COVID-19の感染拡大が始まった2020年頃から、新規客・既納客の来場数減少に対応するため、多くのブランド・ディーラーで検討され、一部で導入されてきた技術がTV会議システムを使ったオンライン商談である。オンライン商談は、ショールーム全体を使ったブランド・商品訴求がしづらいというデメリットがある一方で、駐車場スペースの制約により都心店舗で発生していた店舗前での入場待ちの行列を軽減しやすいなど、COVID-19感染症対策として以外のメリットも期待されるツールである。
オンライン商談で行われることは、テレビ会議システムを使ってお客様と営業スタッフが会話し、必要に応じて営業スタッフがカメラ機能を使って実車説明をするというシンプルなことである。しかし、複数のブランド・ディーラーでのオンライン商談の実態を観察すると、事はそれほど簡単ではない。
例えば、あるプレミアムブランドの店舗で著者がオンライン商談をしてもらったところ、店舗側のカメラをOnにしているものの、カメラにシールが貼られている状況で、何も映っていないスクリーンと会話するという状況が続いた。さらに、営業スタッフが、店長もしくは営業マネージャーに見積相談に離席したタイミングでは、何も映っていないスクリーンを前に、ひたすら待っているだけという事態が発生した。
さすがにカメラをOffにした状態では失礼だろうという配慮はあるものの、カメラに他のお客様が映り込みことへの配慮のためカメラにシールが貼られていたのだと推察されるが、満足感のある商談とは程遠いものである。
一方で、他のプレミアムブランドの店舗では、オンライン商談が増え始めた頃から、オンライン商談のトレーニング・準備を店長・スタッフで繰り返していた。テレビ会議ツールのボタン操作は言うまでもなく、実車説明の際にどの角度でカメラを向けると、訴求するべきポイントが伝わりやすいかをトレーニングしていた。さらに、オンライン商談の予約時間が近づくと、他のお客様の映り込みが心配ない商談スペースを確保し、オンライン商談に備えていた。このディーラーでは、COVID-19の感染拡大前からオンライン商談に向けた検討を進めていたこともあり、感染拡大初期の時期に一定数の受注をオンライン商談であげている。
別の視点からの事例として、あるプレミアムブランドの店舗では、問い合わせを頂いたお客様への来場促進の中で、店舗来場だけでなくオンライン商談や訪問での商談も選択肢として提案し、お客様が選択できるようにしている。ここでは、オンライン商談は、お客様に提示する1つの選択肢という位置づけである。
オンライン商談に関する上記3つの事例からうかがえることは、同じデジタル技術を適用する場合でも、各店舗においてデジタル技術を使いこなすケイパビリティ(組織的能力)によってその成否が大きく異なっているということである。
ここで言う「デジタル技術を使いこなすケイパビリティ」とは、ツールの操作に長けているということではない。オンライン商談を有効に活用するために、店舗においてどのような工夫を凝らすべきかを店長・営業スタッフが考え・実行し、仲間の成功/失敗事例から学び合いながら、得られた知見を試して自分のものにしていくというプロセスを愚直に回す力である。