ニューノーマル時代の
サプライチェーンマネジメントとは
第2回

 

 

原田 健志

P&T Digital ビジネスユニット
SCMセクター ダイレクター

 

本連載は、ニューノーマル時代のサプライチェーンマネジメント(SCM)とは何かについて、前半はリスクの再拡大や非常時に備えどのようにレジリエンスを高めるのか、そのために、可視化・多重化・機動化するSCMについて解説する。後半は先端デジタル技術を活用することで各業務のオペレーションのリスクを抑えつつ、同時に業務自体も高度化するSCMの可能性について解説する。第2回は、前回のサプライチェーンリスクの可視化に続き、リスクへの対策の次のステップとして、サプライチェーンネットワークの多重化について取り上げる。

非常時に備えるサプライチェーンマネジメントとは –
STEP2.サプライチェーンを多重化せよ

この10年ほどを振り返ると、多くの企業は、ビジネスがグローバルに展開した結果、より広範囲に、より複雑になってしまったサプライチェーンを、シンプルな形に見直す努力を重ねてきた。一方で、シンプルさを追求しすぎた結果、今回のCOVID-19のような事態に対応できず、ビジネスそのものが止まってしまったケースもあった。ある電子部品メーカーでは、中国の主力工場から全世界の販売拠点に航空便で飛ばす形の極限までシンプルなチェーンを作り上げていた。輸送リードタイムを極限まで短縮し、販社在庫も大きく抑制するオペレーションはこの企業の強みでもあったが、中国工場が出荷停止に追い込まれた際に、全ての出荷が止まってしまったのである。強みが一転して弱みに変わってしまったのである。以下、部材の調達、生産、物流、そして、需給調整(意思決定)の観点から、サプライチェーンの多重化を進める際の論点を整理する。

図2-1. サプライチェーンネットワーク多重化のフレーム

図2-1. サプライチェーンネットワーク多重化のフレーム

調達を多重化せよ

  • 調達においては、サプライヤの多重化とキーパーツ管理の多重化が求められる。まず、サプライヤの多重化とは、調達カテゴリ(調達品グループ)ごとのサプライヤパネルを整備していくことである。サプライヤパネルには、その調達カテゴリにおける、主力・準主力・代替候補のサプライヤの棚卸、さらには、生産拠点(地域)ごとの生産能力や輸送手段が整理されている。勿論、情報整理しているだけでは、いざというときに調達できないので、切り替えに向けた事前の調整も必要となる。具体的には、発注条件、商流、品質などについて、サプライヤと社内のそれぞれにおいて調整を済ませておく必要がある。ある電子機器メーカーでは、もしものリスクに備えて、各調達カテゴリにてグローバルで3社以上発注するルールを定め、主力は6割、準主力は3割、代替候補は1割として、いざというときに切り替えられるよう、常時から分散発注を行っている。

    次に、キーパーツの多重化であるが、前述のサプライヤの多重化と合わせ、キーパーツを保管する在庫拠点を分散・多重化することが必要となる。海外の先進企業はそれだけではなく、キーパーツの内製化や内外製の切り替えができるように技術的な対応や準備を進めていたり、キーパーツ自身の使用量を抑制したり、標準品に切り替えるなど、日常の開発レベルからのリスクを抑える取り組みを進めている企業もある。

生産を多重化せよ

  • 生産における多重化とは、複数の工場から生産できる体制を構築することである。そのためには、計画~実行までの生産プロセス自体の標準化や生産指示の共通言語であるBOM(部品表/部品構成)の標準化も必要となる。ある製造設備メーカーでは、各製造拠点の生産BOMを共通化するだけではなく、その上流工程の設計BOMをグローバルで標準化させることにより、ある工場から別の工場へスムーズな生産移管ができる体制を実現している。

    また、複数の工場からの生産というのは必ずしも自社に限定するわけではない。海外の先進企業では、複数の製造委託先(OEM)に対し、発注やBOMの連携を共通化することで、いざというときに生産切り替えができる体制や手配プロセスを構築している。

物流を多重化せよ

  • 物流においては、複数拠点からの輸送体制を輸送手段も含めてどのように確保するか、という自社レベルの多重化だけではなく、他社との共同配送や汎用品を扱う場合のスワップ(自社ブランド・商流での他社品の代替供給)協定の構築なども多重化のポイントとなる。勿論、前述の調達や生産と同様に、切り替えに向けた手配プロセスや品質面での事前調整が必要となる。特に、顧客側にて生産ラインや供給ルートの指定や認証がある場合は、顧客のビジネス継続性担保の観点からも、顧客を巻き込んだ事前の調整が必要となる。

需給調整を多重化せよ

  • 最後に、需給調整における多重化とは、多重化された調達・生産・物流能力をグローバルレベルで一元化することに加え、グローバルレベルで顧客の需要情報も一元化することが前提となる。また、限られた選択肢の中から、最適な意思決定をするためのプロセスや基準作りも必要となる。さらに進んだ企業では、意思決定する機能や権限そのものの多重化に取り組んでいるケースもある。ある電子機器メーカーでは、本社や各地域統括会社が被災したケースに備えて、意思決定を代替するルールと役割の整備も進めている。

本稿は、『ニューノーマル時代のサプライチェーンマネジメントとは』の第2回として、リスクの再拡大や非常時に備えての可視化の次のステップであるサプライチェーンネットワークの多重化について解説した。ネットワークの多重化におけるポイントは、切り替えられる選択肢の確保だけではなく、切り替えるための自社内・企業間のプロセスの標準化であり、整備である。日本企業の多くは、海外の先進企業と比べるとその途上であり、引き続き取り組むべきテーマであるというのが筆者の所感である。

次回は、可視化・多重化の次のステップとして、実際にリスクが顕在化した場合において、サプライチェーンがどのように機動的に対応していくのかについて取り上げる。

ニューノーマル時代のサプライチェーンマネジメントとは 第1回

ニューノーマル時代のサプライチェーンマネジメントとは 第3回

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