【イベントレポート】AI前提の業務設計で実現する、次世代BPR(業務改革)への挑戦

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2025.09.19
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慢性的かつ構造的な人手不足が続く中、日本企業のBPR(業務改革)推進の壁となってきたのが、いわゆる「非定型業務」の存在だった。それを解決する鍵となるのがAIである。従来の「定型業務のデジタル化」を脱却し、AIを前提としたゼロベースの業務再構築が急務となっている。しかし、実際は未だ多くの企業が個別工程の最適化にとどまり、全社横断的なBPRに至っていないのが実状だ。では、具体的にどのような取り組みが必要なのか。本稿では、アビームコンサルティングが実践する具体的なAI活用事例と成果、さらに独自に提唱する将来構想を通じた次世代BPRの実現手法を紹介する。

(本稿は、2025年7月8日に開催された当社および株式会社PKSHA Technology共催のWebセミナー「AI活用によるBPR戦略」から、当社講演「AI活用によるBPR事例とアビームコンサルティングが掲げるAIコンサルティングの将来像」をもとに再構成しています)

執筆者情報

  • 西岡 千尋

    Principal

1.改めて問う、「なぜ今、AI活用によるBPRが必要なのか」

周知の通り、AI活用はすでにBPRの領域においても急速に広がりつつある。なぜ今BPRにAI活用が必要なのか、その背景について見ていきたい。

帝国データバンクの調査によれば、半数を超える51.4%の企業が「人手が不足している」と回答しており、労働力人口の減少は多くの企業が直面している課題である。
一方、大企業を対象とした業務システム利活用に関する調査では、既存のITシステムが抱える課題として、実におよそ80%の調査対象企業が現在のシステムに不満を感じている。
こうした調査は、日本企業の多くが「労働力の不足」「レガシーシステムの限界」というリスクを複合的に抱えており、「少ない人数で効率的に業務を回す仕組み」を根本から設計し直す時期に来ていることを示している。その再設計を実現するのがBPRである。

ただ、期待感の一方で従来の「日本型BPR」は、定型業務のデジタル化、自動化にとどまり、人間の判断や自動化が難しかった非定型業務までをカバーするイメージは持てなかった。いまその認識を、生成AIが大きく塗り替えようとしている。

こうしたAIに対する人々の期待感は、アビームコンサルティングに寄せられる企業からの相談にも表れている。例えば、これまではベテラン社員に依存してきた手順書すら存在しない業務やノウハウの共有・伝達方法や若手人材の確保や教育にも多くの時間がかかるため、AIに技術継承を委ねたいといったものである。
また、AIを活用して、人が介在しない業務プロセスの自動化を実現し、コア事業の次の成長に自社人材を振り向けたいという発展的な相談も増えている。
このような背景から、従来の業務改善手法では対応しきれない課題に対し、AIが新たな打ち手として求められていることが伺える。

2. 自動化、無人化による業務効率向上など、広がるAI活用成功事例

ここからは、実際にAIを活用したBPRの事例を3つ紹介する。

① 社内問い合わせ業務のAI化で、人手による対応の負荷を半分以下に削減

1つ目は、アビームコンサルティング社内の問い合わせ業務をAI化で自動化した事例となる。社内には多種多様な問い合わせ業務があるが、人手による対応では同じような問い合わせに何度も答えなければならず、担当者の業務負荷が高い状況が続いていた。

また、問い合わせをするユーザー側もその都度メールやチャットによる回答を待たなければならず、回答を待つ間は業務が停滞するケースも少なくない状態であった。その解決策の第1弾として、経理部門への問い合わせが多い業務に対応するために導入されたのが「AIヘルプデスク」だ。この結果、回答の自動化が進み、有人対応の件数は導入前と比較して全体の2割以下まで削減。問い合わせ担当者とユーザー双方の業務効率化を実現した(図1)。

図1 アビームコンサルティング AI×BPR「AIヘルプデスク」の取り組み

② ベテラン社員の負荷が高い開発業務をAIで省力化

2つ目の事例は、ある半導体メーカーによる開発業務全体の生産性を向上させる試みである。ソフトウエアの機能追加や新規開発の要求は、この先も増加していくことが確実と見られている。人手不足の中、そうした事態に対応するため、業務の自動化や省力化による開発効率の向上が強く求められていた。

