【イベントレポート】経営層と社員が一丸となったカルチャー変革で事業ポートフォリオ変革を実現する

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2025.02.20
  • 人的資本経営
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市場が予測不能な変化を続ける中で、新たな成長の可能性を求めて事業ポートフォリオ変革に取り組む企業が増えている。しかしながら新たな事業領域や市場の開拓は、それを支える企業のカルチャー変革と社員のエンゲージメント醸成なくして実現できるものではない。

2024年12月に開催されたオンラインセミナー「日経ビジネスライブ2024 Winter」(主催:日経ビジネス、日本経済新聞社)では、日本電気(NEC)でCHROを務める堀川大介氏をゲストに招き、アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル 人的資本経営戦略ユニット長の久保田勇輝が「事業ポートフォリオ変革を実現するカルチャー変革」をテーマに講演した。本記事では、その内容をダイジェストでご紹介したい。

※講演動画は本ページ下部にあります

日本企業の間で急速に関心が高まるカルチャー変革

セッションの冒頭では、アビームコンサルティングの久保田はまず、当社が提供する人的資本経営コンサルティングにおける基本的スタンスについて、「人事コンサルティングの枠を超えた、『事業×人コンサルティング』のご支援を提供しています」と紹介した。

一般的な「人事コンサルティング」では、人材のケイパビリティやテクノロジー活用にフォーカスしたアプローチが多いのに対し、アビームコンサルティングでは、その前提となる顧客企業の事業や戦略にまで深く関与して支援していく点に大きな特徴がある。その観点から久保田は、カルチャー変革に対する企業の関心が近年で急速に高まっていると指摘する。

「実際に、カルチャー変革に関心を持つ企業は年々増加しているという調査データも出ており、日本企業が事業ポートフォリオを変革していくには、それを実効的に下支えする組織や社員が一体となって取り組まなくては実現できないことを、経営陣が強く認識していることを示しています」(久保田)

アビームコンサルティングが提唱するカルチャー変革のための「4つのステップ」

実際にカルチャー変革を推進するには、具体的にどのように取り組むべきだろうか。久保田は「単にスローガンを掲げるだけでは、カルチャーは変わりません」と指摘し、アビームコンサルティングが提唱する「カルチャー変革を実現するための4つのステップ」を紹介した。

① 目指すカルチャーの高解像度化
変革に取りかかる前に、「どういったカルチャーを目指していくのか」「そのためにどのような変革を進めるのか」を言語化、明文化して全体に浸透させておく必要がある。これが曖昧なままでは、経営陣はもちろん、社員も進むべき方向性が定まらず変革に至らない。

② 現状のギャップ把握と原因改善のモニタリングの仕組みを整備
「目指すべきカルチャー」と現状との間にどのようなギャップがあり、その原因は何かを特定にする。その上で、継続的に改善していくためのサイクリックな仕組みを整備する。

③ 経営層の自分事・一枚岩化
上記のような仕組みづくり(ハード面の整備)の一方で、意識の変革や考え方の浸透(ソフト面の深耕)も欠かせない。その際、経営層の主体性づくりと意思統一が重要なポイントとなる。どんな良いスローガンも、経営層が一枚岩となって発信しなければ、社員の気持ちを高めることはできない。

④ 階層順のアクセプタンス向上
アクセプタンスとは、「受容」や「容認」を意味しており、ここでは変革に関する考え方や意見に共感し、受け入れることを指している。重要なのは、「面的トップダウン」となる。

④について、久保田はこう補足する。

「企業には、経営層、マネジメント層、スタッフ層と、いくつもの階層が存在しますが、各階層間の発信・伝達をランダムに行っていては、変革への意思が組織内に浸透していきません。いかに経営層が一枚岩になってマネジメント層に伝え、それをまた各現場に面的に展開していくのかが問われます。それを可能にするのがハード面・ソフト面の整備です」(久保田)

企業で変革に取り組もうとするとき、人事施策や事業戦略、経営戦略といったハード面の整備に意識が集中しがちだ。もちろん変革を進めるためには必要だが、それを活用し変革を前に進めるのは社員であり、その温度が上がらなければうまくいかない。久保田は「一人一人のモチベーションを上げるには、アクセプタンスの向上が欠かせない」とする。

