昨今、国全体の人口減少が進む状況の下で、その地域の持続的な発展と生活者のニーズに対応する役割を果たすことが求められる地域密着型のインフラ事業者においては、自社の事業エリアの定住人口の減少やサービス利用者の減少が想定されている。また、その結果として、事業の継続性や事業エリアの存続が危ぶまれる状況なども懸念され始めている。その一方で、新型コロナウイルスの流行により、多くの企業がリモートワークを導入し、遠隔地からでも仕事が可能となったことで、生活者においても居住の選択肢が広がり、都市部から郊外や地方へ移住するケースも多く見受けられるなど、人口流動性が増大している。また、コロナ禍に伴い、生活者の健康と安全への意識が高まり、これまで以上に健康促進や安全な生活環境・生活サービスを求めるようになっている。併せて、地域コミュニティへの関心も高まっており、地産地消のニーズが増加するなど、地元の商品やサービスに関する多様なニーズが生まれている。
このような人口流動性の増大や生活者ニーズの多様化は、地域密着型のインフラ事業者にとって新たなビジネスチャンスをもたらす可能性がある一方で、迅速かつ適切な対応が求められる課題でもある。そのため、地域密着型のインフラ事業者においては、これらの変化を前向きに捉え、自社の事業継続、及び事業エリアの持続的な発展に向けて、主体的に事業エリアの価値を創造し、魅力的な地域づくりに貢献していくことが求められている。
魅力的な地域づくりは、地域住民のQOL(生活の質)を高め、域外からの移住や観光客を呼び寄せ、事業者などが集まり、経済的な発展や社会的な活性化が促進される。それは、地域に魅力的な環境やサービス、施設、コミュニティなどが提供されることで、より良い地域社会と地域のヒト(生活者)におけるウェルビーイングを実現することである。そのためには、経済的・環境的・社会的な面で、そのエリアに存在するヒト(生活者)を価値の基軸として、持続可能な形でエリア全体の価値を高めていくことが求められている。ただ、地域における価値を構成する要素の活用や価値創造に向けたプロセスは、多様なステークホルダーが関与することからも容易ではなく、また、ヒト(生活者)を価値の基軸とするため、地域の「生活者」における潜在的なニーズを捉える洞察やマーケティングも重要となってくる。更に、価値創造を実現するためのイノベーションには、様々なステークホルダーとの共創・協働が求められ、その共創関係を形成し、効果的に価値創造を継続できる仕組みの構築も必要になる。
しかしながら、エリア価値創造を目指す過程で、様々なステークホルダーとの共創関係の構築まで至ることなく頓挫するケースや、地域のビジョン策定からサービスの企画設計、デジタル技術の導入やデータ活用まで、様々なフェーズで求められるスキル・ノウハウが不足し、道半ばで推進が滞るケースなども見受けられる。
アビームコンサルティングでは、多様なインダストリーやセクターに精通した専門性を持つプロフェッショナルな人材が、企業や組織の目指すゴールに向かって、サスティナブル(持続可能)な変革を実現するために、様々なステークホルダーと共に価値提供に取り組んでいる。エリア価値の創造においても、ヒト(生活者)中心のまちづくりの実現や、地域資源や特性を活かしたサービス提供に向けた共創のコーディネート役も担っている。
本インサイト(全2回)では、地域におけるエリア全体の価値を構成する要素と、その繋がりを明らかにし、地域密着型のインフラ事業者が「ヒト(生活者)」を起点として、エリア全体の価値を高め、更に新たな価値を創造するためのプロセスや方法について考察する。第1回では、エリア価値を形成する構成要素とエリア価値創造に必要なプロセスや視点について紹介する。