MaaS/モビリティサービスの環境変化と変革への道 ~Postコロナを見据えて~

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2022.03.21
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近年、“モビリティ”の概念は、人々の価値観の変化、スマートフォン・アプリの普及、社会課題の多様化、スマートシティ・スーパーシティといった構想の登場などにより、進化してきている。COVID-19の発生によって、さらに環境の変化が加速する中、MaaS(Mobility as a Service)/モビリティサービス事業者には、市場ニーズへの迅速な対応、事業の持続可能性に課題を抱えるケースが見られる。COVID-19発生による市場、関連事業者への影響をとらえた上で、今後、Postコロナに求められる変革を考察する。
(本稿は2020年9月8~10日「MOVE Asia Virtual 2020」での講演「「Mobility Service Transformation in the Post COVID-19」」をもとに再構成しています。)

執筆者情報

  • 古川 俊太郎

    Principal

MOVE Asia Virtual 2020 講演映像

COVID-19が与えたモビリティサービスへの影響

2014年にフィンランドで定義されて以来、MaaSは人々の価値観の変化にともない、また、社会ゴール達成の手段として台頭してきた。その最中、COVID-19が発生、グローバルで拡大し、人々の移動総量は減少した。その後、急減した移動も回復傾向が見られたが、移動先によって訪問量の回復率には差が発生している。

図1.観光地における移動状況:浅草エリアへの訪問人数の推移 図1.観光地における移動状況:浅草エリアへの訪問人数の推移

また、COVID-19は、人々の生活様式にも大きな変化をもたらした。外出自粛により、家庭での娯楽時間や在宅勤務が増加したことから、宅配やフードデリバリーなど家庭での生活に便利なサービスの利用が増えた。外出するにしても、人が密集する場所・移動手段は避けられる。海外旅行はできず、マイクロツーリズムといった、遠方ではなく自宅近くへの外出から回復する傾向もみられた。
このような背景もあり、各事業者への影響を見ると、“人”の移動を支えるモビリティサービスでは全体的に需要が落ち込んだ。しかし、個人向けの短期カーリースや企業向けのカーシェアリングの登場、シェアサイクルの利用増など、移動手段には多様化が見られた。一方、ラストマイル物流、フードデリバリーなど“モノ”の移動を支えるモビリティサービスでは需要が伸び、ドライバーや車両のリソース不足が問題となった。

図2.COVID-19発生後の各モビリティサービスの動向 図2.COVID-19発生後の各モビリティサービスの動向

これからのMaaS/モビリティサービスに求められる変革

今後、Postコロナに向かいながらも、“モノ”の移動を支えるモビリティサービスの利用や多様な移動手段へのニーズは一定程度定着し、特にCOVID-19の感染・収束状況によって、移動需要はダイナミックに変化していくと想定される。したがって、需要のダイナミックな変化に対応できる、多様で柔軟なモビリティサービスが求められると考察する。その実現には、2つの変革が必要だ。「市場ニーズに合わせて人・モノを問わない柔軟なサービス設計を可能にするビジネスモデルへの変革」と「関連する事業間で車両・ドライバーリソースを共有できる体制への変革」である。実際にCOVID-19発生後、CtoCのライドヘイリングを中心にサービス展開していきた海外の事業者がフードデリバリーサービスに注力する、ドラッグストアと提携した日用品配達や友人や家族向けの荷物配達といった新サービスを立ち上げる、といった動向も見られた。また、日本でもタクシー事業者とフードデリバリー業者の提携による、タクシー車両を活用したフードデリバリーサービスが実施された。顧客のニーズに合わせながら持続可能な事業展開を行うため、事業間のコラボレーションを通じたMaaSエコシステムの形成の必要性、重要度が増したと言えるだろう。

変革のキープレイヤーとキーイネーブラー

アビームコンサルティングは、兼ねてより、MaaSの発展にはタクシーなどのローカルフリート事業者との連携とユーザー体験やオペレーションのデジタル化が重要であると考えてきた。ローカルフリート事業者は、近年発展してきたライドヘイリング事業がドライバーのコスト負担が高く、利益創出しづらいモデルである一方で、現状一定の利益がでており、オペレーションも完結しているモデルのため、持続可能なMaaSのキープレイヤーとなると位置付けている。Postコロナに向けた変革においても、車両・ドライバーを保有している点で、ローカルフリート事業者はエコシステム形成を構築するための、キープレイヤーであると考察する。
デジタルテクノロジーの重要度もさらに高まっている。デジタルテクノロジーは、ユーザーが利用しやすく、便利であることを前提に発展したMaaSのユーザー体験を高める手段として活用されてきた。また、実証実験止まりにならない、利益創出に向けたオペレーション自動化・効率化の手段として、これまでも利用が広がってはいた。しかし、COVID-19により、衛生管理などコロナ対策コストが増し、利益が圧迫されている中で、オペレーションの自動化・効率化は急務ともいえる。Postコロナの変革においても、変化の激しい市場ニーズに合わせて柔軟にサービスを設計するため、より精度の高い需要予測が求められてくる。複数サービスを展開する場合は、複雑化するリソース配置・配車も従来のマニュアルオペレーションでは限界がある。デジタルテクノロジーは、需要予測やオペレーションの自動化・高度化を実現する、Postコロナに向けた変革のキーイネーブラーだといえるだろう。

