銀行の店舗を「実効性の高い相談・連携のハブ」へ ― 地域金融機関における店舗・チャネル進化の次なるステージへ ―

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2026.04.20
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はじめに

人口減少と地域経済の縮小、デジタルチャネルの普及、BaaS(Banking as a Service)を含む金融事業における競争環境の変化を受けて、銀行と顧客の接点は「店舗中心」から「店舗・デジタル・外部チャネルの複線」へと移行している。日常取引が非対面化する一方、重要な局面では対面の価値が選ばれるという使い分けが定着し、店舗とデジタルを個々に最適化する従来型モデルは限界を迎えつつある。

とりわけ地域金融機関においては、都市部と過疎地域の特性差や、他業態との役割の違いを踏まえた店舗機能の再定義が不可欠となる。顧客接点が複線化する中で求められるのは、店舗・デジタル・外部チャネルを一体で設計する運営モデルへの転換である。

本稿では、店舗・チャネル戦略を「金融機関において店舗は、どの地域の、どの顧客に対して、どのような価値を提供する拠点であるのか」という観点から再整理し、その実装の要諦を4つの視点で提示する。

執筆者情報

  • 大野 晃

    Principal
  • 砂田 浩行

    菊地 有

    Director
  • 小田 康二

    小田 康二

    Manager
  • 髙塩 晃貴

    髙塩 晃貴

    Senior Consultant
  • 塚田 和生

    塚田 和生

    Senior Consultant

1. 構造変化が突きつける「店舗前提モデル」の限界

地域人口の縮小は、顧客の来店需要そのものを減らし、広い店舗網で顧客をカバーする従来モデルの持続可能性を脅かしている。実際、2001年から2021年にかけて金融機関の店舗数は大手銀行などが▲26.2%、地方銀行が▲13.3%、信用金庫が▲16.0%と、業態を問わず減少しており、固定費構造の見直しが不可避であることを示している。

出所: 財務総合政策研究所「都道府県別預貯金残高と業態別金融機関店舗数の変遷」

政策面では、政府によるキャッシュレス決済比率向上施策が推進されている。加えて、人口減少の進展やバンキングアプリの普及、社会全体のデジタル化により、顧客が金融機関店舗を訪れなくても多くの取引を完結できる環境が整いつつある。その結果、店舗における現金入出金や振込などの定型的な銀行取引は減少しており、金融取引のチャネル構造は変化しつつある。
顧客行動も大きく変化した。2015年から2024年にかけて店舗窓口利用率が89.3%から71.2%へ低下する一方、バンキングアプリ利用率は11.0%から46.7%へ上昇しており、日常取引の主戦場がデジタルへ移ったことは明白である。

出典:一般社団法人 全国銀行協会「よりよい銀行づくりのためのアンケート報告書(2024年度)」

デジタル化の進展に伴い、顧客は、取引内容や目的に応じてチャネルを使い分ける行動が定着しつつあり、振込・残高照会などの日常取引ではバンキングアプリやインターネットバンキングといった非対面チャネルを利用し、24時間365日、待ち時間なく手続きが完結する利便性や効率性を重視している。
他方、住宅ローンや資産運用などの「自身で何らかの決断を要する取引」では、担当者への信頼感や安心感が重視される傾向が見られる。また、不正利用や紛失などの「緊急を要するトラブル発生時」には、対応の即時性や迅速性が重視され、対面・有人チャネルが選好される。

このように、定型的・高頻度の取引ほど機能的価値(迅速性・手軽さ)が重視され、非対面チャネルが選択されている。一方で、低頻度・非定型で重要性の高い取引ほど安心・信頼・納得といった心理的価値が重視され、対面チャネルが選択される構造が明確になってきており、店舗は「取引処理の場」から「相談・不安解消・関係構築の場」へと役割が大きく変化してきている。

