RAF運営を行ううえで、導入効果を高める重要なキーワードの1つに「リスクカルチャーの醸成」があげられる。リスクカルチャーの定義そのものは各金融機関によって多少の違いはあるものの、平たく言えば「業務運営の中で、役職員が業務遂行の中で感じるリスクを役職員間で共有化し、何らかの措置を行えるような企業文化」ということであると言えよう。正しく共有化できるように共通言語的にKPI等を設定し、そのKPIに関する状況説明等を行うことによって共有化できるという考え方が根底にある。つまり、使用されるKPIが決定された経緯や導入理由が関係者間で正しく認識されている前提条件が必要で、KPIを使う意味合いが理解できていなければ、的確な情報も共有することが困難になると考えられる。
一般的に単年度業務計画や中期経営計画の内容は説明会等を経て全役職員に共有されるが、中期経営計画で掲げられる重要な経営指標について、その選択理由が伝わらなければ、会社全体がどこへ向かっているのかの把握が困難になる。重要な経営指標からもう一段細分化し、経営指標達成のために不可欠な要素を満たすものがKPIであると考えれば、会社の方向性に関する補助的要素を持ち、役職員も理解をする可能性が出てくる。しかしながら、KPIを見ても方向性が伝わらないようであれば、逆にリスクカルチャーの醸成にはかなり時間を要することであろう。
話を戻し、KPI導入経緯等が共有されている前提では、どのような意識改革をもたらし、どのようなメリットが生じるかを考えてみよう。重要な経営指標やKPIが選定されている理由を把握しているということは、単年度業務計画における役職員個人や所属している部門に目標設定として落とし込まれていると考えられるため、業務運営の中での無駄が削減されることにつながる。例えば貸出の新規取引先獲得の目標が設定されている場合、業種や貸出対象期間、債務者格付レベル等、より選定要件がクリアなものとなるため、業務の優先順位付けができるということになる。
本部と収益部門との連携という点で考えると、収益部門における目標設定の意味合いが伝わっていることにより、目標達成への達成度(逼迫度)が共有できるようになる。達成困難な部分が出てくれば、セカンドベスト的な選択をすることも可能になってくる。会社全体を見渡した感覚(本部)と、実際の市場感覚(収益部門)の温度差も理解できるようになれば、最終的には妥当性のある計画策定が実現し、環境認識も大きくずれなくなることが期待できると考えられる。
こうした内容に関しては、数値化した形での期待効果を算出することは困難であるが、RAFをすでに導入している金融機関にヒアリングすると、概ねリスクカルチャーの醸成による効果があると感じている印象である。