モビリティサービスのDX事例

昨今、このような変革を支えるテクノロジーは既に実用化のレベルに達している。例えば、イスラエルのテクノロジーベンチャーである、Autofleet社のAIを用いたプラットフォームでは、コロナ禍でもモビリティサービスの需要を高い精度で予測が可能だ。需要予測に基づく最適な車両配置やルート指示を行うとともに、清掃・給油・メンテナンスなどのタスクを自動化し、フリート全体の稼働率や顧客の乗車待ち時間を短縮することができる。
アビームコンサルティングは、このAutofleet社とともに、カンボジアの首都、プノンペンにおけるオンデマンドバスサービスの事業企画を実施した。Autofleet社のシミュレーター機能を活用しながら、アビームコンサルティングの持つ業界知見を活用したビジネスモデルの検討や、KPI策定、シミュレーションシナリオ定義、データ定義・収集、事業性分析などのコンサルティングノウハウを組み合わせた取り組みだ。
オンデマンドバスは、リアルタイムに発生する乗車オーダーに基づいて複数の顧客をピックアップするともに、複数の目的地に移動する必要があるため、非常に複雑なルート設計を要求される。標準的なオペレーションでは、乗車オーダーが発生する度に走行ルートを再設計するため、時間がかかる上、すべての顧客を乗車させることは困難となる。一方、Autofleet社が提供するデジタル化されたオペレーションであれば、需要予測に基づき需要の発生しやすいエリアを走行することで、より多くの顧客を乗車させるとともに、乗車待ち時間を最小限に抑えることができる。

図3. オンデマンドバスにおけるオペレーションのデジタル化 図3. オンデマンドバスにおけるオペレーションのデジタル化

シミュレーターを使った効果検証では、オペレーションのデジタル化によって乗車数を30%向上させ、ドライバーの運転時間を25%削減できるという結果となった。さらに、時間帯ごとに必要な車両台数を分析した結果、稼働率が低い時間帯に、ラストマイル物流やデリバリーサービスなどへ車両を転用することで、収益の大幅な増加につなげられるという示唆を導き出すことができた。
本事例からも、高い利益を創出するためにはデジタルテクノロジーが必須だということが言える。また、単一サービスの売上・オペレーション効率の最大化を目指すのみならず、複数サービスでの車両活用をベースとした利益最大化を検討することが、モビリティサービスの事業推進ポイントとなるとも言える。例えば、ラストマイル物流やデリバリーサービス以外にも、自治体と連携したスマートシティの取り組み内での移動サービスへの転用、学校と連携したスクールバスへの転用、観光向けのマイクロバスへの転用、医療と連携した医療・介護向け送迎車両への転用などを通じて、多業種へのサービス展開を狙うことが可能だ。

図4. 多業種へのモビリティサービスの展開イメージ 図4. 多業種へのモビリティサービスの展開イメージ

アビームコンサルティングが提供するMaaSビジネスソリューション

アビームコンサルティングは2020年9月のプレスリリースでAutofleet社との協業を発表した。同社が有する先進的なテクノロジーと、業界・事業戦略におけるコンサルティング知見を組み合わせることで、MaaSビジネスにおける戦略立案からビジネスシナリオの策定・検証、システム導入、定着までをエンドツーエンドで支援する。具体的には、タクシー・レンタカー・カーシェア・リースなどの車両を有するフリート関連事業者や、小売配送、フードデリバリー事業者、地方自治体に向けて、オペレーションの自動化・最適化を目的としたデジタル変革や、新規サービスの企画・実現を支援する。今後は、地域単位でのモビリティをとらえることで、スマートシティの構想策定、医療・教育・行政機関・商業施設などとの連携、モビリティエコシステム構築による都市全体の交通量最適化や地域間の移動格差の解消など社会課題解決まで支援の幅を広げていく。

MOVE Asia Virtual 2020とは

MOVE Asiaは、アジア地域のモビリティをテーマとして、革新的な技術を持つ企業が自社の取り組み内容を共有し、コラボレーションを促進するイベントである。従来はシンガポールで展示会を実施していたが、今年はオンラインイベントに形式を変えて9月8日~10日の3日間で開催。87か国から2,100名余りが参加し、185名の登壇者が各分野の先進的な知見を共有した。アビームコンサルティングは、「Mobility Service Transformation in the Post COVID-19」と題し、COVID-19発生後のMaaSをはじめとするモビリティビジネスの在り方に関して講演を行った。

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