デジタル通貨の現在地 ~ステーブルコインとトークン化預金の最新動向~

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2026.05.11
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ブロックチェーン上で発行・流通され、主に決済に使われる「デジタル通貨」がグローバルで拡大している。そもそもデジタル通貨とは何か、何に使えるのか、この先の普及は進むのか。デジタル通貨の2種類である「ステーブルコイン」と「トークン化預金」に着目して考察していく。
(本稿は、月刊金融ジャーナル2026年3月号の掲載内容をもとに再構成して掲載)

執筆者情報

  • 内田 悠介

    Senior Manager

「通貨主権」巡る攻防が激化

米国では、2025年7月にトランプ政権がGENIUS法に署名した。米国内でのステーブルコインの法的位置付けを明確にして健全な発展を促すとともに、ドル建てステーブルコインの国際的な利用を広げて基軸通貨としてのドルを維持させる目的が見て取れる。

欧州では、2025年10月に欧州中央銀行が「デジタルユーロ」について、準備段階が完了して次のフェーズに入ることを発表した。2026年に法整備、2029年に発行の可能性がある。ドル建てステーブルコインが欧州に一気に流入した場合、ユーロの通貨主権が侵される懸念がある。

他にも、英国ではGBTD※1の実証実験を通してポンドの高度化を進めている。中国では既にデジタル人民元をパイロット運用しており、脱ドル化などを目的に今後もパイロットエリアを拡大していく予定だ。このように、デジタル上での通貨主権をめぐる攻防が、グローバルで目まぐるしく行われている。これらの動きは日本政府や企業にも影響してくる。

※1 GBTD(Great British Tokenised Deposit)ポンド建てトークン化預金。UK Financeが主導

デジタルで価値移転できる時代に

そもそもデジタル通貨とは何か。一般的にデジタル通貨とは、電子的に記録・移転される価値を指す概念であり、電子マネー、暗号資産、中央銀行デジタル通貨(CBDC)など、さまざまな形態を指して使われる概念である。一方で、本稿では決済インフラとしての実装や制度設計の観点から、デジタル通貨を「ブロックチェーン上で価値移転し、法定通貨と連動する決済手段」として扱う。この定義だと、電子マネーなどの既存の決済手段はブロックチェーン上で価値移転しないためデジタル通貨ではない。また暗号資産は法定通貨と連動しないためデジタル通貨ではない。残るのはステーブルコイン、トークン化預金、CBDCとなるが、本稿では特に民間が主導するステーブルコインとトークン化預金に焦点を当てていく。

なお、Web2が「情報のインターネット」であったのに対して、ブロックチェーンを活用したWeb3は「価値のインターネット」であると言われる。改ざん耐性を備えたブロックチェーンを基盤とすることで、デジタル上で情報に加えて価値の移転を可能にするという考え方である。

「早い」「安い」「賢い」決済手段

デジタル通貨は従来の決済手段と比較して何が良いのか。一般的に言われる観点や国内事例をベースに仮説を立てていく。

第一に、早い、すなわち価値の即時移転という観点である。銀行勘定系や全銀システムなどではなく、ブロックチェーン上で価値移転させることで、24時間365日稼働のリアルタイム海外送金を実現させるなどのユースケースである。古くから検討されているケースだが、現状でもProject Agorá、Project Pax、Partiorなどの複数のプロジェクトが推進されている。

第二に、安い、すなわち中間者の排除という観点である。A2A決済※2など、End-to-Endで価値移転させる発想である。不動産会社シノケンは、ゆうちょ銀行と協業し、ディーカレットDCPの「DCJPY」を活用した家賃収納の実証実験を2025年11月から開始している。家賃引落に現状関与している決済代行会社を介さず、直接ゆうちょ銀行から引き落とすことで、決済手数料の削減、家賃未納の早期把握などを実現する。

第三に、賢い、すなわちプログラマビリティという観点である。デジタル通貨はロジックが書き込めるお金であり、事前に設定した条件に従って自動で価値移転する。三井住友銀行などはカウンターパーティ信用リスクの排除などを目的に、デジタル証券の二次市場におけるステーブルコインを活用したDvP決済※3のプロジェクトを2025年8月に開始した。またSBI新生銀行などはトークン化預金を活用したDvP決済の実証を2025年12月に開始している。

もっとも、これらの特長は無条件に成立するものではない。トークン上での価値移転が早くなっても、例えば、AML(マネーローンダリング対策)などの前後処理が遅いままだと全体的な効果は出ない。また、初期構築のコストなども踏まえた上で総合的なROIの検証が必要だ。

図1 デジタル通貨の特長とユースケース

※2 A2A(Account to Account)中間者を介さず、銀行口座から銀行口座へ直接資金を移動
※3 DvP(Delivery Versus Payment)証券の引渡しと代金の支払いを同時処理(アトミック決済)

ステーブルコインとトークン化預金の違い

デジタル通貨にはステーブルコインとトークン化預金があるが両者の違いは何か。ステーブルコインは資金決済法上の電子決済手段に位置付けられ、資金移動業者が発行する1号ステーブルコイン※4、信託銀行などが発行する3号ステーブルコイン、USDCなどを国内で流通させる外国ステーブルコインの大きく3類型がある。ステーブルコインは匿名先や銀行口座を持っていない人への移転も可能で、トークン化預金より流通範囲が原理的に広い。

1号ステーブルコインは、資金移動業者が発行するステーブルコインである。2025年10月に第二種資金移動業者であるJPYCが国内初のステーブルコインを発行した。発行と償還の上限がそれぞれ1日100万円までという制約があり、現状は法人向けというより主に個人向けを想定したものとなっている。

