コロナ禍により消費者の生活スタイルは大きく変化しており、企業は待ったなしの対応を迫られている。一方でビジネスを持続的に成長させていくためには、コロナ終息後の変化を見据えて手を打ち始めることも必要で、Withコロナ/Afterコロナ両面において対応を考え実行していくことが求められる。
「在宅での職住一体生活」への対応(Withコロナ)
従来の「休日は自宅、平日は会社、出勤時はビジネススーツ、朝晩は自宅で食べるが、昼は会社近くでコンビニか外食」といった職住が分離した生活スタイルは、コロナ禍により「自宅」という制限下ではあるものの「職住が一体化」することにより、ECの利用は急激に進展した。小売業のFuturist(フューシャリスト)として活躍するKate Ancketill氏によると、イギリスの労働者の約60%は既に在宅勤務にシフトし、2019年比で173%増加している。
これらの背景から、小売業のEC領域の対応強化は今後も必須だが、衣食住のカテゴリにより、その内容は異なる。
食料品については、業績が伸びている実店舗において感染対策を徹底すると共に、ECではネットスーパーのキャパシティ拡充や採算性の改善、急拡大しているUberEats/出前館等のデリバリー専業者やネットコンビニとの競争差別化要因の作り込みが必要だ。そのためには、実店舗のダークストア(ネット販売専用の物流センター)化や小規模自動倉庫化や、現在は個人の勘と経験で対応している宅配経路の最適化など、ラストワンマイルの強化は必須の対応となる。
衣料品については、もはや実店舗に依存した成長戦略は描き難い。ECを軸にしていく場合でも、どこまでリアルな試着(サイズ感・着心地)体験に近づけられるか、Web接客などにより、いかに実店舗では得られない異なる体験を提供できるか、またサイズが合わない場合の返品ハードルをいかに下げられるかといった、顧客体験の向上が勝敗の分かれ目となる。モール出店も一つのチャネルにはなりえるが、やはりブランドの世界観をより鮮明に押し出せる自社サイトによるファンづくりが重要となるだろう。このような課題に対応するための一つの取り組みとして、海外ではライブコマースが有効なチャネルとして期待されている。AR等の技術と組み合わせることで、消費者は商品を前に専門家、アーティスト、インフルエンサーと共に欲しい情報を得る、共に商品を体験することができる。そのため顧客満足度が上がり、EC上でのリピート購入に繋がりやすいという。また、最近ではラグジュアリーブランドであってもXRやWeb接客を用いることで高価格商品の販売に成功し始めている。
住関連商品については、XR等を活用したECサイト拡充の他に、実店舗は「売らない店舗」と位置付け体験や試せる場として構え、その場でEC決済するといったことや、BOPIS(Buy Online Pickup In Store)等のEC×リアル店舗の融合がより重要になるだろう。
「自由な場所での職住一体生活」を意識した取り組み(Afterコロナ)
Withからその先を見据えてみよう。現在の自宅中心の職住一体型の生活スタイルから、Afterコロナは自宅だけではなく、実家、旅行先(ワーケーション)など生活の場の選択肢が増えると考えられる。
例えば、家族との生活をより豊かに、より良いワーク環境を整えたいという在宅メインの生活スタイル、都会から離れ実家の両親と充実した日々を過ごし、働けるときにオンラインで働く生活スタイル、平日は出勤して働くが週末はリゾート地を巡って副業に勤しむ生活スタイル等、今までは考えられなかった生活スタイルが当たり前になっていく。
企業は、そのような様々な生活スタイルに合った買い方・買い物体験の提供や、生活をより豊かなものにするために、業態や商品カテゴリを超えたライフスタイルの提案そのものが必要になる。例えば在宅ワーク中心の消費者には、快適なデスクや椅子、オンライン会議用のIT機器の他にコーヒーサーバーやワークカジュアルなアパレルの提案などが必要になるだろう。平日出勤して週末はワーケーションで副業に勤しむスタイルの消費者には、またまったく異なる提案をすることになるはずだ。
こうした提案を実現するためには消費者の過去の購買データから直接的な商品をリコメンドするだけではなく、購買データはもちろん健康、移動、趣味・嗜好、究極的には“想い”といったデータを捉える必要がある。昨今のスマートフォンや各種IoTデバイス、GPSやSNS等の普及により、本人の意識/無意識に関わらずライフログ(生活ログ)データが蓄積されている。サービスが始まった5Gやさらなるセンシングの進化により、今後さらに精度が高いビッグデータとなり、情報銀行等のPDS(パーソナルデータストア)化が進み、小売業側でも今まで利用が難しかったパーソナルデータの活用が可能となる。それにより消費者自身が予想もしなかった商品の組み合わせを提案し、それが実はその人の潜在的なニーズにぴったり合致するというような考え方が必要になる。高級紳士服の職人はスーツの生地や色味、形の好みを顧客に聞いてその通りに作るのではなく、その人と「会話をしながら」趣味・嗜好や人柄、利用シチュエーション等の情報を得て、それをもとに最高のスーツを仕立てる。そのようなオーダーメードスーツはビスポークスーツと呼ばれるが、究極のパーソナライズとは、消費者の潜在ニーズを的確に捉え、そうありたい、そう感じたい商品・サービスの組み合わせを提案するという、正にビスポーク型で生活スタイルに対応することだと言える。
Afterコロナでは、こういった自由な職住一体型の生活スタイルをより豊かにする商品・サービスの提案・提供を行うための究極的なパーソナライズ化がビジネスサイドに求められるだろう。