製造業のBtoBマーケティングを成功に導くパーセプション変革のアプローチ

インサイト
2026.04.27
  • 機械
  • CX(マーケティング/セールス/サービス)
  • 経営戦略/経営改革
1187325104

製造業の営業は、人手不足や製品・サービスの高度化、顧客の購買行動の変化により、従来の訪問中心のスタイルでは成果を出し続けることが難しくなっている。特に顧客が営業接触前に情報収集と比較検討を進める現在、営業だけで案件を創出するモデルには限界がある。こうした環境下で求められているのが、顧客の購買プロセスにアプローチし、見込み客を創出・育成するBtoBマーケティングの高度化である。
本インサイトでは、製造業における営業DXの実現に向けて、マーケティングが果たすべき役割を整理し、「新規開拓・既存深耕」の戦略設計から、パーセプション設計を通じた認知変革、営業との連携プロセスまでを体系的に解説する。

執筆者情報

  • 清水 慶尚

    清水 慶尚

    Principal
  • 澤田 憲一

    渡邊 丈祐

    Director

なぜ今、製造業にマーケティングの高度化が必要なのか?

日本の製造業は、製品のコモディティ化や海外メーカーとの競争激化、さらには営業から工場までの慢性的な人手不足といった難しい状況に直面している。こうした環境下で、顧客を開拓し製品・サービスを販売し売上を創出するという役割を担っている営業の負担は増加している。さらに、製品やサービスが高度化・複雑化することで営業にかかる手間はますます増え、人員不足により一人あたりの業務量も増加傾向にある。結果として、営業体制の維持そのものが困難になりつつある企業も少なくない。本来は業績向上のためにも営業を商談のフェーズにフォーカスさせ、付加価値業務に集中させたいと考えている企業も多いのではないだろうか。

こうした背景から、BtoC企業だけでなくBtoB企業においても、マーケティングの高度化、すなわち顧客理解とプロセス設計の深化が強く求められている。顧客を適切に発見・発掘し、効果的にアプローチすることで、営業活動の精度と効率を高めることが可能となるからだ。それにより、営業を提案にフォーカスさせるとともに、マーケティングで取得した顧客情報を活用することで、商談化率の向上と、それぞれの商談の成功確率を高めることができるのだ。
しかし、こうした取り組みを個々の営業活動の延長で実現することには限界がある。営業個人の活動量やスキルに依存した成長モデルでは、顧客の購買行動の変化や案件創出の難易度上昇に対応しきれないためである。
したがって、顧客の購買プロセスの上流から関与し、見込み客を創出・育成する仕組みとして、マーケティングを戦略的に組み込むことが不可欠となっている。

こうしたマーケティングの高度化を進めるうえでは、顧客の購買プロセスと、その過程で形成される認知(パーセプション)を正しく捉えることが重要となる。マーケティングにおける顧客分析のフレームワークには、AIDMAに代表される、顧客の認知理解の段階を整理したパーセプションフローモデルがある。一方、BtoBビジネスにおいては、組織としての購買プロセスが意思決定の前提となるため、それに沿って自社に対する認知が形成されていく点に特徴がある(図1)。このため、顧客の購買意向を高めるには、購買プロセスの各段階で、どのようなパーセプションを形成すべきかを設計することが重要となる。

図1 パーセプションフローモデルとBtoBビジネスにおける購買プロセスの違い


こうした前提を踏まえ、次章では顧客との関係構築の観点からマーケティングの役割を整理していく。

マーケティングに求められる2つの側面:新規開拓と既存深耕

マーケティングには、大きく2つの側面がある。「新規開拓」と「既存深耕」だ。BtoB企業において営業活動を効率化し、成果を最大化するためには、この2つを効率的に進めることが必要である。

新規顧客獲得に向けたセグメンテーションとアプローチ

新規顧客の開拓においては、案件化や受注につながりやすい「質の良いリード」を多数創出することが重要となる。営業を提案活動に集中させるためには、マーケティングによって「質の良い新規リード」を供給しなければならない。リードの質は営業成果に直結するからだ。

そのためには、市場をしっかりとセグメンテーションすることが重要だ。顧客をいくつかに分類したとして、その中でも実際にアプローチすべきは特定のセグメントに絞られることが多い。重要なのは、ターゲット市場を適切に切り分け、その切り分けごとのニーズに応じた情報提供や接点設計を行うことである。これにより、質の良いパイプラインを形成し、より確度の高い案件を生み出すことが可能となる。

