「生成AIが切り拓くビジネス革命 ~驚きの成果を生む4つの成功ポイント~」 第一回 生成AIがもたらすビジネス革命

インサイト
2024.12.20
  • テクノロジー・トランスフォーメーション
  • クラウド
  • AI
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本インサイトでは、生成AIの進化、特に大規模言語モデル(LLM)の普及と新機能の追加がビジネスに与える影響を概観する。当社の独自調査からは、AIの業務活用が容易になり、企業が効率化や新たな価値創出を目指す様子がうかがえた。加えて、本紙では生成AI市場の成長予測と企業の活用方針に関する懸念も取り上げている。また、今後の全4回のインサイトでは、各回で具体的な活用方法や成功事例、さらにはAIガバナンスの重要性を明らかにし、企業が生成AIを導入する際の具体的な指針を提供する。

執筆者情報

  • 杉本 慶

    Director

進化を続けるLLM

2024年9月時点で、ChatGPTは1週間に2億人以上のユーザーが利用するアプリへと成長しており、生成AIは日常生活に広く浸透している。
2022年にChatGPTが登場したことで生成AIの普及が爆発的に進み、その後のGPT-3.5のリリースでより精度と応答速度が向上し、ビジネスでの活用が一層進んだ。
2024年に入ってからは5月にGPT-4oが登場し、これまでのテキスト生成に加えて、音声や画像の生成、音声や画像からテキストを生成することも可能となり、マルチモーダル処理を実現可能にした。さらに同年9月には、「長い思考連鎖」を内部で生成する能力を持つOpenAI o1が登場し、これまで苦手とされていた数学的問題や論理的パズルなど、深い思考を要する課題に対しても高精度な回答を生成できるようになった。 ChatGPTの登場からわずか2年余りで、LLMの精度は大きく向上し、その活用範囲と可能性は飛躍的に拡大している。

新たなフェーズに入った生成AI

2024年7月、OpenAIがLLMのAGI(人工汎用知能)への進歩を評価するための5段階の基準を作成したことが一部のメディアで報じられた。具体的には、AGIはレベル1の単純な会話能力から定義され、レベル2でより高度な問題解決能力を保有し、レベル3では自律的に行動が可能なエージェントと定義された。その後、レベル4では人類の知識に貢献するような新しいアイデアを生み出すイノベーターとなり、最終的にはレベル5で組織全体を自律的に運営することが可能なAIへと進化すると定義している。この通りに進化を遂げるのか、どのくらいの期間が掛かるのかは不確実だが、AIの応用範囲がどのように広がり、ビジネスにどう影響を与えるかを考察する際の一つの尺度としては、大変参考となる定義と言える。
では、現在の生成AIはどのレベルにあるのか。Open AI o1の登場でレベル2に到達し、最近ではGPT Researcherのようなレベル3に該当するエージェントAIが様々なサービスに組み込まれ始めている。与えられた目標を達成するために、自ら計画を立て判断し、行動可能なAIエージェントのフェーズに既に入っており、各社のソリューション開発競争が始まっている。
生成AIの活用がマルチモーダル化し、その処理がエージェント化することで、データ管理の在り方から変革する可能性がある。企業内の構造化データ、非構造化データ、IoTデータ、地理空間データなど、あらゆるデータを業務視点で意味や関係性を持たせて管理する「オントロジー」を活用した統合プラットフォームが登場し、その統合プラットフォーム上で生成AIエージェントが一連の業務プロセスを処理する世界が現実味を帯びている。業務プロセスの自動化とそれを実現するためのデータ管理の在り方は、新たな次元に向かっていると言える。

容易になったAIの業務活用

生成AIの登場以前から、AIプロジェクトでは既存の学習済みモデルを活用することは一般的であった。コンピュータビジョンの分野では、ImageNetで事前学習されたモデルが広く利用され、自然言語処理の分野では、Word2Vec、BERTなどの事前学習済みモデルが多くのタスクで活用された。またモデルは転移学習を通じて特定のタスクやドメインに適応されていた。その実現にはデータサイエンティストが必須であり、公開済みのモデルを活用するにも一定のハードルが存在していたと言える。
しかし近年のLLMはより汎用的で高性能なモデルとなり、我々はそれらを活用して要約、翻訳、検索などの多様なタスクを容易に実現できるようになった。従来のようなファインチューニングは必要なく、プロンプト文を与えるだけで個別のタスクを実行出来るプロンプトベースのアプローチは、従来のAIモデル構築やAI活用の考え方を大きく変えたと言える。これまでデータサイエンティストなしでは実現できなかったモデルの業務適用のハードルが下がったことでAIはより身近なものとなり、インプットから望むアウトプットを得るために、これらのモデルを業務でどのように効果的に活用するか、どのように業務効率化、価値創出を実現するのかが議論の中心となっている。

生成AI市場の拡大と各社の活用方針

生成AIの市場は急速に成長しており、JEITA(一般社団法人 日本電子情報技術産業協会)によると、日本における生成AI市場は、2023年に1,188億円、2025年には6,879億円、2030年には1兆7,774億円に達すると見込まれる。この成長率は年平均47.2%に達し、生成AI基盤モデル、関連アプリケーション、ソリューションサービス全体が急速に拡大している。特にその8割を生成AI関連アプリケーション市場が占めており、今後あらゆるアプリケーションに生成AIが組み込まれることが想定される。
各企業での取り組みにおいては、『令和6年版情報通信白書』によると、日本企業の生成AI活用方針を定めている企業の割合は42.7%となっている(「積極的に活用する方針である」および「活用する領域を限定して利用する方針である」の合計※1)。また同レポートでは、生成AI活用による効果や影響について、約75%の企業が「業務効率化や人員不足の解消につながる」と考える一方で、約70%の企業が「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクが拡大する」と回答している。さらに、「著作権等の権利を侵害する可能性がある」と懸念する企業も約7割に上り、生成AIのリスクを懸念している点が指摘されている。