2.銀行規模別:統合基盤×相談特化×外部チャネルの活用手法事例

メガバンク・大手銀行は、共通IDと共通データ基盤を起点に、店舗・デジタル・リモートを一体で運営し、チャネル間の連携強化や各チャネルの役割明確化を進めている。店舗は相談・提案機能に特化する一方、バンキングアプリは日常取引の利便性と完結性を高めるチャネルとして位置付けられている。また、リモートチャネルはオンライン面談やコンタクトセンターなどを通じて非対面相談を補完し、来店せずとも相談できる体制を整備している。さらに、グループ企業や外部サービスとの連携を通じて、途切れない顧客体験を実現しようとしている。

地方銀行でも、①店舗機能の特化、②日常取引のデジタル移行、③チャネル横断での顧客データ活用が進んでいる。機能特化型店舗、コンタクトセンター高度化、バンキングアプリ・法人ポータルの高度化などにより、リアルとデジタルを補完するハイブリッド営業体制を構築する動きがみられている。単なるデジタル活用ではなく、これまで店舗で行われてきた取引をデジタルで対応可能にし、そうした効率化によって生まれる時間を、顧客からの相談や顧客に対する提案に再分配する、金融機関の新たな価値提供の方法である。

ネット銀行は、共通IDと共通データ基盤を中核に口座・決済・投資・ポイントなどを統合し、バンキングアプリ内で取引を完結させながら、行動データに基づく最適な提案とUX改善を高速で回している。さらにBaaSの提供拡大により、銀行機能が非金融事業者のサービスや店舗に組み込まれ、顧客との接点は、自前のチャネルの外側にも拡張を続けている。
このとき重要なのは、非金融事業者といった外部チャネルの獲得だけでなく、非金融事業者が提供する金融サービスを起点として、金融機関側でより高度な相談・提案活動を通じたクロスセルによる収益化の道筋を同時に描くことである。

また業態横断では、AI(生成AI含む)、BaaS、Cloud、Digital channelが直近の主要トレンドとして挙げられ、これらを活用した、営業面・業務面の生産性向上を進めるための取組みが目立つ。こうした技術トレンドは、店舗の役割転換(相談特化)と矛盾するものではなく、むしろ、店舗の機能を相談・提案に特化させ、新たな価値提供に寄与する可能性がある。
一方で、利便性と同時に信頼を担保するUI/UXの設計、ルールやガバナンスの整備、そしてそうした新たな技術を使いこなすための人材育成が伴わなければ、デジタルを活用した効果は部分的なものにとどまるだろう。

3. 店舗・チャネルを取り巻く構造課題と「相談・連携のハブ」への進化

外部環境の変化に対応するため、多くの金融機関が店舗再編やデジタル投資を進めてきたものの、対面・非対面チャネル全体でみると、生産性と顧客接点において、後述の三点の構造的な課題が顕在化している。
なお、こうした構造課題を考えるうえでは、近年の金利環境の変化によって店舗の位置付けが見直されつつある点も踏まえる必要がある。長期にわたる低金利環境下では、預金は金融機関間で差別化が難しく、店舗は固定費削減の観点から効率化・簡素化の対象として捉えられる傾向が強かった。一方で、金利のある環境では、預金は金融機関にとって重要な調達基盤であり、顧客との関係性を維持する接点としての価値が改めて認識されつつある。顧客が預金を預け続ける背景には、資金管理ニーズだけでなく、相談できる安心感や地域における存在感といった無形の価値が存在する。こうした観点から、店舗は「コスト削減の対象」から「預金を獲得・引き留め、顧客との信頼関係を維持・深化させるための投資対象」へと再評価されつつある。
しかし現状の店舗・チャネル運営は、こうした環境変化を前提とした設計になっているとは言い難く、主に三つの構造的課題が生じている。

第一の課題として、人口減少と地域経済の縮小により来店需要が減少する中、従来型の広域店舗網を前提とした運営モデルでは、採算性の確保が構造的に難しく、見直しが求められている。

