2020年5月の国内新車販売台数は、前年比45%減。欧米・中国での販売台数の減少幅ほどではなかったものの、この大幅減少と自動車メーカー数社が2021年3月期の業績が見通せないと発表したことから、当時は自動車産業が壊滅的な打撃を受けるという言説もあった。
しかし、その後の回復と各社の経営努力により、2021年3月期の日系自動車7社の純利益の合計は前年比11%増という結果となり、COVID-19の自動車産業への影響は語られなくなっている。
その一方で、COVID-19感染症対策として定着しつつある「新たな生活様式」は、消費者にデジタル空間をより身近なものとさせた。
このことで、自動車を購入・利用する際、消費者にとって「デジタル」を活用することが現実的な選択肢の1つとなった。この流れが、これまで徐々に進展しつつあった自動車販売領域におけるデジタルシフトを加速させ、2021年度に入ってから日系自動車メーカーの中でもオンライン販売をはじめとする自動車販売デジタルシフトの取り組みが活発になってきている。
「自動車販売のデジタルシフト」は、TV会議システムを使ったオンライン商談、AIを活用した商談サポート、VRを活用したデジタル試乗、オンライン販売など、ツール先行で語られることが多い。
しかし、アビームコンサルティングでは、「自動車販売のデジタルシフト」は、営業スタッフの属人対応への依存を特徴とする「販売」発想のモデルから、メーカー・ディーラー本部・店舗が一体となって消費者と向かい合うことを特徴とする「つながり」発想のモデルへと本格的に変革していく絶好の機会だと考えている。
そこで、本インサイトでは、5回にわたって自動車販売デジタルシフトがもたらす自動車ビジネスモデル変革について解説する。
第1回では、自動車販売デジタルシフトの定義および重要論点を述べる。次に、第2、3回で、最も深くデジタルを活用するオンライン販売をケーススタディとして取り上げ、その潜在力を引き出す重要論点とビジネスチャンスについて論じる。第4回では、足元の課題として存在するCOVID-19感染症対策としてのデジタル活用について論じる。そして最終回では、オンライン販売およびCOVID-19感染症対策としてのデジタル活用を踏まえ、デジタルシフトに取り組む際に、メーカー・ディーラー本部・店舗が最優先で取り組むべきポイントを解説する。