図:カルチャー変革を実現するために必要な4つのステップ

愛三工業に見る事業ポートフォリオの転換による変革事例

続いて久保田は、アビームコンサルティングによるカルチャー変革の取り組み支援の実績から、大きな成果を挙げている企業の事例を紹介した。

愛三工業株式会社は、愛知県に本社を置く自動車部品メーカーであり、愛三グループとして国内外に30社の関係会社を展開している。同社はトヨタ自動車株式会社の関連企業として、主にトヨタ向けのパワートレイン製品(燃料ポンプなどのエンジン部品)を提供。中でも燃料ポンプ事業は世界シェアの4割を占めているが、世界的なEVシフトの潮流に対応するべく、電動化システム製品やクリーンエネルギー活用などの新規事業開発に取り組み、事業ポートフォリオ変革に乗り出している。

「そこで新規事業を進めるのに先立って、社員のエンゲージメント調査を実施した結果、かなり意識が低いことが判明しました。社員の間に『諦め』や『ぶら下がり』の空気が濃く、こうしたソフト面の課題を克服しなければ、いくらハード面を整備しても成果が出ないことは明らかでした」(久保田)

そこで同社では、ソフト面の整備・充実に向けて、複数の施策を実行。その1つが、経営層と社員のコミュニケーションを深める「愛三カタリバ」という取り組みだ。これは「経営層が本気で社員の本音に耳を傾け対話する場」と位置づけられ、現場の社員の間にある「どうせ会社は変わらない」という諦めの空気を、「みんなで会社を変えていける」という前向きな期待に変える狙いがあった。

「例えば、動画で経営陣のメッセージを伝えるといった一方的な発信だけでなく、経営陣全員が社員の声を『聴く』ためのトレーニングを受講する。その上で、社員の本音を引き出す『コラージュトーク』といった新しい手法を取り入れるなど、社長を含めた経営陣が本気で社員の声に耳を傾け、対話する意志を持ったことが、改革の推進力となりました」(久保田)


ソフト面で企業の土壌を整備することが新しいカルチャーを生み出し、それが事業ポートフォリオの変革に寄与する。こうした図式が明確に実証されたアビームコンサルティング支援事例として、久保田は愛三工業のカルチャー変革のプロセスを紹介した。

※同社のカルチャー変革のさらに詳しい内容は、下記リンクをご参照ください。
https://www.abeam.com/jp/ja/case_study/scs035/

(経営層の本気を伝え社員の声に耳を傾けるためのさまざまな施策を展開)

競争激化の危機感をバネに取り組み、起死回生を実現したNEC

セッションの後半では、日本電気株式会社(以下、NEC)執行役 Corporate EVP 兼 CHRO 兼 ピープル&カルチャー部門長の堀川大介氏が、同社における事業ポートフォリオ変革の取り組みについて発表した。NECでは、2000年代に入ってグローバルにおける競争が激化し、それまでのPCや半導体といったプロダクトにおける影響力が限定的となった。堀川氏は、それまでのプロダクト型事業からソリューション型事業へとシフトし、全社的な事業ポートフォリオ変革に取り組むことになった背景を説明する。

「2012年頃に、当時の経営陣が合宿までして議論を尽くし、ビジネスモデルの大転換に向けてNECの存在意義を見つめ直した結果、当社が創造していくべき新たな価値が見えてきました。また2018年に行った『実行力の改革』は、現在のNECの人的資本経営の出発点となっています」(堀川氏)

エンゲージメントスコアを取り始めたこの2018年時点では、なんと19%という日本企業の平均よりもかなり低い数値に経営陣はがくぜんとしたという。その反省を踏まえてさまざまな施策を展開し、6年経った2024年時点で営業損益は3倍。さらにエンゲージメントスコアは2倍以上に到達、これらに対する外部からの評価の証として株価も3倍に上昇したという。堀川氏は、「社員の力を最大限に引き出す様々な取り組みを愚直に重ねてきた結果、実行力を着実に強化することができ、こうした成果につながった」と振り返る。

久保田は今回のセッションのまとめとして、愛三工業やNECの事例から見えてくるのは、それぞれ個別に抱えていた危機感をきっかけに、自社のカルチャー変革に取り組んだ事例と評価し、最近では同様の事例が次々に生み出されていると紹介した。

久保田は「こうしたカルチャー変革を通じて事業ポートフォリオを見直し、エクセレントカンパニーへと成長する取り組みは、多くの日本企業がチャレンジすべき重要課題の1つ」とし、その先陣を切ったNECについて「日本を代表する企業として、この先もさまざまな取り組みとその成果を、多くの日本企業に共有いただけることを期待します」と堀川氏にエールを送り、今回のセッションを締めくくった。


本講演の動画も併せてご覧いただきたい。


専門コンサルタント

  • 久保田 勇輝

    Principal 人的資本経営戦略ユニット長

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