開発業務には、「企画」「設計」「開発」「テスト」などさまざまなプロセスがある。そこで、中でもベテラン社員の負荷が最も高い「設計」の業務にフォーカスしてAI活用を進めた結果、前年度比で15%の省力化を実現した。

③ 商談の準備作業を、AIによる自動化で9割近く削減

3つ目の事例は、総合商社のトレーディング部門だ。同部門の商談準備作業は、商材の値動きやニュースなど必要なタイミングでのレポート作成から始まり、どう交渉を進めるかというシナリオの作成までいくつものプロセスを経て進んでいく。こうした一連の作業を、AIをフルに活用して自動化した結果、最大で88%の作業量を削減した。

3. アビームコンサルティング社内でのAI活用推進

前章の事例①のような、アビームコンサルティング社内のBPRに向けたAI活用は、他にも社員の働き方改革に資する取り組みにおいて進んでいる。
まず、「インダストリーアジェンダ×AI」は、各業種・業界で必要とされるAIを、自社で開発・提供する試みとなる。例えば「金融×AI」や「製造×AI」であれば、金融や製造の業種に精通したコンサルタントと、AIを専門とするコンサルタントが協力して開発に携わり、業務とAIそれぞれのエキスパート連携によって、専門性の高いAIサービスを実現できる。
そして「コンサル業務×AI」においては、コンサルティング業務でもAIをフルに活用しており、先述の「社内問い合わせ業務のAI化」は、その一例である。他にもナレッジの活用や情報検索、提案書の作成など、さまざまな場面で活用を進めている。

このようなAI活用は、アビームコンサルティングの社内だけで進めているわけではなく、特にテクノロジーに強みを持つ社外のパートナーとともにさまざまな分野・領域の専門家が関与している点も大きな特徴だ。

4. <ケーススタディ>AIヘルプデスクで「負荷軽減&効率化」を実現

3章の事例①として触れたアビームコンサルティング社内の問い合わせ業務における「AIヘルプデスク」の活用について、さらに詳しく紹介する。

「AIヘルプデスク」の導入背景に2つの課題

社内での問い合わせ業務は多くの企業で必要とされる業務であり、高度なものから日常的な確認・質問まで、多種多様な問い合わせが存在する。とはいえ、マニュアルや規則などのドキュメントを確認すれば解決できるレベルの問い合わせも多数あるのが実状であり、担当者の業務負荷はかなり高い状況が続いていた。

オンラインで使えるFAQなども提供していたが、利用者側は、FAQを探すこと自体に工数が発生していた。また、誰か答えてくれそうな人に問い合わせても、メールでやり取りしながら解決までに数日もかかるパターンもあった。

こうした問い合わせ業務担当者の負荷軽減と、社員の業務効率アップを両立させるという喫緊の課題が「AIヘルプデスク」開発の背景である。

24時間・365日いつでも問い合わせが可能

「AIヘルプデスク」の大きな特徴の1つは、FAQとマニュアルや手順書のようなドキュメントの両方に対応している点である。そのため、FAQなどの情報があれば、ユーザーは24時間・365日いつでも問い合わせができ、即座に回答を得ることが可能となった。(図2)
問い合わせの処理も日常的に利用しているMicrosoft Teamsで完結できるため、複数の連絡手段を使い分けずに済む点も、社員の利便性を高めている。

図2 FAQと社内ドキュメントの両方の回答生成に対応。24時間365日、
いつでも問い合わせが可能なメリットも大きい

「想定外」を含む導入効果を実現

実際に「AIヘルプデスク」を導入した結果、現在は問い合わせ全体の8割が「AIヘルプデスク」による自動回答で解決しており、有人対応が必要なのは2割程度と、十分な成果を挙げている。

また、導入前には想定していなかった成果も見られ、従来のように人に問い合わせるのではなく、Teams上からAIに聞ける手軽さから、問い合わせの件数が前年比で2倍以上に増加した。