既存顧客との上流関係構築による深耕戦略

一方、既存顧客との関係深化においては、他社に先んじて相談を受け、上流から会話できる「質の良いクオリファイドリード(MQL/SQL)」を創出することが重要である。既存顧客からの安定的な案件獲得を目指すには、単なる取引の継続ではなく、より上流の課題相談や構想段階からの関係を築くことが求められる。これにより、競合とのコンペを回避し、長期的かつ安定的なビジネスを展開することが可能となる。

そのためには、既存顧客リストを適切にセグメント化し、アプローチの方法を変える必要がある。すべての顧客が深耕対象となるわけではなく、上流での関係構築が可能なセグメントを見極め、重点的に取り組むことが成果につながる。営業は本来、顧客の上流課題に踏み込むべきであり、マーケティングはそのための支援を行う役割を担う。

このように、新規開拓と既存深耕のいずれにおいても、最も重要となるのはセグメンテーションである。顧客のニーズや購買行動と結びついた本質的なセグメント軸を見出し、適切に切り分けることで、営業活動の精度と効率を高めることができる。
そして、セグメントごとに「できること」「できないこと」を明確に見極め、営業が効果的・効率的に案件を創出できる環境を整えることがマーケティングの役割なのである。

BtoBマーケティングの実践プロセス

では、具体的にどのように進めれば良いのか。
BtoBマーケティングは、顧客・競合・自社の分析を基に戦略を策定し、施策設計・実行・改善を行うプロセスである。顧客セグメンテーションを行い、セグメントごとの顧客の購買プロセスを分析し重要なニーズや接点を把握する一方、競合にはない自社の強みを分析し、それぞれのターゲットに対して何をアピールポイントに訴求していくか、それをどのような接点やチャネルで伝えていくか、一連の流れを設計して実行していく(図2)。

図2 BtoBマーケティングのプロセス

このプロセスの中でも、前段の顧客理解と戦略設計が成果を左右する。企業がビジネスを展開する際、まずは自社商材を認知してもらい、情報収集段階の顧客を集客して見込み客として育成し、営業へ引き渡し、商談・受注へとつなげていく。この「前段の見込み客育成」を高精度に実行し、質の良い見込み客を多数創出することこそが、マーケティングの大きな役割であり、売上向上に直結するポイントとなる。

そのためには、顧客セグメンテーション、購買プロセス分析、ペルソナ設計とカスタマージャーニーの可視化、接点設計などを体系的に行う必要がある。これらを個別の施策としてではなく、一貫した戦略設計の中で統合し、実行と改善を継続的に回していくことで、BtoBマーケティングははじめて実効性を持つ。

顧客セグメンテーションと購買プロセス分析

施策の精度を高めるためには、まず市場全体の動向を把握・分析しながら、営業担当へのヒアリングや顧客インタビューを通じて内外のインサイトを収集し、顧客のタイプごとにペルソナとカスタマージャーニーを設計して、そこから施策や顧客戦略に落とし込んでいく。こうした流れの中で、顧客セグメントごとの顧客購買プロセスの分析も実施することになる。

例えば、ロボットの導入を例に考えてみる(図3)。

図3 顧客セグメンテーション

ロボット購買における顧客の購買プロセスは、製造する製品とそれによる工場自動化の成熟度、組織体制によって大きく異なっている。機械やエレクトロニクスなどを製造する大手企業では、製品が変わると製造ラインも作り直す必要があるため、生産ラインの自動化を検討する専門組織と機能を持っている。そのため、ロボットに関する知識も豊富であり、新製品の特徴や性能といったピンポイントだが詳しく具体的な情報を求める傾向が強い。

一方で、自動化を検討する組織はあるものの、ロボットのセットアップまでは自社で行えない企業は、ロボット導入やライン構築のノウハウ、具体的な方法、ロボットの製品的特長だけでなく導入支援サービス等の情報を求めている。

さらに、化粧品や医薬品などのように中身が変わっても製造ライン自体を変える必要はあまりない企業は、新製品の生産のためにロボットを購入するのではなく、工場全体の省力化を進めるロボット導入を検討するケースが多い。こうした企業は日常的にロボット導入や生産ラインの自動化を担当する専門部署がなく知見や経験も乏しいため、自動化の構想の描き方やライン設計の考え方、またそうした上流への支援に関する情報が求められる。

