ニューノーマル時代のサプライチェーンマネジメントとは 第1回

インサイト
2022.03.21
  • サプライチェーンマネジメント
  • エンジニアリングチェーンマネジメント
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執筆者情報

  • 原田 健志

    Principal

経済のグローバル化、多極化に伴い、多くの企業は、グローバル規模で自社のサプライチェーン、取引先も含めたバリューチェーンを拡大してきた。しかし、2020年初頭より世界的に広まり、本校執筆中の8月現在もなお深刻な影響を及ぼしているCOVID-19は、企業のサプライチェーンにも甚大な影響を与えると同時に、新たな変革の必要性も突きつけている。

発生初期は、特に中国を中心としたサプライヤの操業や出荷の停止・縮小による影響で、多くの日本企業が部品調達の観点から多大な影響を受けた。次いで、欧米・日本への感染拡大に伴い、自社の生産・物流機能が影響を受け、いかに能力を確保するのか、いかに代替するのかに苦しめられた。また、先進国を中心に一旦のピークを迎えた後は、再拡大のリスクを引き続き抱える中で、リスクを抑えつつ、どのようにオペレーションを回していくのかということに今もなお、多くの企業が直面している。

Withコロナと言われる、リスクとの共存は少なくとも2~3年は続くという声もある。僅か半年ほどの間に、世界が大きく変わったのである。

弊社はこの間、多くの企業のサプライチェーンの企画部門や現場から相談を受け、膝を突き合わせながら、どのように対応すべきかの議論を重ねてきた。サプライチェーンの繋がりであり、各業務の継続性をどのように担保するのか、言い換えれば、サプライチェーン自体のレジリエンス(復旧・復元力)を高めつつ、各業務のオペレーションに対してもデジタル技術を活用し如何にリスクを抑えていくか、という2点についてである。

本連載では、それらの示唆をもとに、ニューノーマル時代のサプライチェーンマネジメント(SCM)とは何かとしてまとめる。連載の前半はリスクの再拡大や非常時に備えどのようにレジリエンスを高めるのか、そのために、可視化・多重化・機動化するSCMについてそれぞれのステップを解説する。連載の後半は先端デジタル技術を活用することでオペレーションのリスクを抑えつつ、同時に業務自体も高度化するSCMの可能性について解説する。今もなお、現場で奮闘を続けている企業の方々への参考となれば幸いである。

図1-1. グローバルサプライチェーン進化の歴史 図1-1. グローバルサプライチェーン進化の歴史

非常時に備えるサプライチェーンマネジメントとは – STEP1.リスクを可視化せよ

COVID-19への対応において、多くの企業が改めて自社のサプライチェーンの能力やリスクが把握できていないことに気づかされた。日本企業の多くは、過去の災害の経験もあり、グローバルで、ある程度のリスクの把握を含めたBCP対策ができていると自認していた。その大部分は、今回のように同時多発的にリスクが顕在化される中で、日々、その対応に追われてしまい、改めて、対策ができていなかったことに気づかされたのである。以下、部材の調達、生産、物流、そして、需給調整(意思決定)の観点から、サプライチェーンのリスクの可視化を進める際の論点を整理する。

図1-2. サプライチェーンリスク可視化のフレーム 図1-2. サプライチェーンリスク可視化のフレーム

調達リスクを可視化せよ

調達において、まず求められるのは、BOM(部品表/部品構成)に基づいたサプライヤの階層およびサプライヤの生産能力の可視化である。生産能力とは、どの地域の生産拠点でどのくらいの生産・供給能力を持っているのか、ということである。ある機械メーカーでは、過去の震災・洪水の経験から、直接取引するサプライヤだけではなく、4~6階層下の部品サプライヤの生産拠点まで把握し、生産拠点も東西・国内外と分散されるよう意識して調達先を選定している。今回のCOVID-19においてもその情報がリスク把握のベースとなり機能していたということであった。

次に、通常の発注先に加え、サプライヤの被災に備え、代替となるサプライヤ、および、代替調達物流手段の確保もあげられる。サプライヤの優先度と選別基準を明確化しておくことで、非常時にどのサプライヤを優先して発注するのかだけではなく、どのサプライヤを優先して人的・資金的に支援するのか、ということも把握しておくのである。当然、優先付けの要素にはキーパーツの生産能力も含まれる。

また、サプライヤの可視化と合わせてキーパーツそのものの識別・可視化も欠かせない。リスク分まで考慮したキーパーツの適正な在庫レベルの確認、そして、いざという時に社内のどの生産拠点にキーパーツを優先して供給するかの方針も重要となる。残念ながら、海外の先進企業と比較すると、キーパーツの戦略的な在庫管理までできている日本企業は多くないというのが、筆者の所感である。

生産リスクを可視化せよ

生産においては、自社の生産拠点毎・製品毎の生産能力のハード面での可視化がまず考えられ、実際に多くの企業にて把握が取り組まれている。通常の災害を意識するならばそれでもよいが、今回のCOVID-19においては、生産に必要なリソース、つまり、従業員、協力会社や原材料・部品在庫などのソフト面での可視化の必要性も明らかとなった。今回も、中国や欧米で人の移動が制限された結果、作業員不足により、生産拠点の稼働を落とさざるを得なかった企業も多い。

物流リスクを可視化せよ

物流においては、生産と同様に、自社および3PLの物流拠点毎の保管能力のハード面での可視化、および、物流拠点業務に必要なリソース、つまり、従業員、協力会社や製品在庫などのソフト面での可視化が必要となる。物流拠点は現地の判断で多段階の倉庫を持っているケースもあり、ある一拠点が機能不全に陥ると他拠点へも連鎖的に影響を及ぼすこともある。

さらに、それぞれの拠点からの輸配送手段と能力・リードタイムの可視化も必要となる。輸配送手段の可視化には、調達と同様に、代替となる輸送手段の確保も含まれる。

需給調整リスクを可視化せよ

最後に、需給調整においては、意思決定における前提条件の可視化が必要となる。上述の調達・生産・物流それぞれの能力とリスクの可視化だけではなく、既存顧客やオーダー自体を可視化することや、いざという時にどの顧客を優先するのか、待たせるのか、断るのかといったことも含めた方針の可視化が必要となる。

本稿は、『ニューノーマル時代のサプライチェーンマネジメントとは』の初回として、リスクの再拡大や非常時に備えての最初のステップであるサプライチェーンリスクの可視化について解説した。リスクの可視化におけるポイントは、今、見えている範囲の取引先なり拠点の把握だけではなく、その先や代替手段まで含めて如何に把握するのかであり、また、把握するためのプロセスを如何に通常の業務に組み込むかである。多くの日本企業では、一時的に取り組まれていることが多いが、通常の業務にまで組み込まれているケースは多くないというのが筆者の所感である。企業の方々には、このポイントを踏まえつつ、可視化に取り組んでいただければ幸いである。

次回は、サプライチェーンネットワークの多重化によるリスクの低減について取り上げる。

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