しかし利用ログを詳細に分析すると、これまでも直接主管部門に問い合わせはしていないものの、ユーザー自身でドキュメントを調べたり、身近な人に聞いたりしていた事実が判明した。すなわち、システムによる自動回答の潜在ニーズ自体は以前からあり、今回問い合わせ件数が倍増したのは、手軽さだけが理由ではなかったということであった。

また業務の効率化という観点では、主管部門の対応時間だけではなく、利用ユーザー側の業務効率化にも役立っている。導入の前後で比較すると、問い合わせ件数自体は2倍以上に増えたにも関わらず、有人対応は前年比39%と、半分以下に削減できた。ここでも想定以上の効果を発揮したといえる。

ServiceNowとの連携による利便性アップ

もう1つ、AIを活用したBPRの事例として、ServiceNowとAIヘルプデスクの連携についても紹介しておきたい。

アビームコンサルティングでは、グローバルで約280社の企業に対して、問い合わせ対応や障害対応、機能改修などのIT保守運用のアウトソーシングサービスを提供している。この基盤のサポートが終了するのを機に、ServiceNowによる基盤への刷新を実施している。

この際、ServiceNowの入口、ユーザーとのタッチポイントにAIヘルプデスクを置くことにより、エンドユーザーの自己解決を促進し、利便性の向上が期待できる。このとき、ServiceNowで扱う件数を抑制する効果が生まれ、運用側も業務効率化やトータルコストを抑えられる。

また、ServiceNowとAIヘルプデスクがシームレスに連携することで、ユーザーにとっても問い合わせ確認と問い合わせ窓口が一本化され、より使いやすい仕組みが提供できる。

※ ServiceNow:企業のさまざまな業務をデジタルワークフロー化し、自動化・効率化するプラットフォーム

5. アビームコンサルティングが掲げる今後のAI×BPR構想

最後に、アビームコンサルティングが掲げる今後のAIとBPRの構想を簡単に紹介したい。
当社では、業務改革と業務プロセスアウトソーシングビジネスの拡大に向け、アビームインテリジェントセンター(AIC)構想を掲げている。このAICは、従来のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)にとどまらず、AI技術を中核とした「デジタルプラットフォーム」と、アビームコンサルティンググループの持つ「ナレッジ」を統合。いわば「知見の集積基盤」として、BPOパートナー企業とともに、クライアントのBPOおよびビジネス変革を支援していく予定だ。
また、AICでは、AI技術の活用推進に向けたさまざまな提案や開発の取り組みが行われる。具体的には、当社が持つ多彩な要素技術、RPA、自然言語処理、生成AIなどがどのような形で使えるのか、AI活用基盤上での実証を行っていく。

これらの取り組みは自社単独ではなく、クライアントやアライアンス企業、先進技術を持つベンチャーなどと連携しながら、AIのソリューション化を進めていく方針だ。ここから生み出されたソリューションやユースケースを、AICのデジタルプラットフォーム上で提供し、多くのユーザーが活用する中で、テクノロジー・人材育成の両面で洗練されていくサイクルを創出していきたいと考えている。

また、AICの設立にともない、2025年夏にはアビームコンサルティングの本社オフィス内に「AICショールーム」を開設した。ここではAIヘルプデスクの活用も紹介しており、来訪者は、AICが提供する最先端技術やBPOの価値を直感的かつ具体的に体感することができる。

本稿では、AI活用によるBPR事例と当社が掲げるAIコンサルティングの将来像について紹介してきた。
しかし当社が目指すのは、単なるAI技術の導入ではなく、AIを前提とした業務設計によるビジネス変革、すなわち次世代BPRの実現だ。それには技術的な専門性だけでなく、自社業務に対する深い理解と、変革に向けた組織的な取り組みが不可欠である。アビームコンサルティングは、そうした総合的なアプローチでクライアントの次世代BPR実現を支援していく。

※ お知らせ:アビームコンサルティング、SSCの進化を支える基盤として独自のインテリジェントセンターを設立 ~最先端BPOを直感的に体験できるショールームを本社オフィスに開設~
https://www.abeam.com/jp/ja/news/2025/0902_2/


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