生成AIの活用で進化するビジネスの現場 ~ユーザーのニーズ・価値観分析への活用~

インサイト
2024.09.30
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ChatGPTやMicrosoft Copilotなどの登場により生成AIの業務活用が急速に進んでいるが、用途の多くは文章・データの要約・整理などによる個々人の業務の効率化にとどまっており、生成AIの活用範囲は限定的といえる。
アビームコンサルティングでは、企業の課題解決の手段として生成AIの活用を個々人の業務効率化を含むさまざまな範囲に広げ、新たな活用法を開発している。その活用法の1つとして、ユーザーのニーズ・価値観分析が挙げられる。
本インサイトでは、我々が支援するブランド戦略・施策策定プロジェクトにおいてターゲットユーザーのニーズ・価値観分析に生成AIを活用した事例をもとに、活用の要諦や留意点について紹介する。

執筆者情報

  • 西岡 千尋

    Principal
  • 財部 透

    Principal

ニーズ・価値観分析への生成AIの活用

ターゲットユーザーのニーズや価値観を把握することは、多くのプロジェクトの戦略策定の段階で求められる。
これはブランド戦略策定やマーケティング施策立案においても同様である。昨今は市場の変化が早いため、極力スピーディかつ反復的にターゲットユーザーのニーズ・価値観の調査を行い、戦略や施策に反映することが望ましいと考えられている。通常は一般の人の中からターゲットに該当する人をリクルートし、インタビューなどの調査を実施するが、この方法だとリクルートや調査結果を得るまでに一定の時間とコストを伴うという課題がある。収集したデータの分析を生成AIに委ねたとしても、最低でも2ヵ月程度は要するのが一般的だ。加えて個人情報の管理や倫理審査など、考慮しなければならない事項も増える。このようなリアルな人物への調査を定期的に行い戦略や施策を修正するのは相応の時間とコストがかかるため、初回は実施できても、定期的に継続するハードルは高い。

そこでアビームコンサルティングでは、リアルな人物のかわりに、ターゲットの属性を持たせた生成AIを用意し、その生成AIへ質問し回答を得るという新しい方法をとることとした。具体的には、年齢、性別、年収などを定義したターゲットユーザーのセグメント情報をあらかじめ生成AIに設定し、生成AIがすべての質問にその属性を持つ人間として回答するように設計したのである。生成AIは指定した属性を持つ人物の代表的・平均的な意見を回答するため、その属性のマジョリティへのインタビューと同等の結果を得ることができる。

こうして調査に伴う時間とコストを削減し、かつインタラクティブに一定のニーズ・価値観を確認できるようになった(図1)。これを活用することで調査者が知りたいことにピンポイントで回答が返ってくるため、小さな質問を繰り返しながらユーザーに対する理解を深め、戦略や施策の仮説を立案段階で細やかに検証できるようになった。

図1 通常の調査手法との比較

ブランド戦略・施策策定プロジェクトでの生成AIの活用事例

ここでは、ブランド戦略・施策策定プロジェクトにおいてターゲットユーザーのニーズ・価値観分析にどのように生成AIを活用したかを紹介する。

ターゲットとしているユーザーにブランドを認知してもらい、支持を得るためには、その層が共感できるメッセージや価値を、その層がキャッチできるチャネルで提供する必要がある。そのためには、ターゲットユーザーのニーズや価値観をしっかりと把握することが必要不可欠となる。しかし上述のように、リアルな人物へインタビューを行う通常手段による調査では、一定の時間とコストがかかってしまう。本プロジェクトのクライアントはブランド戦略策定から施策実行までを極力クイックに進め、素早く小さく回して成果を得ることを重視していたため、生成AIを活用することにした。

本プロジェクトでは、はじめにマクロ分析を行い、年齢・年収・居住地域からターゲットを4つのセグメントに分類・定義した。各セグメントのニーズや価値観についてデスクトップリサーチを行い、仮説を立てた。そのうえで、生成AIを用いて以下のことを行った。

1. 各セグメントのニーズ・価値観仮説の検証

はじめに、生成AI上に4つのセグメントの属性を説明するプロンプト(命令文)を作成し、設定した。プロンプトは各セグメントを定義する年齢・年収・居住地域で構成され、その属性を持つ者としてすべての質問に回答するよう設定した。

