新型コロナウイルスが鉄道業界に大きな影響を与えるようになり2年近くが経過した。アビームコンサルティングが2021年3月に公表した「New Normalにおけるワークスタイル動向調査」によれば、ワークスタイルの変化、企業及び就業者の意識の変化によりテレワークが拡大し、通勤需要についてはコロナ禍以前の水準へ完全に回復することは難しいという見立てである。
本インサイトでは、このような背景を踏まえて、鉄道業界における異業種参入のトレンドと今後の方向性について紹介する。
まず、本章では、ウィズコロナ・アフターコロナにおいて鉄道会社が目指す姿について、大手鉄道会社が2021年度に公表した中期経営計画や決算概況など(JR6社と大手民営鉄道のうち売上高上位8社を対象)に基づき整理する。
まず経営の根幹となる運輸事業は、コロナ禍による需要喪失に加え、それ以前から見込まれていた人口減少(図1)も視野に入れると益々厳しくなることが予想される。そのため、そうした経営環境に対応し、運輸事業の抜本的な構造改革に取組み、経営の柔軟性を高めていかなければならない状況にある。すでに、運賃の見直し、減便、終電の繰り上げなど、利用状況に応じたサービスの見直しが進められており、さらに、生産性の向上のためのデジタルトランスフォーメーション(DX)が、チケットレス化、ワンマン・自動運転の拡大、IoTなどテクノロジーを活用した予防保全・予知保全(CBM・スマートメンテナンスなど)の推進などを益々加速していくと予想される。また、収益拡大に向けては、例えば都市近郊でのマイクロツーリズムなどの観光需要拡大や、地方におけるワーケーション需要の喚起など、新たな需要の創出が加速すると見込まれる。
次に非運輸事業だが、大手鉄道会社による多角化経営(=異業種参入)の歴史は長い。何故なら、鉄道各社では沿線における付加価値提供により、沿線人口の増加や沿線利用者の拡大を狙ってきたからである。そして昨今の顧客ニーズの多様化や厳しい経営環境を勘案すると、今後このような取組みは更に拡大していくことが予想される。例えば、前述のワークスタイルの変化などに対応したシェアオフィスに代表される駅・駅周辺におけるサービスの拡充、駅周辺や沿線の魅力的なまちづくりなどはその代表例であろう。また、非接触型の交通系ICカードの浸透により、利用者の移動・購買・決済に関わるデータを鉄道会社が活用できる機運も高まっている。沿線の人々のくらしを豊かにすることを目指し、個人向けコンシェルジュサービスといった新たな価値創出に向けた取組みに着手し始める会社も見られ、鉄道各社は益々このような動きを進めていくのではないだろうか(図2)。
このように、鉄道各社はしっかりと足元の運輸事業の基盤を固めながら非運輸事業の収益力拡大に取り組み、コロナ禍を受けて今後さらに新たな成長事業・成長分野への進出を志向していくと予想される。すでに、DXを活用して新たな事業領域へ積極的に進出した例もみられる。次章では、活発化する鉄道会社の新たな異業種参入具体例を示したい。