一方で、非対面取引が拡大するなかでも来店客数を維持している店舗は少なからず存在する。こうした店舗においては、相談・提案機能の重要性がより一層高まっているものの、人員配置や金融機関内における当該店舗の位置付け・役割が取引処理中心のまま据え置かれているケースが多くみられる。
結果として、顧客の需要に合わせた適切なリソース分配ができておらず、店舗ネットワーク全体の効率的かつ有効な運営の障壁になっていると考えられる。

第二の課題は、顧客接点の分散と競争環境の変化への対応である。バンキングアプリやインターネットバンキングに加え、ネット銀行や非金融事業者による金融サービスの提供拡大が進み、顧客は銀行の自前チャネルを経由せずに金融機能を利用するようになっている。これにより、金融機関の存在感は相対的に低下し、接点の確保そのものが課題となりつつある。さらに、当局による地域金融機能の持続的発揮に向けた要請のもと、効率化と金融アクセス維持の両立が求められており、従来以上にチャネル戦略の再構築が必要となっている。

第三の課題は、内部運営の構造改革である。店舗、コールセンター、デジタルチャネルごとに顧客データが分断され、顧客の行動や取引状況を横断的に把握できず、最適な提案やフォローが必ずしも行われていない。加えて、職員のスキル定義や育成・評価・配置が連動して実施されないため、職員によって相談・提案力やデジタル活用の幅にばらつきが生じている。KPIについても部門単位の管理にとどまり、全社的なPDCAが十分に機能ないケースも多い。このように、チャネル横断での顧客管理が不十分であることと内部運営の非効率が相互に影響し、チャネル全体の生産性を低下させている。

これら三つの課題に対しては、店舗数の増減や個別のデジタル施策といった部分最適を追求するのではなく、①店舗・チャネル配置、②業務・人材モデル、③データ利活用、④マネジメント・推進体制を一体で再設計し、継続的に改善していくアプローチが不可欠である。この再設計を持続的に進めるためには、統合されたデータを活用し、顧客行動や業務需要の変化を的確に捉える仕組みが求められる。さらに、生成AIなどを活用し、相談兆候の検知や業務負荷の可視化を通じて、対応の優先順位を明確化することも可能となるだろう。
こうした分析結果を踏まえ、来店・取引データに基づき店舗と各チャネルの役割を見直すとともに、定型業務の電子化・集約・自動化によって創出した人員を相談・提案業務へ振り向けていくことが重要である。同時に、スキル定義から育成・評価・配置までを一体で運用し、相談とデジタルの双方に対応できる人材を体系的に育成することが求められる。また、データ定義や管理ルールを統一した共通基盤を整備し、全チャネルで顧客情報と対応履歴を一元管理することで、経営・本部・営業店が同一の指標に基づき意思決定できる体制を構築する必要があると考えられる。
こうした取り組みを通じて、これからの店舗は単なる取引拠点ではなく、顧客や地域の課題を起点に内部外部の機能を結び付ける「相談・連携のハブ」へと進化する必要がある。ここでいう「ハブ」とは、本部施策の実行拠点にとどまらず、現場で把握した課題を起点に本部の専門部署やグループ会社、外部専門家、自治体、さらには非金融事業者をつなぎ、解決まで伴走する中核機能を指す。
そのためには、個別案件に関する一定の判断権限を現場に委譲し、本部は統制と専門支援に軸足を置く役割へとシフトしていくことも重要である。こうした変革により、店舗は本部施策の実行拠点から、顧客課題の発見と解決、価値創出の起点へと役割を変えていくことになる。金融機関には資金供給に加え、事業承継、DX、人材確保、地域活性化といった複合的な課題への関与が期待されており、店舗はその実現を担うドライバーになり得ると考える。

