サステナビリティ開示で問われる経営の意思決定 第2回 サステナビリティ開示におけるSSBJ準拠性対応と経営判断

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2026.05.29
  • SSBJ・ESRS対応
  • サステナビリティ経営
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第1回では、SSBJなどによってサステナビリティ開示の共通ルールが整備され、「どのような経営判断を行っているか」が比較される時代に入ったことを述べた。第2回では、その前提となる「SSBJ準拠性対応」に焦点を当てる。準拠性対応で問われるのは、開示項目の充足にとどまらない。企業がどのような判断根拠にもとづき、リスクと機会を戦略・目標・ガバナンスへ結び付けているのかを示せるかが、企業評価を左右する要素となる。

サステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)は、2027年3月期より時価総額過去5年平均3兆円以上の企業を対象として段階的に導入される制度である。2029年3月期からは、時価総額過去5年平均5,000億円以上の企業にも適用対象が拡大されるため、株価上昇に伴って、今後は適用対象企業が増加していく可能性にも留意が必要である。
SSBJ基準は財務報告・財務会計との整合性が強く意識されている点が特徴である。国際的には、IFRS(国際会計基準)の策定主体であるIFRS財団のもとでISSB基準が策定されており、日本では会計基準設定主体であるFASF(財務会計基準機構)が設立したSSBJ(サステナビリティ基準委員会)において、日本版のサステナビリティ開示基準の検討・策定が進められている。
また、SSBJに基づくサステナビリティ情報は、金融商品取引法に基づき上場会社が作成する有価証券報告書での開示が想定されている。そのため、財務報告との整合性・一貫性が求められるだけでなく、開示内容に誤りがあった場合には訂正報告が必要となる。さらに、証券取引等監視委員会による開示内容の監視対象となることから、意図的な虚偽記載や不正があった場合には、罰則対象となる。この点、今後はセーフハーバー・ルールの導入も予定されている。企業として、サステナビリティ情報に関する開示手続を構築・運用し、その実効性を確認していること、また、その旨を適切に開示している場合には、一定の責任免除が適用される方向で議論が進められている。こうした観点からも、サステナビリティ開示に関する内部統制の整備・運用は、今後より重要となる。特に、法定開示としての信頼性を確保するためには、開示情報の根拠や作成プロセスを明確にし、その内容を社内で確認できる状態にしておく必要がある。そのうえで、経営陣が重要なリスクと機会をどのような前提で判断し、開示内容に反映したのかを説明可能な状態にしておくことが求められる。

執筆者情報

  • 豊嶋 修平

    Principal
  • 張本 青波

    張本 青波

    Director

1. 日本企業にとってのSSBJの必要性 ─ 投資家が評価する経営情報とは

これまで日本企業におけるサステナビリティ情報は、主にサステナビリティレポートや統合報告書、ホームページなどの任意開示媒体にて公表されてきた。また、開示にあたって準拠すべき基準についても統一的なルールは存在せず、各企業がGRI(Global Reporting Initiative)スタンダード、IIRC(International Integrated Reporting Council)の国際統合報告フレームワーク、その他各種ガイドラインを参考にしながら各社の創意工夫により作成してきた。
こうした状況のなかでは、企業間の比較可能性が十分ではなく、また基準準拠性の観点でもばらつきがあったことから、投資家にとって情報の有用性や信頼性を判断しづらいという課題があった。そこへSSBJ基準が導入されることで、「統一的なルール」や「信頼性を判断する尺度」が整った。

では、SSBJ基準では、どのような情報開示が求められるのか。
SSBJ基準では、4つのコアコンテンツによる開示を要請している。具体的には、①戦略、②指標及び目標、③ガバナンス、④リスク管理である。

これら4つのコアコンテンツは、大きく見ると、「経営戦略」(戦略・指標及び目標)と「仕組み」(ガバナンス・リスク管理)の2つの側面に関する開示要求で構成されている。この考え方は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)でも用いられてきたフレームワークを踏襲している。
SSBJ基準がこうした構造となっている背景には、投資家が不確実な将来に対して、企業がどのような将来シナリオを前提に経営を行っていくのか、また、その判断を支えるガバナンスやリスク管理が十分に機能しているのかを評価するために必要な情報を得られるようにする狙いがある。この点、準拠性対応とは、基準要求に対して形式的に開示要求項目を埋めることではない。むしろ、不確実な将来に対する経営陣のリスク・機会の認識、その対応戦略や目標、さらにそれらを支える経営管理の仕組みも一体的に情報開示することで、投資家が企業の経営判断の妥当性やガバナンス・リスク管理の実効性を評価できる状態を構築することがポイントである。

