生成AI導入のポイントと成功の条件

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2024.10.04
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登場以来盛んに取り上げられている生成AIだが、企業・組織での導入は進んでいるのだろうか。当社にも多くの相談が寄せられているが成功事例は限定的であり、各社ともベストプラクティスを模索している状況だ。
生成AIが十分な効果を発揮するためには、課題を正しく捉えて生成AI活用の目的を明確にすることが重要である。さまざまなユースケースの検証から当社が得た、生成AI導入成功の鍵について解説する。
(本稿は2024年7月26日株式会社 PKSHA Technology主催イベント「〜生成AIによる社内ナレッジ活用の変革〜DX先進企業が検証を進める生成AI活用のリアル」での当社講演「〜生成AI導入のポイント〜コンサルティング企業が導入支援から得た生成AI導入における成功の条件」をもとに再構成しています。)

執筆者情報

  • 西岡 千尋

    Principal
  • 隈田 樹一郎

    Senior Manager
  • Shim Hajae

企業における生成AI活用の必要性と現況

かねてから予測されていた人口減少や労働生産人口の減少がより現実味を増し、採用難や現場の働き手不足など、企業活動に及ぼす影響が顕在化している。また、経験や勘で業務を担ってきた熟練した技術者のリタイアが進み、社内のナレッジ蓄積やノウハウ継承が十分にできていないという懸念もある。
こうした企業経営の根幹に関わる深刻な課題の打破に、生成AIがどのように寄与し得るのかが早急に問われており、もはや期待を寄せながら注視する段階は終わり、具体的な行動や成果が求められる段階にあるといえる。
社会や市場が著しく変化を続ける昨今、企業はこれまでになかった社会課題や業界課題にスピーディに対応することが求められ、それらをクリアしながら事業を成長させなければならない。そのため、解決すべき優先課題の特定と、生成AIをはじめとしたデジタルテクノロジーの見極めおよび実装のニーズが高まってきている。

生成AI導入におけるつまずきと課題

ChatGPTが流行し始めた頃、まるで何でもできる「魔法のツール」のような捉え方をされたが、期待値ばかりが先行して「想像していたよりもできることが少ない」という印象を抱いて行き詰ってしまうケースが多くみられる。
例えば、「それなりの文章は生成してくれるが、人に代わって対応できるほどではない」といったように、「思ったより用途が限られる」「思ったほど精度が出ない」といった感想はその代表だ。こうしたつまずきを避けるためには、「何ができて何ができないのか」をしっかり把握し、関係者間の期待値をコントロールしておく必要がある。具体的には、何を解決するために生成AIを使うのかを明確に社内関係者と合意形成することで、無用な失望感を排除できる。
次に、生成AIを利活用できそうだが適切なデータが揃っていないという課題に直面するケースも多い。「データが足りない」「入力できる形式になっていない」など、データの準備でつまずいてしまうと一向に前に進まない。
また、生成AIを利活用する仕組みを整えたものの、利用者が少なく活用が広がらないというケースも多い。当社の支援先でも、PoC(Proof of Concept)は100~300人といったユーザー数で検証スタートし、最初の1カ月ほどは物珍しさや期待感から利用頻度が高いものの、その後は利用率が下がり続け、2カ月も経つと当初の3割ぐらいに落ち込んでしまうケースがあった。これは社内の理解不足によるものであり、教育プログラムを並行して用意するなど、活用を促進する施策の実行も必要になる。
これらの仕組みを整備する前に、まずは①生成AI活用のアイデアを創出、②プロトタイピング、③検証、④本番開発を検討するといった4つのステップを踏むことで、こうしたつまずきを避け、取り組みを進めることが重要だ。(図1)

