自動車販売デジタルシフトがもたらすビジネスモデル変革 第4回 既存プロセスのデジタル化で効果をあげる3つのポイント

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2022.02.24
  • 自動車
  • 経営戦略/経営改革
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自動車販売のデジタルシフトをテーマにした本シリーズでは、自動車販売のデジタルシフトを3つの深度に分けて解説している。第1回では、深度1「既存プロセスのデジタル化」を「既存プロセスは変更せず、デジタル技術を活用して、より効果的に、もしくはより効率的に行う深度」と定義した。第2回第3回で取り上げた深度3「オンライン販売」と比較すると、足元の課題への対応策としての意味合いが強いためか、「デジタル技術を導入するだけ」と誤解されることが多い深度である。
そこで第4回では、現場で起こっている実例をご紹介しながら、深度1「既存プロセスのデジタル化」に関する誤解を解き、「既存プロセスのデジタル化」で効果をあげるための3つのポイントを解説する。

図1 自動車販売デジタルシフト 3つの深度 図1 自動車販売デジタルシフト 3つの深度

執筆者情報

  • 武藤 彰宏

    Director

デジタル技術を活用した販売現場で起こっていること: オンライン商談の事例

COVID-19の感染拡大が始まった2020年頃から、新規客・既納客の来場数減少に対応するため、多くのブランド・ディーラーで検討され、一部で導入されてきた技術がTV会議システムを使ったオンライン商談である。オンライン商談は、ショールーム全体を使ったブランド・商品訴求がしづらいというデメリットがある一方で、駐車場スペースの制約により都心店舗で発生していた店舗前での入場待ちの行列を軽減しやすいなど、COVID-19感染症対策として以外のメリットも期待されるツールである。
オンライン商談で行われることは、テレビ会議システムを使ってお客様と営業スタッフが会話し、必要に応じて営業スタッフがカメラ機能を使って実車説明をするというシンプルなことである。しかし、複数のブランド・ディーラーでのオンライン商談の実態を観察すると、事はそれほど簡単ではない。

例えば、あるプレミアムブランドの店舗で著者がオンライン商談をしてもらったところ、店舗側のカメラをOnにしているものの、カメラにシールが貼られている状況で、何も映っていないスクリーンと会話するという状況が続いた。さらに、営業スタッフが、店長もしくは営業マネージャーに見積相談に離席したタイミングでは、何も映っていないスクリーンを前に、ひたすら待っているだけという事態が発生した。
さすがにカメラをOffにした状態では失礼だろうという配慮はあるものの、カメラに他のお客様が映り込みことへの配慮のためカメラにシールが貼られていたのだと推察されるが、満足感のある商談とは程遠いものである。

一方で、他のプレミアムブランドの店舗では、オンライン商談が増え始めた頃から、オンライン商談のトレーニング・準備を店長・スタッフで繰り返していた。テレビ会議ツールのボタン操作は言うまでもなく、実車説明の際にどの角度でカメラを向けると、訴求するべきポイントが伝わりやすいかをトレーニングしていた。さらに、オンライン商談の予約時間が近づくと、他のお客様の映り込みが心配ない商談スペースを確保し、オンライン商談に備えていた。このディーラーでは、COVID-19の感染拡大前からオンライン商談に向けた検討を進めていたこともあり、感染拡大初期の時期に一定数の受注をオンライン商談であげている。

別の視点からの事例として、あるプレミアムブランドの店舗では、問い合わせを頂いたお客様への来場促進の中で、店舗来場だけでなくオンライン商談や訪問での商談も選択肢として提案し、お客様が選択できるようにしている。ここでは、オンライン商談は、お客様に提示する1つの選択肢という位置づけである。

オンライン商談に関する上記3つの事例からうかがえることは、同じデジタル技術を適用する場合でも、各店舗においてデジタル技術を使いこなすケイパビリティ(組織的能力)によってその成否が大きく異なっているということである。
ここで言う「デジタル技術を使いこなすケイパビリティ」とは、ツールの操作に長けているということではない。オンライン商談を有効に活用するために、店舗においてどのような工夫を凝らすべきかを店長・営業スタッフが考え・実行し、仲間の成功/失敗事例から学び合いながら、得られた知見を試して自分のものにしていくというプロセスを愚直に回す力である。