したがって、企業としては、中長期的な価値創造につながる戦略、指標、目標を整理するとともに、それを支えるガバナンスやリスク管理が十分に機能しているかをあわせて検討する必要がある。また、現状の経営戦略やマテリアリティ、経営管理の仕組みに課題がある場合は、開示対応だけでなく、経営戦略やガバナンス・リスク管理プロセスそのものを見直すことも求められる。過去の取り組みや現状の経営管理を見直すプロセスがSSBJ対応のなかに組み込まれているからこそ、自社のサステナビリティ経営の実効性がより高まり、外部からの信頼獲得にもつながっていく。また、企業がどのようなリスク・機会を認識し、どのような経営判断を行っているのかを一体的に示すことが、投資家との対話や信認の向上にもつながる。 SSBJ基準における4つのコアコンテンツは、単に開示項目を並べるための枠組みではなく、企業の戦略、目標、ガバナンス、リスク管理が一貫して機能しているかを評価するための枠組みである。その意味で、投資家が評価するのは、個別の開示情報そのものではなく、それらを通じて見える経営判断の整合性と実効性である。

2. 法定開示における準拠性担保とは何か

有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の法定開示については、これまでも内閣府令に基づく開示要請自体は存在していたが、SSBJ基準のような詳細な開示基準はなかった。SSBJ基準によって、サステナビリティ開示に関する詳細な基準要請が整備されたことで、企業のガバナンス・監査の観点においても、サステナビリティ情報の位置づけは大きく変化している。特に、情報の信頼性確保に対する要求水準が高まっていること、また、それに対応するためのガバナンス体制・リスク管理体制の見直し、内部統制の整備が求められる点は見逃せない。

社長およびCFOは、有価証券報告書に添付される確認書(法定書類として一般公開される)において、財務情報のみならず、非財務・サステナビリティ情報についても適切に開示されていることを会社として確認する立場にある。つまり、サステナビリティ情報は、もはや任意に補足説明する「参考情報」ではなく、経営陣自らがその妥当性を確認し、説明可能な状態に置くべき情報へと位置づけが変わりつつある。そのため、経営陣は、最終的な開示表現だけでなく、その前提となるリスク認識、判断根拠、作成プロセスの妥当性までを確認できる状態を整えておく必要がある。今後は、内部監査部門においても非財務・サステナビリティ情報が適切に作成されていることについて、第三線として独立的な立場から検証する必要性が高まると考えられる。実際に、先行してSSBJに沿った開示を実施している企業では、サステナビリティ開示に関する社内ルールを制定したうえで、CFOを委員長とする情報開示委員会で審議を行うケースも見られる。また、内部監査による独立評価(3線ディフェンスにおける第3線としてのチェック)が実施されている事例も出始めている。

さらには、監査役の役割についても変化が生じている。監査役は、会社法に基づく事業報告にサステナビリティ情報が記載されている場合、自ら監査を行う必要がある。また、日本監査役協会からも、有価証券報告書に開示されるサステナビリティ情報に対して関心を持ち、その内容を確認することが求められている点にも留意が必要である(日本監査役協会 2026年1月7日公表 最終版「サステナビリティ情報の開示と保証をめぐる議論の動向について」)。

3. 先行企業にみる、SSBJ対応高度化のポイント

早期適用企業の開示を見ると、SSBJ対応にあたっては、ガバナンス・リスク管理との統合や経営戦略との統合を通じて、法的要請に応えるための適切な開示にとどまらず、サステナビリティに関わるリスクと機会への対応能力を高め、それが企業価値向上にどのようにつながるのかを示す工夫がなされていることが分かる。

