まず、「①価値の即時移転」について見てみよう。これまでの代表的な決済手段である銀行振込では基本的には送金が銀行営業時間に限定されている。また、もうひとつの代表的手段であるクレジットカード決済では、決済が行われてから加盟店が売上金を受け取るまでに最大1か月程度の期間を要する。これは、一部の電子マネーでも同様である。これに対し、デジタル通貨は365日24時間いつでも決済が可能で、支払いを受けた者は、受け取った資金を即座に次の取引で支払いにあてることができる。また、送金に係る手数料も銀行振込などに比べ安価に実現可能と考えられる。
銀行振込に関しては、銀行取引でも一部の銀行間ではリアルタイムの送金時間が延長され、システムメンテナンス時間を除けば24時間365日の送金が可能となってきている。また「ことら」のような少額であれば手数料なしに送金可能なサービスも登場するなど、既存の決済サービスが十分に整備されているため、この点だけで既存のサービスを置き換える決定的な要素にはなりにくいのではないかと想定される。ただし、上述の通りクレジットカードや電子マネーによる決済にはまだ課題があり、また国際送金においても、高額な手数料や長い送金時間といった課題が残存するため、これを解決する手段として、大きな可能性が期待される。
次に、「②プログラマビリティ」という特長に注目しよう。デジタル通貨では、お金のやり取りに情報を書き込めるため、消込や商品発送のトリガーなどに利用可能である。さらに、スマートコントラクトと呼ばれるプログラムによる自動取引が可能となる。例えば、複数の銀行口座を管理する企業において、特定の口座で支払いにより資金が不足する場合に、統括口座から自動で資金を移動するような動作を自動で実行することができる。
また、証券や為替などの決済において、支払いと所有権の移転や双方向の送金を同時に決済することにより、取引相手との決済リスクを解消する仕組み(いわゆるDvP※3 /PvP※4 決済)もこれにより実現される。このプログラマビリティは、金融取引の自動化と効率化に大きな可能性を秘めている。
イーサリアムやソラナなどのパーミッションレスブロックチェーン※5 上では、このスマートコントラクトを活用した取引所機能や融資、デリバティブ取引などが既に実装され、稼働している。これらは一般にDe-Fi(分散型金融)と呼ばれる領域で、従来の金融機関を介さずに金融サービスを提供する新たな形態として注目を集めている。今後、さまざまなユースケースや機能が開発されていくことが予想される。
最後に、「③トレーサビリティ」について見ていこう。デジタル通貨では、すべてのお金のやり取りが記録されており、またその情報を改ざんすることはほぼ不可能であるため、監査や証明において強力な証跡となる。この特性は、金融取引の透明性を高め、不正防止や資金の流れの追跡に大きく貢献する可能性がある。