次に、セグメント毎に、ニーズ・価値観の仮説を検証するための生成AIへの質問項目を作成した。仮説に対してyes/noで問うクローズドな質問をすると、生成AIの特性上肯定側に倒れる傾向が見つかったため、質問文の表現には注意を払った。例えば、「あなたは今の生活に満足していますか?」だけで質問を終えるのではなく、「あなたは今の生活に満足していますか?それとも何か課題を感じていますか?」と、対抗の選択肢を同時に提示するといった工夫を施した。

最後に、各セグメントの属性を持たせた生成AIそれぞれに用意した質問を投げかけ、回答を得た(図2)。必要に応じて質問を追加し、生成AIとの一連の会話のやりとりから、仮説が正しいか、誤っているならどのように仮説を改められるかを分析した。

図2 ニーズ・価値観仮説検証のプロセスと利用イメージ

2. セグメント間のニーズ・価値観の違いが表れる境目の把握

1によってセグメント毎のニーズ・価値観の仮説が検証された後、セグメント毎の特徴にあった具体的な施策を検討するためには、さらに解像度を上げて各セグメントのニーズ・価値観がどのような条件で変化するのかを捉える必要がある。セグメント間のニーズ・価値観の違いが表れる境目を把握するために、再び生成AIを活用した。

まず、ニーズや価値観を様々な角度から問う選択式の質問を作成した。例えば、「あなたは○○関連の商品を購入するとき、スピード重視で決めたいですか?それともいろいろな選択肢を比較検討してじっくり考えたいですか?」というものだ。

次に1と同様に各セグメントの属性を持つ生成AIを設定し、作成した選択式の質問を各セグメントに投げかけ、回答を比較した。4セグメントの間で回答が分かれるようであれば、その回答はセグメント間のニーズ・価値観の違いを表す特徴と判断し、記録した。回答が4セグメントとも同じになるようであれば特徴にならないと判断して、回答が分かれるまで質問の切り口や選択肢の内容を変えた。
このように質問と回答の比較を繰り返して、各セグメントの特徴を明確化していった(図3)。

図3 セグメント間のニーズ・価値観の違いを探索・把握するプロセス

生成AIによる社会・事業の課題解決

今回紹介したプロジェクトでは、ターゲットユーザーのニーズ・価値観調査に生成AIを活用することで、通常3か月程度かかるところを2週間程度に短縮した。かつ、検討を進めながら追加で聞きたいことが出てきた際に、都度質問することができた。本プロジェクトはこれから具体的なマーケティング施策の実行・評価フェーズに入る。そこでリアルなターゲットユーザーの反応を評価し、その結果に基づいてセグメントの情報を更新の上、施策改善検討にも同様に生成AIを活用予定である。また、他のプロジェクトの戦略策定フェーズへの活用も進めている。

ただし、生成AIの回答はあくまでそのセグメントの代表値であること、従来型のリアルな対象に対するインタビューや調査を完全に代替できるわけではないという点に留意したい。生成AIは質問に対し、関連する情報を集めてもっともらしい文章を生成する。ゆえに、ニーズ・価値観調査に活用する場合、仮説に対する大多数の意見を確認することは可能と言える。しかし裏を返せば、少数だが際立った意見は得られないということでもある。新規サービス企画の場面では、大多数の意見を確認するよりもエクストリーム(極端)な少数の意見からヒントを得ることが必要となるケースがある。そのようなユースケースでは、生成AIではなくエクストリームユーザーへのデプスインタビューを実施するという従来の方法がより効果的といえる(図4)。

図4 生成AIで代替可能な範囲

生成AIはまだまださまざまな方向に活用の幅を広げ、社会や事業の課題解決に役立てることができる。しかし、上述の通り万能ではないため、生成AIの特徴や制約を踏まえて正しく使わなければ、狙った通りの効果は得られない。
アビームコンサルティングでは生成AIをさまざまな社会課題・事業課題の解決に寄与した実績がある。社内問合せ対応の効率化従業員の睡眠負債の改善ベテラン社員の技能継承与信審査の高度化など、生成AIの活用領域は多様だ。生成AIの特徴や制約についても熟知しており、クライアントの課題に応じて適したユースケースを提案することも可能なため、ぜひご相談いただきたい。   

アビームコンサルティングは、今後もテクノロジーを活用し、社会課題・事業課題の解決に向けた活動を推進していく。

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