ただし、このような観光客のデータ情報は、現状の観光産業の特徴でもある分業的な体制構造により、統合的には管理されておらず、データ情報としては個別の事業者間で分断されているケースが多い。観光客(エリア来訪者)の行動や嗜好性などについて、より深く理解し洞察を深めていくためには、観光客の旅マエ~旅ナカ~旅アトの一連の行程における行動プロセスにおける顧客接点を把握・整備し、収集される各データ情報を統合して管理・分析していく必要がある。また、それらのデータ情報から得られる分析結果を基に、エリア全体でより深い顧客アプローチに繋げていくことが求められる。例えば、鉄道会社の場合は、観光における旅マエ~旅ナカにかけての顧客接点を有する機会が多いと想定されるため、今後はより観光客(エリア来訪者)の行動プロセスを横断した事業連携・データ連携が実現できると望ましい。
また、観光の目的地となるエリア内では、観光客(エリア来訪者)が滞在している旅ナカのデータ情報を得る必要があり、そのためには、エリア内での顧客接点を把握・整備を地域事業者と連携して充足していくことが求められる。エリア内において、このような仕組みの構築についても、エリア価値創造事業者として期待される役割であると思われる。
これらのデジタルツールの活用は、その他の生活サービスにおいても同様で、地域マーケティングの好循環を生み出すためには、ターゲットとなる顧客の人物像(ペルソナ)を明確化し、ターゲットに刺さるサービス提供を検討していくことが重要であるが、デジタルマーケティングは、それを実現するために必要なアプローチであると考えられる。
つまり、地域マーケティングのデータ活用とは、対象エリアの生活者(居住者・来訪者)データを広く収集し、生活者の行動履歴や嗜好性などをデータで捉え、地域の現状や課題を把握することで、地域全体でデータに基づいて戦略や施策を検討していくことであり、データを通じて生活者(居住者・来訪者)と地域との関係性を把握することである。
また、そのためには、地域に関わる様々な事業者・団体と連携して顧客関係の構築に取り組んでいくことが必要である。エリア価値創造事業者や地域事業者が商品・サービスを提供するとともに、顧客である生活者との間に信頼関係を作り、持続的な関係構築を行い、生活者と地域事業者との相互利益を向上させることでエリア価値創造を実現するのである。
このような生活者データの収集は様々な接点を通じて行われるが、その収集したデータを一元的に管理し、マーケティング戦略への示唆出しを行い、データ分析に基づいて保有チャネルを通じて顧客への適切なアプローチを行う統合的な仕組みが必要である。また、これらの生活者データの収集は、エリア価値創造事業者だけではなく、共創パートナーからもデータ提供いただくことで、個社では実現しない量のデータを収集できる可能性がある。
ただし、そのためには、共創パートナーと目的意識(地域の共通ビジョン)を統一する必要があり、分析した結果については、エリア価値創造事業者が自ら活用することに加えて、共創パートナーや地域事業者にも提供することで、共創パートナーや地域事業者の事業改善や収益向上にも貢献する必要がある。また、データを活用することで生活者のQOL向上やエリア全体のサービスレベル向上など、生活者の便益に資する施策を実行していくことが求められる。特に、観光においては、分析結果を基に、地域ブランディングや地域プロモーション、新たな地域コンテンツの開発や集客ポイント・キャッシュポイントの開発なども効果的に行うことができるようになるため、対象エリアにおける誘客促進や消費増加など、エリア全体の魅力や価値の向上にも貢献できると考えられる。
しかしながら、エリア価値創造を実現するためには、各種の生活サービスにおいてはデジタル・非デジタルに拘らず、生活者目線での領域間におけるサービスの連携が必要であり、また、データ活用を促進していくためには、各種サービス間でのデジタル統合やデータ連携、サービス層とインフラ層から収集されるデータ統合なども必要である。そして、更に継続的なエリア価値創造には、イノベーションとテクノロジーの活用が欠かせない。対象エリアに新たな技術やデジタルを取り入れることで、エリア価値創造にも貢献する新しいサービスやビジネスモデルの創出が可能となるのである。
アビームコンサルティングでは、変わりゆく地域における企業や組織、ステークホルダーへの持続的な価値提供とサスティナブルなインパクトをもたらすために、エリア価値創造に向けた地域ビジョン策定からサービス企画やデジタル化まで、一貫した伴走型サポートを行っている。また、地域や企業に対して、より高い社会的価値の実現に向けた共創をコーディネートする役割を担い、共創による新たな価値創造をデザインしている。
今後もアビームコンサルティングは、地域やクライアントと共に「エリア価値造創造」に取り組んでいく。