また、データ活用は、製造トラブルに留まらず、コミュニケーショントラブルの改善効果も見込まれる。CMO/CDMO業務において、製薬企業や本社への定期的な製造状況報告、製薬企業への見積作成などは製造現場の煩雑な業務の一つとして挙げられることが多い。見積を例に挙げると、作成のためには、CMO/CDMOが製薬企業から受領した情報に基づき、タンクの洗浄時間、反応液のpHなどを考慮した適切な材質のタンク選定などを考慮した上でベストなタンク繰りを決めるため、自社設備や合成化学などの情報に精通した熟練スタッフのリソースを割く必要がある。前述の通りCMO/CDMO事業で熟練スタッフを潤沢に持つことは簡単でないため、見積依頼に対して優先順位を付けざるを得ないことが多い。
これに対し、例えば限られた情報をインプットし、タンク繰り計画作成を支援するシステムを構築すれば、見積作成プロセスは標準化され、熟練スタッフに頼ることなく迅速に見積もりを作成できる。これにより、見積依頼に対する顧客満足度は高くなると同時に熟練スタッフは他の業務に集中することができ、サービスの質を高めるための余力を生み出すことができる。これらは全て、図3-1に示すように製造トラブルリスクの削減のためのデータ蓄積の過程の中で達成される期待効果である。
その他、SOPの作成や逸脱発生時のCAPA (Corrective Action & Preventive Action) 作成支援もデータ蓄積の過程で実現可能となる。最終的には製造トラブルリスクの提言やコミュニケーショントラブルの削減を目的としたデータ蓄積だが、その過程で得られる期待効果を見据え、競合他社との段階的な差別化戦略を描いていくことも有効な考え方である。