このように、一つの市場においても、顧客のタイプにより顧客が求める情報や期待する支援内容は大きく異なる。ロボット市場では顧客の業種によるニーズや購買行動の違いが大きかったが、「企業規模」「購買の主幹部門や組織体制の在り方」「業界と当該企業の歴史の古さ」等多様な要素がセグメント軸になり得る。購買行動の違いを生む要因に基づいてセグメンテーションし、セグメントごとに情報とコミュニケーションを設計する必要がある。

ペルソナ設計とカスタマージャーニーの可視化、接点設計

顧客セグメンテーションと顧客の購買プロセス分析を行い、顧客側の状況を把握した後、それぞれのセグメントに対してどのような価値を訴えていくべきか、また、どのような接点を使うのが最適か、という施策の設計に落とし込んでいく。

ロボットのケースでは、機械・エレクトロニクス系のセグメントの企業では、必要な情報が明確であり、WebサイトやYouTubeでの情報収集だけで十分なケースが多い。こうした企業には、製品仕様や技術情報を中心としたコンテンツが有効である。一方で、自動化の経験が浅い企業では、人と会って説明を受けたい、導入構想から相談したいというニーズが強く、展示会やセミナーなど対面型の接点が効果的となる。こうした企業には、自動化の全体設計や導入ステップなど、より上流の情報提供が求められる。

施策設計においては、顧客の購買行動に合わせてWebサイトでの情報発信やコンテンツマーケティングを行い、顧客の検索キーワードを分析したうえで顧客が調べる情報に対応したコンテンツを制作・掲載する。また、ロボットが実現する新しい工場のあり方といったテーマでPRを展開し、市場にメッセージを投げかけることも有効である。さらに、展示会やセミナーでは、初心者層には基礎知識の提供を、成熟層には新製品の訴求を行うなど、目的に応じた出展内容を設計する必要がある。

このように、顧客セグメントごとに適切なチャネルと情報を組み合わせ、優先順位をつけて施策を実行することで、見込み客育成の精度が高まり、営業へ引き渡すリードの質が向上するのである。

パーセプション設計とBtoBブランド戦略の実践

提供価値規定によるメッセージ設計

ターゲットとなる顧客像と必要なリードの方向性が明確になったら、次に取り組むべきはマーケティングアプローチの設計である。ここでは、顧客のニーズを踏まえたメッセージとコミュニケーションの設計が重要となる。

まず、顧客がどのような製品・サービスを求めているのかを深く理解する必要がある。顧客は課題解決のために、特定のキーワードやイメージをもとに情報を検索し、比較し、候補企業を絞り込んでいく。たとえば「自動化の構想から相談できるパートナーを探したい」「ロボット導入のノウハウが豊富な企業に相談したい」といったイメージを持ちながら検索を行っている。こうした顧客の探索行動を高い解像度で把握することで、企業として獲得すべき認知=パーセプションを定義することができる。

こうした検討を踏まえ、「獲得したい顧客の認知」を定義する。一般的には、把握した顧客の関心事に対応したメッセージを洗い出し、発信へ落とし込むケースが多い。しかし実際の意思決定において、顧客は製品・サービスの特徴だけでなく、その背景にある考え方やビジョン、担当者の姿勢から感じられる信頼感など、多様な観点から他社との違いを感じ取り、価値を見出すことで取引を決定する。BtoBビジネスの複雑性や製品・サービスの高度化が進む現在、こうした傾向は一層強まっている。
したがって、情報発信においても、個別の製品価値を伝えることにとどまらず、自社が提供する事業価値の全体像を一貫して伝えていくことが重要となる。そうした製品・サービスを超えた価値構造を整理し、伝えるための手法として有効なのが、ブランディングのアプローチである。顧客に対する価値構造を整理する際には、ブランド提供価値規定フレームを活用する(図4)。

なお、強みをアピールするだけでは、顧客にどんなベネフィットを得られるのかが伝わらない。事業や製品が提供する機能ではなく、それにより顧客が得られる価値が何なのか、それがどのような機能や強みで実現されるのか、というロジックでメッセージを構築することが重要である。ブランドの価値規定に基づき、自社の強みを顧客にとって意味のある価値として再定義し、それを一貫したコミュニケーションとして展開することで、狙ったパーセプションを形成することが可能となる。

図4 ブランドの提供価値整理

BtoBにおけるブランド戦略の実践例

ここでは、先にも引き合いに出している精密機器企業のロボティクス事業におけるマーケティング支援事例をもとに、ブランド戦略の実践例を紹介する。

この企業では、競合がデジタルマーケティングを活用して成長する中、自社のデジタル活用が遅れており、見込み客創出が停滞していた。リスティング広告や製品情報の掲載、実機デモなどの施策は行っていたものの、いずれも自社視点の情報発信にとどまり、顧客の知りたい情報と乖離していた。また、顧客の業界や組織によって購買行動が異なるにもかかわらず、それらを考慮した施策設計が行われていなかったため、営業によるマーケティングリードのフォローも進まない状況であった。

