今後、短期的にはさまざまなプラットフォームによるユースケースの実装が、今年から来年にかけて立ち上がってくる状況にある。ひとまずは、特定用途・特定商圏のデジタルアセットの流通を軸にした取り組みが中心となりつつ、今後は2号や3 号のユースケースへと広がっていくことが予想される。一方、セキュリティトークンについても流通市場である大阪デジタルエクスチェンジ株式会社(ODX)が設立され、セキュリティトークン(ST)のセカンダリー市場として「START」も稼働している。今後、デジタルアセットの流通の面でも活性化が図られるだろう。
一方中期的には、新しいユースケースの内容やプレイヤーの立場によって、預金担保型か金銭信託型かの選択が問われ、そうした選定により発行形態の個性が明確になってくると予測される。
長期展望に目を移すと、ステーブルコインが一層普及することで、大きな特長である商流と金流のリンクという利点の活用が進み、いまだ非効率な部分の多い企業間決済のDXが進んでいくだろう。
こうした将来展望を見定める際、ポイントとなるのは、ステーブルコインなどのブロックチェーン技術をベースとしたWeb3 Financeを、単なる法定通貨の決済の置き換えと捉えるだけにとどまらず、さまざまな取引における課題解決にどうつながるのかを見極めることだ。
例えば法人取引における入金消し込みや振り込み手数料削減、本人確認の効率化、安全性向上、資金調達の流動性の向上など、既存取引において非効率性につながる課題が、どう解消されるのかを追究していくことが事業開発プロセスの出発点となるだろう。
そこでは目先のユースケースをどう実現していくかのみにとらわれず、ブロックチェーン技術などを基盤とするWeb3 Financeやトークンエコノミーが5年先、10年先のビジネスをどう変えているのかをイメージし、ありたい未来からバックキャストして今すべきことを見定める「ビジョニング」を優先すべきだ。
その後に、ユースケースを探索する「ビジネスコンセプト」、次いで具体的な「ビジネスモデル」立案へと進んでいく。この段階では、想定しているエコシステム上のステーブルコインの流通範囲や決済量、あるいはスマートコントラクトを実装する上での条件、また意思決定権者を規定することなどが、重要な検討項目になるだろう。また、インセンティブについても、法定通貨に代替した手段として使う理由を、しっかり整理し定義しておく必要がある。そして、いよいよ構築されたモデルに沿って実装・運営していくことになる。
最後に、法定通貨による既存の取引がいまだ主流である中、「なぜブロックチェーンを使わなければいけないのか」「なぜステーブルコインに置き換える必要があるのか」といった声は多い。しかし、2030年を目途に、EUのCBDC(中央銀行デジタル通貨)が発行され、国際通貨システムの安定を確保するためにステーブルコインに置き換える動きがでてくるためだ。CBDCの検討については、日本も含め国・地域によって差はみられるものの、世界の動きは今後さらに加速する可能性がある。
Web3 Financeやトークンエコノミー、そしてBtoB決済DXの将来像を具体的に思い描いたときに、時流を見極め、ファーストムーバーとして参入するのか、それともマーケットが普及したあとに参入するなど選定すべきタイミングと施策を見定めて実行に移す必要があるべきと考える。
アビームコンサルティングは、決済やデジタルに関する知見と実績を元に、Web3 Financeに関する調査分析、構想策定、また事業ポートフォリオの最適化や新規事業の開発など、金融業界のアジェンダを実現する支援を通じ、金融業界のビジネスモデル変革の加速に貢献する。