これまでのサステナビリティ開示では、脱炭素や自然との共生、人的資本経営、コンプライアンス、人権といった重要テーマを概括的に示したうえで、自社の現状の取り組みを説明するケースが多かった。
一方、先行開示事例や好事例を踏まえると、自社の事業特性を踏まえたうえで、具体的にどのようなリスクと機会があるのか、それらに対してどのような取り組みを行ってきたのか、また今後どのような戦略・施策を講じていくのかを、より解像度高く示している。さらに、中長期的な観点から、将来の売上機会や財務的影響をどの程度見込んでいるのか、シナリオ分析を踏まえてその発生可能性をどうとらえているのかといった点まで、具体的に開示されている。
一見すると、これほど高度な情報開示が求められるのかと感じるかもしれない。しかし、SSBJ基準の条項を見ても、こうした詳細度の高い開示が要求されており、CSRD(欧州サステナビリティ開示規制)の動向を踏まえても、資本市場から求められる情報品質としては今後標準的な水準となっていくととらえるべきである。また、こうした高度な要求が時価総額の大きい企業から適用されるのは、海外投資家の比率が高く、資本市場に与える影響も大きいためである。適用対象となる時価総額5,000億円以上の企業は、自社が資本市場において大きな影響を持つ企業であることを認識したうえで、対応を進めていく必要がある。

こうした経営の本質に関わる情報、特に将来情報を含む内容については、サステナビリティ情報開示の担当部門だけで完結させるのではなく、事業部門、経営企画、財務経理部門などと連携しながら、十分に検討し、サステナビリティ委員会や取締役会といったガバナンス組織で十分に審議したうえで開示する必要がある。先行企業の取り組みからも、SSBJ対応では、開示内容の精緻化だけでなく、経営として何を判断し、その判断をどのような根拠で示すのかが問われていることが分かる。

4. 準拠性対応を通じて問われる経営判断

これまで述べてきた通り、SSBJ基準はグローバルルールを踏まえて日本で整備された基準であり、今後、上場企業が準拠すべき基準となっている。これを単なる「開示対応」としてとらえてしまうと、本来の全体像や本質を見失いかねない。SSBJ基準は、不確実性の高い経営環境のなかで企業がどのようなリスクと機会を認識し、それらをどのように経営判断へ反映しているのかを示す基準でもある。

そのため、開示対応以前に、サステナビリティ経営の高度化に資する仕組み、すなわちガバナンスやリスク管理を見直すことが求められる。また、リスクと機会を踏まえた戦略や経営目標そのものを見直していくことも、準拠性対応を実効性あるものにするうえで欠かせない。単に形式的にSSBJ基準へ対応するのではなく、開示基準への対応を経営判断の前提やガバナンス・リスク管理の検討プロセスと一体で整理していく必要がある。つまり、準拠性対応とは、開示項目を形式的に埋めることにとどまらず、経営陣が自社のリスク認識や判断根拠を確認し、説明可能な状態を整える取り組みでもある。
具体的には、従来設定してきたマテリアリティ(重要経営課題、重要なリスクと機会)を前提とするのではなく、マテリアリティそのものを改めて見直す必要がある。なぜなら、これまで重要と考えてきたリスクや機会が、現在の事業環境や資本市場において、企業価値に影響を与える論点であるとは限らないためだ。リスクについては、ネガティブインパクトを最小化し、機会については価値創出へつなげるために、ガバナンス、リスク管理、戦略的意思決定、KPIモニタリングプロセスなどを見直し、経営の中で実効的に機能させていくことが求められる。こうした「経営の仕組みの見直し」は、経営機能そのものを強化し、「稼ぐ力」や「変革を実行する力」を高める取り組みでもある。戦略や目標の見直しを行うことで、中長期的な成長性や収益性の向上にもつながると考える。

サステナビリティ開示に向けた情報検討においては、単に開示項目を整理するだけでは十分ではない。経営そのものを問い直すプロセスを経ることで初めて、開示情報の質が高まり、「実質的な企業価値向上」や「投資家からの信頼獲得」にもつながっていく。
SSBJ対応において問われるのは、開示項目を満たせるかだけではない。どのリスクと機会を重要と判断し、どの戦略や目標に反映し、どのようなガバナンスのもとで意思決定しているのか。これらを説明できる状態にあるかどうかが、企業の経営判断そのものを映し出す。
準拠性対応を通じて明らかになるのは、開示の巧拙ではなく、経営陣が自社の判断をどこまで説明可能な状態に整えているかである。

では、こうして引き受けた意思決定を、実務の中でどのように回し、その前提や判断の妥当性を継続的に説明可能な状態として保っていくのか。第3回では、この問いの起点となる「マテリアリティ」に焦点を当て、なぜ多くの企業で定義されながらも事業判断に結び付きにくいのか、そしてそれを経営の意思決定を駆動する仕組みへどう変えていくのかを見ていく。

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