そこで、ロボティクス市場と顧客の自動化検討プロセスを詳細に調査し、顧客の支援ニーズが分かれる軸を導出したうえで、セグメント別のアプローチ戦略を策定。各セグメントに対して、それぞれの自動化ニーズと必要とされる情報や接点を整理し、カスタマージャーニーに基づくコンテンツとチャネルの設計・開発に落とし込んだ。さらに、リード獲得後の育成シナリオをセグメント別に設計し、マーケティングオートメーションツールに実装することで、営業がフォローしやすい形での送客を実現した。

その結果、施策実施前と比較してリード獲得数は数倍に増加し、マーケティング部門の社内プレゼンスも大きく向上。デジタル専門組織としての認知が高まり、マーケティングに留まらない他部門からの相談が増加するという副次的効果ももたらした。

この事例は、BtoB企業において効果的なマーケティング、すなわち顧客理解に基づく戦略設計と、パーセプションを踏まえたコミュニケーション設計を行うことがもたらす良質なリード増加・ひいてはその先のトップライン向上の可能性を示している。

マーケティングで事業成果を高めるために

これまで述べてきたように、マーケティングは見込み客を創出し、営業が提案・受注へとつなげるための前段を担う機能である。しかし、マーケティングが機能したからといって、それだけで売上が立つわけではない。マーケティングが「話を聞きたい」という顧客を連れてきた後、その顧客に対して実際に提案を行い、受注へと導くのは営業である。つまり、前半の顧客づくりをマーケティングが担い、後半の刈り取りを営業が担うという分業体制が基本となる。

しかし、この両者の間にはしばしばギャップが生じる。マーケティング側からすれば、せっかく多くの見込み客を創出して営業に引き渡しても、営業がなかなかコンタクトせず商談につながらないという不満がある。一方で営業側からすれば、マーケティングが送ってくるリードは「売りたいものを買いたい人ではない」「外れが多い」と感じられることもある。こうしたミスコミュニケーションや認識のズレが積み重なることで、両者の活動が不整合を起こし、成果が見えにくくなるケースは少なくない。

さらに、課題はマーケティングと営業の間だけにとどまらない。場合によっては、製品を開発する部門との間にも認識のズレが生じることがある。顧客のニーズや市場の変化を踏まえた製品開発が行われていない場合、マーケティングや営業がどれだけ努力しても成果につながりにくい。逆に、開発側が想定する価値と顧客が求める価値が一致していないことで、コミュニケーションの方向性が定まらないケースもある。

重要なのは、こうした「顧客との接点で売ろうとした時に生じる課題」を、マーケティングプロセス全体の中で丁寧に分析し、部門間の連携のあり方を再設計することである。マーケティングが創出するリードの質を高めるだけでなく、営業がフォローしやすい形で引き渡す仕組みを整え、さらに開発・営業・マーケティングが一貫した顧客理解を共有することで、組織全体としての営業力を強化することができる。

そして、このような組織全体の営業力を高めるためにマーケティングの担う役割こそが、パーセプションの確立である。営業にシーンが移って顧客と会話を始める際に、自社やサービスの強み・特長が伝わっている、つまりパーセプションが確立されていると、顧客側に一定の認識や期待がある状態から話ができ、目的意識や解像度の高い議論ができるため、案件獲得の確度は大きく高まる。

マーケティングは単なるリード創出機能ではなく、営業が本来の提案活動に集中できる環境を整え、組織全体の売上創出力を底上げするための基盤である。部門間の連携を最適化し、顧客接点での課題を解消していくことで、製造業における営業DXはより強固なものとなる。

アビームコンサルティングは、製造業における顧客理解とパーセプション設計を起点に、マーケティングと営業が連動するプロセスの再構築を支援している。事業のトップライン向上を実現するブランド戦略の策定から施策の展開まで、クライアントのパートナーとして伴走した実績を多数有する。また近年は、AIを活用した顧客データ分析や仮説設計の高度化を通じて、施策立案から実行・改善までの精度とスピードを高めている。
今後も構想策定にとどまらず、組織・プロセス・テクノロジーを横断した実行支援により、営業DXによる持続的な事業成果創出に貢献していきたい。


Contact

相談やお問い合わせはこちらへ