地域金融機関の総合サービス化戦略 ~金融事業の拡大・非金融事業への進出に関する考察~

インサイト
2023.01.16
  • 銀行・証券
1372528482

執筆者情報

  • 大野 晃

    Principal
  • 岡本 陽介

    Senior Manager
  • 田原 章一郎

    Manager
  • 小林 悠彌

    Manager

はじめに

昨今、各種規制の緩和や進展するデジタル技術の活用などを背景に金融機関による異業種進出が活性化している。本インサイトでは、金融サービスの高度化や非金融サービスへの参入など総合的なサービス提供を目指したビジネスモデル変革に特に取り組んでいる「地域金融機関※1」にフォーカスをあて、①取り巻く事業環境②アビームコンサルティングが考える“総合サービス化”と各地域金融機関の取り組み状況③総合サービス化の本質について取り上げ、地域金融機関による総合サービス化検討におけるポイントを解説する。

① 地域金融機関を取り巻く環境
地域金融機関を取り巻く経営環境は年々厳しさを増しており、持続的なビジネスモデルへの変革が必要な状況にある(図1)。足許の国内人口減少や首都圏への人口集中により、特に地方に営業基盤を有する地域金融機関にとって、個人顧客・法人顧客ともに減少していくことが懸念されている。低金利政策も継続見込みであり、単なる預貸収益頼みの従来型ビジネスモデルの継続は益々困難になるだろう。加えて、テクノロジーの進展により足許では異業種からの金融サービス参入が相次いでおり、異業種からの参入プレイヤーは本業である非金融サービスの顧客基盤や洗練されたUI/UX(ユーザー接点・体験)によるアプリなどを武器に地域金融機関の顧客基盤を侵食し始めている。他方、地域金融機関にとって足許では“競争”関係にある異業種からの参入プレイヤーとの関係が中期的な時間軸で見ると“競争”から“共創”に変わっていくケースも予想される。このような環境下、2021年11月に改正銀行法が施行され、他業禁止規制の緩和により非金融サービス進出のハードルが下がっていることや国・地方自治体による地方創生に関する各種支援策などによる機運の高まりなど、変革に向けた追い風のトレンドも存在する。

  • ※1

    本インサイトにおいて、「地域金融機関」とは地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合を指す

図1 地域金融機関を取り巻く環境と迫られる対応 図1 地域金融機関を取り巻く環境と迫られる対応

このような事業環境の変化や、金融庁による再編への後押し、地域社会・顧客などのステークホルダーからの期待値の多様化・高度化をふまえ、地域金融機関は持続可能なビジネスモデルの構築に向けた変革が求められている。各々の地域特性やステークホルダーの期待値から導かれる地域金融機関に求められる役割を適切に見極め、デジタル活用などによる従来ビジネスの効率化や抜本的見直しを通じた「顧客ニーズに即した金融サービスの更なる変革」と変化する顧客ニーズを捉えた「非金融サービスなど新たなビジネスの創出」を両軸として、地域の持続的成長と自社収益確保のバランスを取りつつ、ビジネスモデル変革を進めて行く必要があるだろう。

② 地域金融機関の総合サービス化
アビームコンサルティングでは、前述した地域金融機関を取り巻く経営・事業環境の変化をふまえた、従来の金融コア事業(預金・貸出・為替など)の見直し・高度化、金融周辺業務の拡大、非金融事業分野を中心とする新たなビジネスの創出の活動を総称して“総合サービス化”と定義している。2021年11月に改正銀行法が施行され、業務範囲規制が緩和(他業禁止の緩和や銀行業高度化など会社の業務範囲の拡大)され、政策的にも地域金融機関による総合サービス化のための土壌が整備されつつある。足許では多くの地域金融機関が非金融事業への参入を計画・実現し、総合サービス化を目指して持ち株会社化を実施したと推察される事例も増加している。※2

  • ※2

    広島銀行(ひろぎんホールディングス、2020/10)、北國銀行(北國フィナンシャルホールディングス、2021/10)、沖縄銀行(おきなわフィナンシャルグループ、2021/10)、十六銀行(十六フィナンシャルグループ、2021/10)、静岡銀行(しずおかフィナンシャルグループ、2022/10)、中国銀行(ちゅうぎんフィナンシャルグループ、2022/10)、伊予銀行(いよぎんホールディングス、2022/10)、京都銀行(2023/10予定)

非金融分野における参入事業として特に注目されているのは“人材紹介事業”、“DX支援事業”、“地方創生関連事業”の3分野である。
1つ目の“人材紹介事業”では、企業の人材不足や後継者難の課題を背景に約9割※3の地域金融機関が厚生労働省の有料職業紹介事業の許可を取得して事業参入し、人材サービス事業者との提携を行うなど法人顧客や地域の活性化に向け「ヒト」の側面から注力している。
2つ目の“DX支援事業”ではFinTech(フィンテック)などスタートアップ企業と連携して主に法人顧客のDX支援や自社グループのデジタル化を推進している。法人顧客へのDX支援では、チャットツールやオンライン請求システム導入、DX支援ポータルサービスの提供などの事例にみられるように異業種との連携によるサービス提供を行う一方、自行グループ内のみで外部にサービス提供をしている割合は1割程度※4に留まっており、事業に必要なケイパビリティ(組織能力)を外部とのアライアンスによって補完している現状がうかがえる。
3つ目は“地方創生関連事業”である地域商社※5やDMO(観光振興)※6事業である。なかでも地域商社は地方活性化の担い手の中核と位置づけられており期待が高まっている分野である。ただし、近年地域商社の設立事例が増えているものの、地域商社に求められる機能は一義的に定義できるものではなく、成功事例として確立したと言えるビジネスモデルは未だ存在しない。事業としてスケールさせ、収益事業化させるためには人材や商品の目利き、値付け※7などハードルは高いと言わざるを得ず、銀行経営にはない事業の難しさが各地から聞こえ始めている。
総合サービス化は金融周辺事業領域から非金融事業領域へと着実に進展がみられるものの、分野ごとに状況は異なっている(図2)。足許では法人顧客向けで積極的な拡大が見られ、アライアンスパートナーのアセット活用なども含め法人顧客が抱えている課題や高度化したニーズへのソリューションがラインナップとしてカバーできつつある。地域社会に向けては、地域商社への参入が進んでおり、一見すると外縁が拡大して成功しているようにも見えるが、既述の通り課題も多く、業態や営業手法などを変革しつつ持続可能な事業にむけて暗中模索が続いている状態と考えられる。個人顧客に向けては、地域内において非金融サービスを提供する既存プレイヤーが存在するケースも多いことから、個人顧客が地域金融機関にサービスを求める状態にはないものと推察する。このような状況を鑑みるに地域金融機関のサービス参入方式として金融サービスとバンドル(セット提供)する形で非金融サービスの提供が進展していくものと考えられる。

