審査観点の多面化について、海外ではSNSなどのソーシャルデータが注目されているが、日本における利用率は低く、また個人を特定するための名寄せも難しいため、有効的なデータとは言えない。多面化を検討する際に重要なことは、やみくもにデータを追加するのではなく、個人向けローン市場であればローン弁済能力にまつわるデータを検討し活用することである。具体的には、弁済能力に直接的に関連する資金需要者のキャッシュフローを把握可能な家計簿アプリケーションのデータや、間接的に弁済能力に関連する健康状態を表現したバイタルデータなどが広く一般的に活用可能である。また、弁済能力の根底にある弁済意志に着目し、把握できる可能性が高い性格データなども、将来的には有効なデータとなる可能性が高いと言える。
また、審査モデルの高度化については、AIには数千というアルゴリズムが存在するため利活用に際してまず自社環境にて最適なアルゴリズムを選定することが重要である。最適なアルゴリズム選定にむけた方法論としては、机上でのアルゴリズム評価に加え、自社環境にてPoCによるトライ&エラーを繰り返し選定することが重要である。
なお、AIを与信審査に活用する際には注意しなければならないことがある。AIは分析担当者が判断できなかったデフォルトの特徴を判断することが可能になる反面、とても複雑な分析を機械的に行うため、分析結果を人間が解釈できないケースがほとんどである。与信審査業務は、当局対応の観点から「結果の解釈性」を担保することが重要な要件である。これを満たすためには、AI活用の範囲を「結果の解釈性」が必要ない範囲に限定し、部分活用することで解釈性の低下(ブラックボックス化)を回避することが重要となり、その為には、審査モデルが1つのシンプルな構成ではなく、解釈性の観点で分割した複数個構成、アンサンブルなモデル構成をとることがAI活用における肝となる。
以上のような個人向けローンにおける与信審査の考え方やポイントは、法人向け融資にも応用が可能であり、また、審査技術そのものはリースの審査にも応用が可能であると考える。アビームコンサルティングは、今後、個人向け消費者ローン業界で蓄積した与信審査ノウハウを他業界にも展開することにより、資金需要者メリットの最大化と融資企業の成長に貢献したいと考えている。