外部環境の変化に対応するため、多くの金融機関が店舗再編やデジタル投資を進めてきたものの、対面・非対面チャネル全体でみると、生産性と顧客接点において、後述の三点の構造的な課題が顕在化している。
なお、こうした構造課題を考えるうえでは、近年の金利環境の変化によって店舗の位置付けが見直されつつある点も踏まえる必要がある。長期にわたる低金利環境下では、預金は金融機関間で差別化が難しく、店舗は固定費削減の観点から効率化・簡素化の対象として捉えられる傾向が強かった。一方で、金利のある環境では、預金は金融機関にとって重要な調達基盤であり、顧客との関係性を維持する接点としての価値が改めて認識されつつある。顧客が預金を預け続ける背景には、資金管理ニーズだけでなく、相談できる安心感や地域における存在感といった無形の価値が存在する。こうした観点から、店舗は「コスト削減の対象」から「預金を獲得・引き留め、顧客との信頼関係を維持・深化させるための投資対象」へと再評価されつつある。
しかし現状の店舗・チャネル運営は、こうした環境変化を前提とした設計になっているとは言い難く、主に三つの構造的課題が生じている。
第一の課題として、人口減少と地域経済の縮小により来店需要が減少する中、従来型の広域店舗網を前提とした運営モデルでは、採算性の確保が構造的に難しく、見直しが求められている。
一方で、非対面取引が拡大するなかでも来店客数を維持している店舗は少なからず存在する。こうした店舗においては、相談・提案機能の重要性がより一層高まっているものの、人員配置や金融機関内における当該店舗の位置付け・役割が取引処理中心のまま据え置かれているケースが多くみられる。
結果として、顧客の需要に合わせた適切なリソース分配ができておらず、店舗ネットワーク全体の効率的かつ有効な運営の障壁になっていると考えられる。
第二の課題は、顧客接点の分散と競争環境の変化への対応である。バンキングアプリやインターネットバンキングに加え、ネット銀行や非金融事業者による金融サービスの提供拡大が進み、顧客は銀行の自前チャネルを経由せずに金融機能を利用するようになっている。これにより、金融機関の存在感は相対的に低下し、接点の確保そのものが課題となりつつある。さらに、当局による地域金融機能の持続的発揮に向けた要請のもと、効率化と金融アクセス維持の両立が求められており、従来以上にチャネル戦略の再構築が必要となっている。
第三の課題は、内部運営の構造改革である。店舗、コールセンター、デジタルチャネルごとに顧客データが分断され、顧客の行動や取引状況を横断的に把握できず、最適な提案やフォローが必ずしも行われていない。加えて、職員のスキル定義や育成・評価・配置が連動して実施されないため、職員によって相談・提案力やデジタル活用の幅にばらつきが生じている。KPIについても部門単位の管理にとどまり、全社的なPDCAが十分に機能ないケースも多い。このように、チャネル横断での顧客管理が不十分であることと内部運営の非効率が相互に影響し、チャネル全体の生産性を低下させている。
これら三つの課題に対しては、店舗数の増減や個別のデジタル施策といった部分最適を追求するのではなく、①店舗・チャネル配置、②業務・人材モデル、③データ利活用、④マネジメント・推進体制を一体で再設計し、継続的に改善していくアプローチが不可欠である。この再設計を持続的に進めるためには、統合されたデータを活用し、顧客行動や業務需要の変化を的確に捉える仕組みが求められる。さらに、生成AIなどを活用し、相談兆候の検知や業務負荷の可視化を通じて、対応の優先順位を明確化することも可能となるだろう。
こうした分析結果を踏まえ、来店・取引データに基づき店舗と各チャネルの役割を見直すとともに、定型業務の電子化・集約・自動化によって創出した人員を相談・提案業務へ振り向けていくことが重要である。同時に、スキル定義から育成・評価・配置までを一体で運用し、相談とデジタルの双方に対応できる人材を体系的に育成することが求められる。また、データ定義や管理ルールを統一した共通基盤を整備し、全チャネルで顧客情報と対応履歴を一元管理することで、経営・本部・営業店が同一の指標に基づき意思決定できる体制を構築する必要があると考えられる。
こうした取り組みを通じて、これからの店舗は単なる取引拠点ではなく、顧客や地域の課題を起点に内部外部の機能を結び付ける「相談・連携のハブ」へと進化する必要がある。ここでいう「ハブ」とは、本部施策の実行拠点にとどまらず、現場で把握した課題を起点に本部の専門部署やグループ会社、外部専門家、自治体、さらには非金融事業者をつなぎ、解決まで伴走する中核機能を指す。
そのためには、個別案件に関する一定の判断権限を現場に委譲し、本部は統制と専門支援に軸足を置く役割へとシフトしていくことも重要である。こうした変革により、店舗は本部施策の実行拠点から、顧客課題の発見と解決、価値創出の起点へと役割を変えていくことになる。金融機関には資金供給に加え、事業承継、DX、人材確保、地域活性化といった複合的な課題への関与が期待されており、店舗はその実現を担うドライバーになり得ると考える。