先述のとおり、人材ポートフォリオは、事業戦略と人材戦略を結びつける「設計図」の役割を担うものである。重要なのは、作成した人材ポートフォリオをいかに分析し、実践的に活用していくかという点にある。
分析における第一の観点は、個々の職務と人材の質を評価することである。すなわち、各職務・ポジションにおいて想定される能力を十分に発揮できているか、あるいはスキルアンマッチの状態で滞留されていないかといった視点から、人材配置の妥当性を検証することである。
そうすることで、個々の職務遂行能力を高めるために育成すべきスキルを明確にし、育成プランの立案に活用することもできる。従来の育成は、上司との対話を通じた定性的な目標設定や行動計画プランの立案が基本となっていたが、定量的なスキルギャップを可視化することで、獲得すべきスキルと具体的な行動プランをより精緻に設計することが可能になる。
加えて、部門内全体の人材ポートフォリオを俯瞰して評価することも有効である。部門内における職務遂行能力の構成比率を把握することで、人材不足が本当に量の問題なのか、それとも職務遂行能力が十分でない人材の比率が高いことによって生産性が低下しているのかを見極めることができる。
すなわち、一定の要員数を確保しているにもかかわらず、生産性を高められていない背景にスキルアンマッチが存在していないかを部門単位で正しく評価し、「適所適材」の状態を全社的にモニタリングしていくことが必要となる。
一方で、部門単位での分析は、職務に対して能力が高い人材の「抱え込み」が起こっていないか、といった「適所適材」を検証するうえでも重要である。部門最適を追求してきた結果、職務に対して能力が過剰な、いわゆるオーバースペック人材が特定の職務や部門にとどまっているケースも少なくない。
アビームコンサルティングが2025年に実施した「企業内の人材ミスマッチ実態調査」によると、回答企業の約8割で「職務要件以上の人材(オーバースペック人材)」が配置されているという状況が明らかになっている。
参考インサイト:「企業内の人材ミスマッチ実態調査」 ~人的資本経営を進化させる新たな人材マネジメントモデル~
生産性について評価する際には、単に十分な成果を発揮できていないという状態だけではなく、より高い付加価値を生み出す可能性を持つ人材に対し、適切な職務やポジションを提供できていないという観点にも着目する必要がある。こうした、全社視点と部門視点の双方から、人材ポートフォリオを分析することが求められる。
さらに、なぜ特定の部門において不適切な構成比率が生じているのか、その要因を深掘りする活用も重要である。この際に有効となるのが、保有する人材データとの掛け合わせによる分析である。
例えば、エンゲージメントとの相関分析を行うことで、職務遂行能力が十分に達していない人材は特定のエンゲージメント項目が低いといった傾向が明らかになる場合がある。各社各様の状況が想定されるため、エンゲージメントスコアの他にも、年齢、女性比率、報酬水準といった多面的な軸で分析を行うことで新たな示唆が得られ、構造的に生産性低下を招いている人材マネジメント上の原因特定に寄与する。