家族と一緒に、自宅のリビングで、パソコンやスマホで欲しいブランド・モデルの車を探して、外装や内装のカッコよさに盛り上がり、家族の好みが分かれるボディカラーは多数決で決着をつけ、お気に入りの車ができたら「ポチっと」購入する。
そのような姿を、想像できるだろうか?
これまでは、ファミリー層が自動車を購入する際は、「お父さん」が一人でディーラーに行って車種や仕様をおおよそ決め、帰って家族に相談する(より正確に表現すれば、営業スタッフのように家族に車を売り込む)という姿が一般的であった。それが、家族でワイワイと議論しながら、家族のための車を家族で選ぶ姿に変化する。
そのような姿を、求める消費者は多いのではないだろうか?
自動車は、数百万円もする嗜好性が高い商品である。また、一歩間違えれば人命にかかわる商品であり、万が一の時には自分や家族だけでなく歩行者なども含めた命を守ってくれる最後の砦である。さらに、自動車の平均車齢は伸張を続けており、直近では8.6年となっている。つまり、一度買えば、8年前後は「カーライフ」を伴にする家族のような存在である。そのような車の選択を、家族とより一緒になって行えるようになる。
このファミリー層がオンラインで車を購入する姿は、消費者にとっての意義(メリット)の1つである。また、自動車に詳しい層が、ディーラーに行って営業スタッフの説明を聞かなくとも欲しい車種を特定できる。さらに、新型コロナウィルス感染症対策としてできるだけ対面接触を減らしたいという状況で、オンライン販売を選択できることも、1つの意義である。
消費者の価値観や生活様式が多様化する中で、消費者にとってのオンライン販売の意義は複数存在している。もはや、オンライン販売の要否を問う時代ではなく、お客様に購入方法の1つの選択肢として提供すべき時代と言えるだろう。
一方で、そのような姿を、実現できるだろうか?
自動車は登録しナンバープレートを取り付けなければ、公道は走れない。登録には管轄の警察署が発行する車庫証明書などの書類が必要であり、その後も、車両・ナンバープレート・封印/封緘・書類などの物理的な存在が前提となる。さらに、自動車購入は車両のみの購入ではなく、ローン・保険(自賠責・任意)・サービス商品などを同時に購入する複雑な手続きを要し、中には対面説明が必要な手続きも含まれる。新車を購入する際、オプションが多い国産車では試乗から帰ってきて注文書への捺印が完了し、当日の手続きが諸々完了するまでに、1~2時間は要するほどである。さらに、多くの場合は下取車が存在するため、下取に必要な書類のやり取りや、下取車の査定という物理行為も発生する。
また、別の観点として、オンライン販売には、既存ディーラーネットワークとのカニバリゼーションの懸念が存在する。ディーラーから見ると、「メーカーがオンライン販売で自分たちの領域を侵食しにきたのではないか、自分たちの取り分を減らそうとしているのではないか?」という懸念である。これらの制約条件の中で、かつては日本ではオンライン販売は実現できないと考えられていた。
しかし、できるか/できないかという問いにも、もはやあまり意味がない。日本国内においても、既に自動車のオンライン販売を実現しているブランドが存在し、それらのブランドは上記のような制約を乗り越えているのである。
これまで、オンライン販売の取り組みは、輸入車インポーター中心になされてきていた。例えば、BMWでは、2020年5月から限定車を対象に12店舗の周辺地域に限定したオンライン販売を試験的に導入し、同年7月からは対象モデルをほぼ全モデルに拡大するとともにエリアの制限もなくしている。さらに、2020年代に入り、日系OEMがオンライン販売の取り組みを鮮明にしてきており、ホンダは国内でのオンライン販売を2021年秋ごろに開始すると2021年4月に発表している。他メーカーについても、同様にオンライン販売の検討が進んでいるものと考えられる。
実現性の観点からは、オンライン販売はできるか/できないかではなく、いかに実現するか?が問いである。
既に日本国内においても自動車のオンライン販売は輸入車インポーターを中心に実現されていると述べたが、上記のような制約条件への対応方法の違いから、その実現方法には図1に示すように、いくつかのパターンが存在する。
まず、図1左側で登録・納車までの流れで、どこまでをメーカーが主導するかで大きく2つのパターンに区分した。