太古の昔、我々の祖先は森で生活していた。二足歩行をはじめとする身体の進化を経て、我々の祖先は森から草原へと進出し、草原の中で獲物の長距離追跡が可能になった。更には、馬の家畜化によりヒトの身体の限界を超え、無生物のエネルギー源を活用した自動車などを生み出すことにより生物の限界を超え、移動手段を進化させることで、経済社会を発展させてきた。まさに、移動の進化が、人類の発展であった。
しかし、1990年代中頃から、この移動と経済社会の発展の直線的な関係が崩れはじめた。バーチャル空間の重要性が増してきただけでなく、「より遠くへ、より早く、より快適に」という移動の進化が飽和し、「移動の発展」と「経済社会の発展」との関係が混沌としている時代に突入している。
この混沌とした時代の背景には、生活者の価値観の変化とデジタル技術の発展がある。生活者の価値観は、飽くなき成長を是とするのではなく、生活の質(QoL:Quality of Life)や自然環境への配慮などを生活の中で重視するものへと変化してきた。また、デジタル技術の発展による影響の甚大さは言うまでもなく、デジタル技術は生活者に対して事業者が提供可能なサービスの幅を拡張した。モビリティサービスに関するものだけでも、カーシェアリングやレンタサイクルをはじめ、フードデリバリー、キックボードなどのマイクロモビリティのシェアリングサービス、ドローンや自動運転車を使った無人デリバリーなど、枚挙にいとまがないほどだ。
この状況は、生活者視点から見るとまさに「混沌」である。モビリティサービスもまた、個々を見ると素晴らしいサービスであっても、生活者視点で全体を眺めると混沌とした世界に突入してしまっている、もしくはその予兆が見え始めていると言えるだろう。
本インサイトでは、3回にわたって生活者に求められるモビリティサービスの姿や未来のシナリオ、それらを実現する共創の座組について、アビームコンサルティング独自の分析を含んだ視点で解説する。
第1回となる今回は、基礎情報としてCOVID-19を受けた消費者の変化とモビリティサービスの現状について取り上げる。続く第2、3回では、国内の「まち」を分類した分析結果より、いくつかの未来のシナリオと座組を解説していく。
モビリティサービスを提供、構想する事業者や自治体などの担当者の方の目に触れることで、この混沌としたモビリティサービスの世界を切り開き、生活者視点を捉えた持続可能なモビリティの実現につなげて頂ければ幸いである。