図1 生成AI導入のステップ

生成AI導入における成功の条件

では、生成AI導入における成功の条件とは何か。まずは、これまで当社が受けた相談内容を踏まえ、生成AI活用のニーズを3つに大別し解説する。
1つ目は、「全社活用に向けたさまざまなユースケース創出」である。この依頼元となる部署は、経営企画やDX推進関連の部署が多い。企業が生成AIをはじめとしたデジタルテクノロジーの全社的な活用を想定している場合、もしくは事業部門とIT部門の双方を巻き込んで推進する際やROI(投資利益率)などの指標に注目して効果を検証する場合は、単独の取り組みではなく、全社でどのようなインパクトが見られるのかを意識しているケースが多い。
2つ目は、「特定のユースケース検証」というパターンである。依頼元は、IT部門やコールセンターなどの特定の事業部門が多い。解決したい課題が明確になっており、その解決策として生成AIが役立つのではないかという期待感を持って相談に至ることが多い。しかしこのケースでは、生成AIに対する期待値が高い場合が多く、結果と折り合わないこともある。
3つ目は、「活用インフラ整備」に対するニーズであり、依頼元はIT部門が多い。生成AI普及のきっかけの1つとなったChatGPTのように、現状ではインターネットを介して情報をやり取りするケースが多いため、社内の機密情報を外部に漏らさず、従業員がセキュアに使用できる仕組みを整備したいという要望が多い。このパターンでは、環境を整備して社内に広く仕組みを提供したいというニーズが強く、リリース後の利用頻度や利用者数が限定的となるケースも散見される。(図2)

図2 生成AI活用のニーズに見られる「3つの類型」

上記3つの生成AI活用のニーズから、成功の条件として①AIへの過度な期待をしないこと、②現状のものに適合するだけでなく、次々に生み出される新しい生成AIを連続的に検証すること、③十分な効果を発揮するために課題を正しく捉えてAI活用の目的を明確にすること、④価値創出のサイクルを作り社内の業務に埋め込んでいくことの4つが挙げられる。

「AIソーシング」を活用した生成AI導入事例

アビームコンサルティングは、クライアントが直面する前例のない社会課題・経営課題を、AIによって解決するコンサルティングサービスを提供している。その1つとして、業務知見とAI技術を融合させたコンサルティングサービス「AIソーシング」を2024年3月から提供開始している。本サービスの活用を通じて、高度化するさまざまな経営アジェンダの推進を支援している。

では、AIソーシングサービスのプラットフォーム「ABeam AI Platform」を活用した具体例を2つ紹介する。
1つ目は、製造業の事例である。「製造業における事故やトラブル」といった失敗のデータを学ばせたAIを活用することで、人手不足に悩む製造現場の課題解決を図る。具体的には、このAIは、「永遠のベテラン社員」として、現場のスタッフと協働して作業できる環境を実現し、働きやすくミスの少ない業務を目指す。従来は熟練の技術者が蓄積してきた属人的な知識や経験を、AIによって共有および、次世代へ継承することにより、ヒューマンエラーの低減や作業効率改善を図り、業務の安全や生産性向上に寄与することができた。

2つ目は、スリープテック(睡眠×テクノロジー)とウェルビーイング推進支援の事例である。昨今フォーカスされている経営アジェンダに「人的資本経営」があるが、ウェルビーイングは、人的資本経営実践において鍵を握るファクターだ。従業員のコンディションとパフォーマンスの関連性を可視化することで、従業員のストレス低減を促し、価値向上を図る。具体的には、従業員数360百人、売上高1兆5000億円の企業において、従業員1000人を対象に4か月間、睡眠プログラムを実施した。睡眠改善により労働生産性インパクト試算において年間108百万円の効果が見られた。(図3)

図3 社会課題を解決する「ABeam AI Platform」

最後に、今や生成AIは月に1つは新しいサービスが発表されるほどの進化を見せており、今はできないことが半年後にはできるようになっている可能性もある。先にも述べたように、現状のものに適合するだけでなく、次々に生み出される新しい生成AIを連続的に検証し、そこから業務に実装できるものを見つけていくことが、導入の成功につながるのだ。

今後もアビームコンサルティングは、クライアントの創造的パートナーとして、社会課題・経営課題の解決を支援するために、デジタルテクノロジーとイノベーションを組み合わせた新しい価値創造を推進していく。


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