では、エンプロイヤーブランディングの確立のために何を行うべきなのだろうか。ここでは、先述の3つの成功要因を基に、ポイントとして次の3つを示したい。
1つ目のポイントは、働く場所としてのポジショニングをしっかりと定義すること。働く場所として何の魅力を打ち出していくのか。このとき核となる魅力がEVP(Employee Value Proposition=従業員への価値提案)である。
2つ目のポイントは、定義されたEVPの裏付けとなる施策の実行だ。
3つ目のポイントは、同様のEVPにもとづく施策を、社外に対しての魅力発信にも適用し、社内外に一体感のある施策のサイクルを構築することだ。これらによって、働く場所としてのブランド、すなわちエンプロイヤーブランディングが確立されていく。
EVPとは働く場所としての魅力や従業員の期待を明確に定義したものであり、これは取りも直さず、従業員自身が「なぜ私は他社ではなくここで働いているのか」という自問に対する端的な答えとなる。社内の人材に対する施策は、社外に向けての自社の魅力訴求と一体のものであり、エンプロイヤーブランディングは人的資本経営の戦略上、極めて重要であることを肝に銘じておきたい。
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では、EVPを核としたエンプロイヤーブランディングとは、実際はどういうものなのか。事例を2つほど紹介したい。ある大手ファストフードチェーン(BtoC)では、EVPとして①Best For Customers(お客さまのために行動できる権限を)、②Lead Yourself(自分次第でいくらでも成長できる機会を)、③A lot of Recognitions(さまざまな軸で認め合う制度と文化を)を設定、これらによって社内外の人材の惹きつけに成功している。
一方で、ある大手ソフトウエアベンダー(BtoB)では、①Meaningful Work(社会とあなたにとって意味ある仕事を)として、単純作業やつまらない業務は、自動化ないしはアウトソースすることを、②With Good People(互いに刺激しあえる優秀な同僚を)として、意識の高い組織で楽しく働けることを、③Competitive&Fair Reward(業界でも高く、そして公正な報酬を)としてEVPを発信、自社で働く意義を訴求している。
自社の状況がどうなっているのか、従業員は何を考えているのかを見える化し、働く場としての魅力を訴求するEVPの定義、仕組みづくりとマインドセット双方をシフトする施策の立案・実行・効果測定、そして採用ブランディングを意識した外部への訴求まで、エンプロイーブランディングを高めるための首尾一貫した戦略実行が求められる時代が到来している。
アビームコンサルティングは、企業・組織のエンプロイヤーブランディングの向上に向けたトータルな支援を行っている(図7)。今後も企業の変革パートナーとして、エンプロイヤーブランディングの実現を通した企業の持続的な成長に貢献していきたい。