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デザイン思考の本質とパーパスドリブン事業開発

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デザイン思考
事業開発
Vision
事業領域の探索
デザイン思考の本質とパーパスドリブン事業開発

デザイン思考=UIという誤解

 「デザイン思考」という言葉は、2005年にスタンフォード大学のd.school(Hasso Plattner Institute of Design)の教科になって以来、日本においても2014年くらいから頻度高く目にするようになってきました(参考:Google Trend)。特に事業開発を検討する際に使われることが多い言葉として皆さんもご存知ではないでしょうか。

 その一方で、「デザイン思考って結局何?」「UIを設計するときに使うもの?」「『ユーザーの視点に立つ』と言うけど、そんなの当たり前では?」などと、多少混乱気味に理解されている方も多いように見受けられます。かく言う筆者も当初「デザイン思考」を正しく理解するのに整理が必要でした。
 本稿では、「デザイン思考って結局何だろう?」と思っている方に、通常の教科書通りの解説ではなく、少々極端な話として、アビームコンサルティングがデザイン思考で大事だと考えていることをお伝えします。デザイン思考の中で特に大事なのは、「意味をつくるという意識をもつこと」と「五感を使って観察する」ということの2点です。なお、後者の「五感を使って観察する」は別コラム『観察するとはどういうことか?』をご参照ください。

「デザイン思考」の検索数の推移2004年~2021年

空間のデザイン、時間のデザイン、事業のデザイン

 神社には境内の入口に鳥居があります。
 そもそも、鳥居とは、神社などにおいて神域と人間が住む俗界を区画する役割をもっています。鳥居があることにより、その内側は神の領域であることを、大きな建造物によってより分かりやすく示しています。このように空間をデザインすることにより、空間に新たな意味をつけることができます。建造物のデザインでは、長い時間をかけて、このような新たな意味をもたらすための様々な手法や考え方が試行錯誤されてきています。
 同様に、時間にもある種のデザインがあり、時間に意味をもたらしていると考えられます。1週間を月曜日から日曜日という7つに区分し、7日に1日は休息をとる日としたり、休日や祝日を設けたりすることで、日々の生活に区切りをつけ、時には文化的・歴史的意義を持つ日を定め、祝祭による非日常感を味わう日の区別をつけているのです。
 では、事業開発の際に用いる「デザイン」とは何でしょうか。それは、その新しい事業に意味をもたらすことであり、そのビジネスモデルや顧客へのメッセージに意味を落とし込んでいく、ということだと言えます。空間のデザインにより意味がつくられることや、時間のデザインにより意味がつくられるのと同様なのです。デザイン思考とは、新しい事業を立ち上げる意味への拘りをしっかり持つという思考であり、新しい事業の細部に意味を落とし込んでいくための手法であるのです。

パーパスドリブン事業開発

 コラム「事業開発成功の秘訣『共通言語』」にて述べたように、事業の成功と失敗を分ける要素として、「事業開発担当者の強い想い(パッション)がある」ということが重要です。このパッションの素になるもの、それが新しい事業を立ち上げる意味であり、事業の成功には不可欠です。最近とみに、パーパス経営(自社は何のために存在するのかを優先する経営)、パーパスドリブン・ブランディング(ブランドにおける、あらゆるインタラクションから起こる体験はすべてブランドの存在目的であるパーパスにたどり着くという考え)が話題となっていますが、同様に、パーパスドリブン事業開発と呼ぶような、新しい事業立ち上げの意味に徹底的にこだわること、これが事業開発の成功には欠かせないのです。

どのように意味を考え、事業に落とし込んでいくのか?

 ジェフ・ベソスが紙ナプキンに描いたという、事業の設計図を知っている方も多いと思います。
 その紙ナプキンには、顧客の新しい体験⇒新たなトラフィック⇒供給者の増加⇒新たな品揃え⇒顧客の新しい経験といった成長ループが事業の設計図として描かれています。新たな良い本や映画に出会い、これまで使ってなかったようなモノとの出会うことでヒトの人生は豊かになります。Amazonに出会う前と後で、日々の生活に変化があった、人生が豊かになったという人は多いのではないでしょうか。このように新しい出会いを数多く、しかもリーズナブルな価格で叶えるという顧客体験、これを創り出したことがAmazonという事業の意味なのだと思います。
 そしてその事業の意味を実現するための設計図、それがまさにジェフ・ベソスがナプキンに描いた図です。トラフィックの増加と供給者の増加の因果関係を示し、しかも成長により得られた低価格を実現するコスト構造がまた次の強みを創るというストーリー性がこの図には端的に示されています。空間のデザインをする際、先ほどの神社の鳥居で例えると、神域と人間が住む俗界を区画するという意味が生じる⇒ 「境」を視覚的に強く意識させたいという意思がはたらく⇒ 「神々しさ」「境をくぐる」ということが意識される構造物を設計する、というように鳥居をとらえました。これと同様に、事業をデザインする際は、新しい出会いをつくる⇒ 幅広い品揃えの中でリーズナブルな価格で商品を選べるという価値をつくる⇒それを可能にするための多くのトラフィックをつくる、というようにストーリーに落とし込んでいきます。
 このように、意味を実現するためのストーリーをつくるということを意識して、事業をデザインしていくこと、これが事業開発を成功させるためには大事なのです。

 さらに言えば、そもそも、その意味を見つけるにはどうしたらよいのか、そこにもデザイン思考が活用できます。それは、「違和感」に気づくことであり、違和感に気づくために「五感を使って観察」をするということになります。五感を使った観察については、次のコラムでお伝えしたいと思います。

戦略ビジネスユニット長
執行役員 プリンシパル          

斎藤 岳