もっとも、すべての店舗が同一機能を担う必要はない。立地特性、顧客構成、人材配置を踏まえた役割分担を行い、本部と連携したネットワークとして機能させることが重要である。大型店舗は高度な課題解決や行政・外部機関との連携を担う拠点として専門人材を配置し、施策創出までを完結させ、中型店舗はエリア内の相談を集約し、課題の一次整理と本部方針の現場展開を担うハブとして機能する。そして、小型店舗は個人顧客の簡易相談受付やデジタルチャネルへの誘導を担い、顧客動向を早期に把握して上位チャネルへつなぐ入口として位置づける。このような階層化により、限られた経営資源を高付加価値業務に集中させつつ、地域における金融アクセスを維持することが可能となるだろう。

4. 店舗・チャネルを一体で再設計する運営モデルと構想倒れにしないための実装視点

店舗の役割転換を実効性あるものとするためには、顧客接点をチャネルごとに個別運営するのではなく、横断的に統合した運営モデルへの転換が不可欠である。運営モデルの転換を進めるうえで、中核となるのが、「顧客接点」「情報」「運営ルール」「顧客フォロー」の統合である。

顧客接点の統合とは、来店、渉外、コールセンター、バンキングアプリといった複数の接点のいずれを起点としても、同一水準のサービスと提案を受けられる体制を構築することである。情報の統合は、チャネル横断で顧客の行動・相談・取引履歴を一元管理し、状況変化を正確に把握することで判断の一貫性を高めることを意味する。運営ルールの統合は、チャネルごとに異なっている判断基準やフォロー方法を共通化し、対応品質のばらつきを解消する取り組みを指し、顧客フォローの統合は、複数接点で発生する顧客の行動を継続的に把握し、途切れない関係構築を可能とするものである。こうした取り組みにより、顧客はどの接点からでもシームレスにサービスを利用でき、金融機関は顧客に応じた最適な提案と効率的なリソース配分を同時に実現できる可能性がある。

こうした構想を実現することで、店舗は「取引処理の場」から「相談・不安解消・関係構築の場」へ転換することとなり、金融取引にとどまらず、顧客との関係を深めることが可能となる。

構想の実現に向けては、段階的なアプローチが必要である。まず、定型業務の削減と自動化により人員と時間を創出し、その活用方針を明確化することが出発点となる。次に、創出したリソースを顧客対応や新たな取り組みに再配分し、グループとしての価値提供を実装する段階へと進む。このプロセスにおいて重要なのは、経営直下の推進体制のもとで優先順位と進捗を一元管理し、共通KPIにより成果を可視化することである。また、データに基づき店舗・チャネルの見直しを継続的に行い、業務・人材・評価の仕組みを連動させることで、変革を一過性の施策に終わらせない運営基盤を構築することが肝要である。

アビームコンサルティングは、金融機関において、経営戦略・チャネル戦略の立案から、業務プロセス設計、人材・評価制度の見直し、データ基盤整備、デジタル・AI活用までを幅広く支援してきた実績を有している。
構想策定に加え、現場に根差した実装・定着までを伴走することで、店舗を「構想上のハブ」に留めることなく、持続的な価値創出を担う「実効性の高い相談・連携のハブ」へと転換することを支援している。

5. おわりに

銀行の店舗を「相談と連携のハブ」として活用し、持続的な競争力へと昇華させるには、金融の枠を超えた行員の対応力が必要となる。店舗・デジタル・本部を横断し、顧客の多様かつ複合的な課題を構造的に捉え、最適な解決策へと導くことのできるスペシャリスト人材を中長期的な視点で育成し続け、その仕組みを定着させることが、これからの銀行経営における最も重要な投資となる。
さらに、生成AIの進展により、今後定型的な情報整理や初期提案の支援は高度化していく可能性がある。その前提のもとで、店舗が担うべき役割は、顧客の真の課題を引き出し、複数の解決手段を結び付け、最終的な意思決定を伴走する高度相談機能へと集約される。店舗が内部外部の機能を結節し、課題解決までを実行に結び付けてこそ、「実効性のある相談・連携のハブ」として機能する。技術と人材を一体で設計することが、地域金融機関における店舗・チャネル進化の次なるステージを切り拓く鍵となる。


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