「既存プロセスのデジタル化」で効果をあげるための3つのポイント

オンライン商談以外での、既存プロセスのデジタル化の事例として、機能説明への動画活用がある。自動車のコネクテッド機能が高度化・複雑化する中、ベテランスタッフを中心にコネクテッド機能の説明を不得手とするスタッフが少なからず存在する。また、コネクテッド機能の説明には時間を要するため、納車説明に2、3時間を要することもある。かつ、お客様としても、それほどの情報量を一度に説明されても記憶することはできず、再度、営業スタッフに問い合わせることが多々ある。そのような事態への対応策として機能説明への動画活用は有効な一手である。
しかし、動画のURLを書いた紙を渡されて、そのサイトにアクセスするお客様が何人いるだろうか。せっかくのコネクテッド機能もお客様に理解されないまま、宝の持ち腐れとなることが懸念される。動画を有効に活用している店舗では、お客様への事前の意向確認を欠かさない。自宅でゆっくりとじっくりと機能を理解したければ動画を、営業スタッフが直接説明したほうが分かりやすければ実車説明を、とお客様が選択できるようにしている。動画の場合、納車などにかかる時間が短くなるというお客様へのメリットもあわせて説明している。

上記の事例からも分かるように、「既存プロセスのデジタル化」で効果をあげるためには3つのポイントが重要である。

①デジタル技術は、お客様のためにご提供する選択肢の1つであること

特に、お客様との接点となるプロセスにおけるデジタル技術の活用では、作業効率向上など自社都合での一方的な導入は避けるべきである。デジタル技術を活用することで、お客様の購入検討やカーライフがより良いものになると確信を持てることが最低限必要である。さらに、そのようなメリットを押し付けず、アナログな手法も選択肢として残し、お客様が選択できる状況にすることが重要である。

②店長・営業スタッフが、導入した後の具体的な姿を共有していること

例えば、オンライン商談を導入する際、店舗での商談との一番の違いは、お客様の反応が見えないこと、特にフロアマネジメントをしている店長・営業マネージャーから見えないことである。これまでは、フロアで営業スタッフと会話しているお客様の表情やインカムから聞こえてくる声を聞きながら状況を把握し、営業スタッフが離席したタイミングでお声がけすることで商談サポートが可能であった。それが、オンライン商談の場合はどうなるだろうか。例えば、商談プロセスをいままで以上に細かく分け、都度の店長への報告・相談の機会を設定し、離席の際に活用する動画を準備し、動画に切り替えるための話法をトレーニングしておくというのが、方法の一つではないだろうか。
前述のお客様へのメリットを実現するために、店舗で実現したい具体的な姿を、店長と営業スタッフの役割分担や段取りなどのレベルで具体的に想定し、それらを店舗内で共有していることが必要である。

③店舗でデジタル技術を使いこなすケイパビリティを獲得していること

販売現場においては、初めて導入するデジタル技術に対して、お客様や現場の営業スタッフがどのように反応し、何がボトルネックになるか、を完全に予見して事前に対策をとることは困難である。さらに、当初想定した「具体的な姿」よりも、より効果をあげられる工夫がなされるのが販売現場である。
前章でも言及したように、店舗において凝らすべき工夫を考え・実行するなかで体得していくプロセスを愚直に回す力がなければ、デジタル技術を適用することによる短期的な混乱がもたらす副作用がメリットを上回ってしまう懸念がある。

デジタル技術の活用は、その操作方法だけではなく、上記ポイントで解説したような「具体的な姿の共有」や「ケイパビリティ獲得」に一定の時間を確保する必要がある。この時間をいかに確保するかが、現実的な論点であり、ブランド・ディーラーがデジタル化に先立って取り組むべき課題である。
なぜならば、販売現場では足元の売上を作らなければならない。短期的な数字のために、営業スタッフは提案先の掘り起こし、提案内容の検討、顧客コンタクト、商談などに時間を確保する必要がある。さらに、長期的な売上のために、既納客にコンタクトして人間関係も構築しなければならない。これらの活動に手を抜くようなことがあっては本末転倒である。一方で、人手不足が慢性化している販売現場において、これ以上の労働時間は許容されない。
アビームコンサルティングでは、営業活動の生産性を高めるために、売上を作る営業活動について、「やるべきことを、やるべきタイミングで、やるべきレベルで」実行するという営業組織としての基礎を愚直に構築しておくことが最も有効な手立てだと提言している。

次回の第5回では、第2回第3回で解説したオンライン販売を起点とするビジネスモデル変革と、今回解説した営業活動の生産性向上を両立する方法を解説する。

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