアル店舗の存在意義」の問い直しから、ディーラービジネスモデル変革につなげるには次のステップが有効である。

① 自ブランド・ディーラー・店舗が実現する存在意義を選定
    (ブランドやディーラーで全店舗が共通というわけではない)
② その存在意義を具体化する他社にはないユニークな姿・基本コンセプトを構想
③ その姿の実現に向け組織・人材等の各要素を再設計
④ 各要素の再構築に向けた具体アクションと責任者を定め、ロードマップを策定
⑤ 実行をモニタリングしつつ、必要に応じて計画をローリング

なお、第2回インサイトで、オンライン販売導入に向けた諸制度の再設計において、ディーラービジネスを新車販売台数に限定して考えるとうまくいかないと解説した。諸制度の再設計は、上記①②を踏まえて行うことが有効ということである。

オンライン販売をディーラービジネスモデル変革の端緒とするということ

自動車販売業界の中で、これまでも「顧客とのつながり」を中心に置いたビジネスモデルへの転換の必要性は認識され、チャレンジされてきた。しかし、実現にあたっては、多くのハードルに直面している状況と認識している。
アビームコンサルティングでは、このディーラービジネスモデル変革に向け、オンライン販売が「黒船」の効果を持つと考えている。第2回インサイトで解説したように、オンライン販売の展開にあたって、販売奨励金・スタッフの採用・育成制度等々の諸制度を再設計する必要がある。あわせて、ディーラーにとってオンライン販売は「自分たちの領域を侵食しかねない存在」でもある。この諸制度の再設計として見据える道標として、またオンラインとは差別化した事業戦略を構想する道標として、リアル店舗の存在意義を位置づけることが有効と考えている。

ここまでの解説を要約する。
オンライン販売によって、契約に至るまでの流れをメーカーが主導することになる。そのため、顧客代替とその前提となる人間関係づくりをより重視し、行動に移していくことがディーラーの死活問題となる。
この意識が、LTV(顧客生涯価値)の意味を正しく理解し、車両が生む収益ではなく、お客様の生き方に向き合うきっかけとなる。
このきっかけを活かし、ディーラービジネスモデル変革につなげるため、オンライン販売展開後もリアル店舗でしかできないことである「リアル店舗の存在意義」の再定義が有効である。前述の4つの「リアル店舗の存在意義」が見据えているのは、「お客様が実現したいと思う生き方を実現できるように支援」している姿であり、自動車販売業界が目指してきたディーラービジネスの姿に他ならないからである。

このディーラービジネスモデル変革は誰のミッションか?
リアル店舗の存在意義は、全店舗で同じポジションをとる必要はないものの、個々の店舗がバラバラに選択するものでもない。商圏全体を俯瞰したエリア戦略によって店舗ごとにポジショニングされていくものと想定される。各ポジションでの基本的なコンセプトも、ブランドとして戦略的に策定されるべきである。また、そのようなブランド戦略・コンセプトの実現に向け、各店舗で共通して必要となる取組・機能については、メーカー側から支援することが望まれる。
ここまでのことができるのは、メーカー・ディーラー本部・店舗のなかで、メーカー(もしくはインポーター)しか存在しない。
メーカーは、オンライン販売を通じて顧客との接点を持ち、リアル店舗の存在意義と統合された顧客接点を構える存在となる。また、すべての車両販売がオンライン販売に移行することは想定されず、あくまでリアル店舗での販売がメインでオンライン販売はサブチャネルとの位置づけが現実的な姿である。よって、メーカーとディーラーの共存・共栄関係は不動のものである。
だからこそ、オンライン販売をディーラービジネスモデル変革の端緒とするためには、メーカー側でオンライン販売の仕組み自体の検討と並行して、自ブランドにおけるディーラービジネス変革を推進することが期待される。

自動車販売デジタルシフトがもたらすビジネスモデル変革

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