  • ※3

    厚生労働省より、自行グループで有料職業紹介業の許可を取得して事業を展開している数2022年10月取得までを集計 (地方銀行62行、第二地方銀行37行の99行を母数として調査)

  • ※4

    各種公表事例より2021年5月 アビームコンサルティング調べ(地方銀行62行、第二地方銀行37行の99行を母数として調査)

  • ※5

    地域商社とは、都道府県や市町村単位で活動する組織ないしは法人であり、地域内における魅力ある産品を発掘・開発・販売活動を展開し、地域外からの収益を地域内に呼び込む事業を指す。参考:地方銀行による地域商社事業進出の考察~課題と収益化への道筋~(2021年10月20日付当社インサイトより)

  • ※6

    観光地域づくり法人(Destination Management/Marketing Organization):地域の多様な関係者を巻き込みつつ、科学的なアプローチを取り入れた観光地域づくりを行う舵取り役となる法人(観光庁より)

  • ※7

    地域創生を目的とする以上、地域の生産者から安い価格で仕入れることは難しく、「安く買って高く売る」発想の商社的な利ザヤを抜く商売が成立しにくい

図2 総合サービス化に向けた各領域の進展状況 図2 総合サービス化に向けた各領域の進展状況

③ 地域金融機関が総合サービス化に取り組む本質
昨今の環境変化を背景として法人・個人顧客や地域社会などのステークホルダーが地域金融機関に求めるニーズは変化している。“金融だけでなく非金融サービスも提供してほしい”などの多様化※8、“自分に合ったおすすめ商品を提案してほしい”や“地域に貢献してほしい”などの高度化である。
次に、前述の“ニーズの変化”に伴い地域金融機関に求められる“役割の変化”を見てみたい。従前、地域金融機関は、地域に対して円滑な資金供給を中心とする金融のハブ機能としての役割を求められていたが、今後は資金供給にとどまらず高度金融サービスを軸として非金融領域も含めたサービス提供をトータルで行う総合的な地域のハブとしての役割が求められている。特に、地域一番手行と云われる金融機関にその傾向が顕著と言える。総合的な地域のハブの実現には、金融・非金融問わず多様化・高度化する顧客ニーズにワンストップで答えるためのサービス拡充が不可欠であり、地域金融機関は地域における中心的な企業として、地域に根差した総合サービス企業への転換が求められる。
サービス拡充を進めるための発想として、必ずしも地域金融機関自身のみで各種サービス提供を完結させる必要はなく、地域内の既存事業者との連携や既存事業者を支援する方式※9は有力な選択肢になるだろう。地域のハブの役割には自らサービスを提供するだけではなく、地域内の事業者のオーガナイザー(まとめ役)としての機能も含まれるのではないだろうか。既存事業者の支援はリレーションシップバンキング※10の実現に繋がり、また、非金融事業だけでなく、金融事業含めたトータルでの収益効果に繋がるものと期待できる。
地域金融機関による総合サービス化の本質は、取引先や地域の発展と自行収益のバランスがとれた地域内エコシステムの構築を前提としながらも、先義後利の考えのもと、地域経済の持続可能性を高めるために、金融ビジネスの在り方を発展させることにあると考えている。

  • ※8

    個人顧客では、相続・信託・見守りや介護などのニーズが高まり、法人顧客では創業/事業再生ファンド、コンサルティング、人材紹介、DX関連で引き続き旺盛なニーズが継続するものと考えられる

  • ※9

    融資だけでなく、創業支援ファンドやJVによるハンズオン支援などが考えられる

  • ※10

    金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出などの金融サービスの提供を行うことで展開するビジネスモデルを指す(金融庁 金融審議会資料より

アビームコンサルティングのケイパビリティ

アビームコンサルティングでは、多数の地域金融機関の支援実績のほか、金融・非金融を問わず多様な業界における異業種参入の支援実績を有しているとともに、地方創生などのSDGsへの取り組みも積極的に推進している。そのため、これらアセットの棚卸とそれらに基づく参入先・参入方法・参入ストーリーの提案を強みの一つにしている。また、戦略策定領域の実績も多く、異業種参入については方法論やスタートアップとのリレーションなども保有しており、本領域の支援機会は増加している。
今後も業界を問わず、様々な企業の異業種参入という挑戦へ、リアルパートナーとして力強い支援をしていく。なお、本インサイトで考察した“地域金融機関の総合サービス化”を題材とした書籍を2023年春に発刊予定である。より詳細な解説を行うため、そちらもぜひご覧いただきたい。

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