3号ステーブルコインは※5、事業会社や銀行などの委託者が、信託銀行などの受託者に金銭を信託し、受益権としてのステーブルコインを発行・流通していくものである。発行者は信託銀行などになり、委託者はライセンスが不要となる。現状、3号ステーブルコインは商用化されていないが、実証段階では2025年11月に3メガなどが金融庁のPIP※6に採択された例がある。3号ステーブルコインは信託受益権であり、現預金とは異なる。そのため、例えば企業間決済に3号ステーブルコインを用いる場合、会計・業務影響などは確認しておくべきだ。

外国ステーブルコインは、USDCなど、外国の法令の規定により発行されたステーブルコインを国内で流通させるものである。外国の企業が発行するため、主に利用者保護の観点からステーブルコインの仲介者となる電子決済手段等取引業者※7は、履行保証金保全契約などの資産保全の措置が必要となる。

トークン化預金は銀行預金のトークン化であり、決済用預金とすることで預金保険制度の全額保護対象にしているのが現状の国内事例である。2024年4月に北國銀行が地域通貨で商用化し、同年8月にはディーカレットDCPのDCJPYを用いて、GMOあおぞらネット銀行が非化石証書の取引で商用化している。DCJPYは、その後2025年9月にゆうちょ銀行やSBI新生銀行、2025年12月に肥後銀行・鹿児島銀行と関連報道・プレスリリースが続いている。

図2 ステーブルコインとトークン化預金の比較

銀行などからするとステーブルコインは預金流出の懸念が生じるが、トークン化預金は預金を銀行などのバランスシート上に残したままオンチェーン化できるため、預金を活用できる。また、トークン化預金を利用する事業会社や個人からすると、トークン化預金は預金のため業務的に扱いやすい。特に海外送金などグローバルで扱う場合は、これまで銀行預金をベースに整理されてきた法的・業務的な制度で対応しやすく、規制当局としても既存制度の延長線上で扱いやすい。

一方、トークン化預金は銀行勘定系との接続が必要となるため、その改修コストをどのように抑えるかが論点となる。加えて、トークン化預金は現状、発行銀行をまたいだ流通が出来ないため、マルチバンク化が重要テーマとなる。

トークン化預金のこれまでの国内事例は決済用預金を用いており付利はされていないが、今後普通預金などとして設計することで付利できる可能性がある。一方、ステーブルコインは基本的に付利を想定していないため、利回りを追求する場合はトークン化MMFなどとの組み合わせを検討する形となる。

※4 預金取扱金融機関が発行する1号ステーブルコインは現状存在しない。金融審議会では慎重な検討が必要とされている
※5 2号ステーブルコインは潜逸防止用のため、現状存在しない
※6 金融庁FinTech実証実験ハブ・決済高度化プロジェクト(PIP: Payment Innovation Project)
※7 2026年1月現在、電子決済手段等取引業者はSBI VCトレードの1社である

金融機関の検討ポイント

デジタル通貨は制度設計・実証の段階が終わり、実用フェーズに入ってきている。最後に、デジタル通貨の発行体となる金融機関の視点から、デジタル通貨がもたらす事業機会や競争力への影響をどのように捉え、いかなる判断が求められるのか、その検討の要点を確認していきたい。

第一に、ビジョニングである。デジタル通貨が法人・個人に浸透すれば、銀行預金の一部はオンチェーンに移ることになる。これは資金調達構造に影響し得るが、裏返せば、ステーブルコインやトークン化預金を自社サービスに取り込む機会となる。5年後のビジネス環境と自社の姿を未来デザインし、そこからバックキャストで「誰に、どのような価値を提供するか」といったユースケースを精査することが肝要だ。

第二に、ビジネスモデルの構築である。まず考えるべきは、デジタル通貨でないといけないのか、発行する場合はステーブルコインかトークン化預金のどちらかという論点である。他にも、流通範囲や決済量、アライアンス戦略、マネタイズモデルといった検討が必要となる。

第三に、業務態勢の構築である。営業、会計、税務、法務などあるが、特に重要となるのがコンプライアンスの観点である。取引時確認(KYC)やトラベルルール、自己管理型ウォレットなど、AMLの対応は必須となる。特にステーブルコインの場合はKYC未済の匿名先含めた流通が想定されるだけに、AMLの綿密な設計が不可欠だ。

第四に、システム開発と運用ガバナンスである。デジタル通貨の実装には、勘定系との接続、鍵管理、スマートコントラクト監査、性能、BCP・可用性など、多くの技術・運用論点がある。サードパーティ連携が前提となることから、委託先管理やサイバー・レジリエンスの要件は一段と厳格化する。

以上を踏まえると、デジタル通貨への対応は、金融機関としての将来像を左右する包括的なテーマとして捉える必要がある。その際には、長期的な構想と並行して、段階的な実装や検証を重ねていくアプローチが重要となる。

デジタル通貨のビジネス活用に向けて

本インサイトでは、「デジタル通貨の現在地」をテーマに考察してきた。トークンエコノミーの社会実装は急速に進展しており、かつ不可逆的に加速していく。金融機関は過去30年、インターネットやスマートフォンの登場により対面からオンラインへのビジネスシフトが求められたように、この先Web2からWeb3へのシフトが求められる可能性が高い。地域や経済圏における預金流出など、金融機関を取り巻くリスクシナリオも十分あり得るため、主体的な対応が求められる。

アビームコンサルティングでは、金融および先端技術に関する知見と実績をもとに、デジタル通貨に関する動向調査、リーガル整理、ビジネスモデル精査、業務・システム構築、プロジェクトマネジメントなど、幅広い支援を行っている。また、金融庁FinTech実証実験ハブPIPの支援案件に採択された「トークン化預金の銀行間決済」の取り組みにも参加している。興味のある方はぜひお問い合わせいただきたい。


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