では、実際に「動的人材ポートフォリオ」をどのように構築していくのか。ここからは、刻一刻と変化する進捗と状況をリアルタイムに把握し、To-Beとのギャップを埋めていくのに欠かせない「動的人材ポートフォリオ」の構築方法について、具体的に掘り下げていく。
「動的人材ポートフォリオ」を構築する前提として、企業の課題をあぶり出し、マテリアリティを特定する必要があるが、われわれはそこで有効な「人的資本経営ストーリーボード」というフレームワークを提供している(図2)。これによって、今自社のどこに問題があって、どこから着手すべきか、どのような施策にブレイクダウンしていくべきかが明らかになる。ポイントは下記に示す通りだ。
①目指すべき姿の定義
まずは自社のパーパスやビジョンを念頭に置きながら、短中期・長期それぞれの観点から課題の洗い出しを行っていく。シート右側にある「事業戦略(短中期)」に記載するのは、5年・10年先を見通して事業戦略に照合することによって、どのような課題があるのかをあぶりだし、それに必要な人材ポートフォリオについて考察していく。
一方、シート左側「サステナビリティ目標(長期)」では、事業に関係なく自社を存続・維持・発展させていくために必要な目標とアクション(アビームコンサルティングでは労働人口確保、イノベーション創出、後継者育成など8つの観点を設定)についてまとめる。
②人材マテリアリティの定義
①の内容をもとに、人材マテリアリティ、すなわち人材における優先課題を確定していく。なお、こうした課題抽出の検討では、20個、30個と実に多くの課題が噴出する。ただ、対応できるリソースを考えれば選択と集中を行わざるを得ないため、経営層や各事業部のトップとコミュニケーションを取りながら、3〜4個に絞り込んでいくことになる。
③ステークホルダーからの期待を理解/④人的価値創造ストーリーの検討
ここで、絞り込んだ優先課題が、スローガンやお題目になってしまっては意味がない。そこで③④の項目では、達成された状態を具体的なKGIとして定め、そこにたどり着くための人材戦略・KPI・人事施策へと落とし込んでいく。これらが、自社の人的資本経営ストーリーの骨格となっていく。
この時、自社で見定めた人的資本について開示するか否かについてもポリシーをすり合わせておく必要がある。判断基準となるのは、どのようなストーリー性を持たせながら開示していくのか、自社に対するステークホルダーの期待・理解はどのようなものか、といったものになる。またそのほかにも、今後のコーポレートガバナンス・コードの動向にも目を光らせ、開示項目を見極める必要があるだろう。
以上、ストーリーボード作成における注意点をまとめると、以下4つに集約できる。
①経営と事業、2つの観点から、本当に取り組むべきMustの問題点を定める。
②目標を数値化し、重要度を可視化する。
③施策の棚卸しをして、達成すべきものに集中する。
④開示においては義務対応だけではなく、自社の魅力を伝えることも意識する。