※1 総務省 『令和6年版情報通信白書』
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n1510000.pdf

生成AI活用効果の実態

セキュリティリスクなどの課題はあるものの、期待される効果が大きいことから一部の企業で生成AIの活用検討やPoCが始まり、本番運用に入った事例も出始めている。アビームコンサルティングでも業種・業界を問わず様々な企業・団体向けに生成AIを活用したプロジェクトを進めている。昨年度は、社内固有の情報から回答を生成するRAG(Retrieved-Augmented-Generation)による応答・照会業務でのPoCが比較的多く行われたが、今年度からはマーケティング領域やシステム開発領域などでの活用検討が進んでいる。
一部の企業で導入が始まった生成AI活用だが、活用効果を各社はどのように評価しているのか。アビームコンサルティングが実施したビジネスパーソン向けの生成AI活用実態アンケート調査では、生成AIの導入に何かしら関与している回答者の47.2%が既にビジネスで生成AIを活用していると回答している(図1)。また既に活用している回答者のうち、期待以上の効果を実感している回答者は78.8%となり、生成AIの活用が始まった大半の企業で生成AIを使いこなすことが出来ている状況がうかがえる(図2)。
生成AIの活用形態別に導入効果を確認したところ「自社開発によるAIシステム開発」の約83%が期待以上の効果を実感しており、「既存のSaaSプラットフォームの活用」(69.5%)を大きく上回っている結果が見られる(図3)。
生成AI活用効果が期待以上の成果を出した理由(成果に寄与したフェーズ)では、「生成AIプロジェクト立上げ・構想策定・ユースケース洗出し」(39.2%)、「生成AIシステムやサービスが満たすべき要件の整理」(36.6%)、「生成AIシステムやサービスの検証環境構築・技術検証・比較評価」(11.6%)と続く(図4)。
一方で、生成AI活用効果が期待に至らなかった理由(取り組みが十分でなく、期待に至らない原因となったフェーズ)では、「生成AIシステムやサービスが満たすべき要件の整理」(33.8%)、「生成AIシステムやサービスの検証環境構築・技術検証・比較評価」(26.2%)、「生成AIプロジェクト立上げ・構想策定・ユースケース洗出し」(17.2%)、と続いている(図5)。
生成AIは自社開発や既存SaaSサービス活用など活用方法には選択肢があるが、活用に至った企業の多くがその効果を実感することが出来ている状況である。特に、上流フェーズである「構想策定やユースケース出し」、「生成AIシステム・サービスが満たすべき要件整理」が業務活用で効果を実感するために重要といえる。生成AIの活用形態として、自社開発の方が既存のSaaSサービス活用よりも効果を実感しやすいことからも、各社の構想や個社ごとの要件に合わせた生成AI活用の方がより効果を得られたと評価する傾向が見られた。
一方で、導入効果が期待に至らなかった回答者では「生成AIシステムの環境構築・技術検証・比較評価」を理由に挙げている。上流の要件やユースケースの検討において技術的なフィージビリティを含めた検討が十分になされていなかったことが推察される。構想策定やユースケースの検討段階から技術的な視点も含めた活用検討が重要と言える。

図1 生成AI導入状況
図2 生成AI活用の効果
図3 生成AI導入方針
図4 生成AI活用効果が期待以上の成果を出した理由
図5 生成AI活用効果が当初の期待に至らなかった原因

生成AIを業務で活用する際のポイント

生成AIが登場してわずか2年で、AI活用のあり方は大きく変化した。多くの企業が生成AIの導入を開始し、その効果を実感し始めている。それは、生成AIを単に導入し汎用的なユースケースで活用するだけでは他社との差別化や競争力とはならないということ、より個社ごとの業務課題やコア業務での活用検討を進めることが重要になっていることを示唆する。
では、生成AIの活用で効果を出し他社との差別化を実現するためには、どのような点をおさえる必要があるのか。アビームコンサルティングでは次の4つのポイントが生成AI活用において重要だと考えている。

  1. 生成AIのビジネス価値を最大化するには、全社横断的なプロジェクト立ち上げとビジョンの共有が不可欠である。戦略的にビジョンを共有し、組織全体で生成AI導入に取り組むアプローチが求められる。
  2. 倫理的・法的なリスクが高い生成AIの導入では、適切な業務プロセスと運用管理体制のデザインが求められる。リスクを最小化し、ビジネスインパクトを最大化する方法について考える必要がある。
  3. 生成AIを効果的に運用していくには、大量の非構造化データを加工・蓄積でき、モデルやプロンプトのバージョン管理や生成AIアプリの出力結果のトレーサビリティを確保できるようなシステム設計が鍵となる。
  4. 生成AI導入では、現場で小さく試し、改善を繰り返すアジャイルなアプローチが効果的である。現場の期待と現実をすり合わせ、実際に使われる生成AIを導く方法が必要である。
     

各ポイントを踏まえて具体的にどのように生成AI活用を進めるかについて次回以降で解説していく。

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