新規事業創出に関する新たなトレンド – 「n:n」の共創
近年、外部環境の変化を受け、多くの事業会社が、スタートアップとの連携による新規事業創出(いわゆる「共創」)に取り組んでいます。その中でも、自社と他社での1:1のみの組み合わせではなく、複数の事業会社やスタートアップとタッグを組み、積極的に異業種に参入する動き(「n:n」の「共創」)が増えています。特に2020年以降は、コロナ禍の影響もあり、ビジネスモデルの見直しをより一層進める事業会社が増加しており、複数会社とのパートナーシップを活用した異業種参入の動きは、今後さらに加速していくと予想されます。また、アクセラレーターと呼ばれる新規事業や共創をサポートするプログラムやコンサルティングサービスなど、この動きをサポートする体制も一層多様化しています。
図1 新規事業創出のトレンド
事業会社の新規事業検討プロセスとつまずきポイント
事業会社の新規事業検討プロセスには様々なパターンがあり、一例として、「①アイディアの”種”発掘」「②ビジネス案作成」「③検証とブラッシュアップ(PoC実施など)」「④事業化」「⑤収益化」の5つのプロセスが考えられます。
図2 事業会社の新規事業検討プロセス(例)
事業会社の新規事業検討の失敗例として、「①アイディアの”種”発掘」から「③検証とブラッシュアップ」に一足飛びに進んでしまい、PoCが上手くいかないケースが挙げられます。「②ビジネス案作成」の検討が十分に行われないと、「何を検証すべきか」の認識が事業会社とスタートアップの間でずれてしまい、PoCのゴール設定が甘くなり、単にスタートアップの技術やソリューションを試すだけで終わってしまう、といったことが起こりかねません。事業化まで確実に進めていくためにも、「①アイディアの”種”発掘」と「②ビジネス案作成」を通じて、事業会社とスタートアップが「目指すべき姿」の認識を合わせることは非常に重要と考えられます。しかしながら、「①アイディアの”種”発掘」や「②ビジネス案作成」の段階で、スタートアップとのディスカッションを上手く軌道に乗せられず、つまずいてしまう事業会社も多いのが現状です。
事業会社が「①アイディアの”種”発掘」~「②ビジネス案作成」で直面する課題
様々なスタートアップとの出会いは、事業会社が新規事業のアイディアを考える際の入口の一つとして、重要な機会です。しかしながら、出会いの多さに対し、事業会社がスタートアップと共にビジネス案の検討を上手く進められているケースは、現状限られていると言えます。実際、事業会社の新規事業担当者からは、次のような声が挙がっています。
・スタートアップの技術やサービスが自社の事業にマッチしない
・新しいビジネスアイディアを判断できる人材が少ない
・技術やサービスの活用方法がわからない
・多くのスタートアップと出会う機会はあるが、社内で共感を得られず、その先に進まない
一方、スタートアップ側からも、次のような意見が挙がっています。
・事業会社と出会っても具体的な協業検討が進まない
・自社の技術が事業会社のビジネスに上手く適合できない
・事業会社と検討のスピード感に差があり、その間に運営資金がショートしてしまいかねない
上記の課題を乗り越え、事業会社が、スタートアップとの出会いを活かして新規事業検討を進めるためには、どのようなことが必要なのでしょうか。
事業会社が課題を乗り越えるための解決策
事業会社がスタートアップから協業の提案を受けた際、短期的な視点でその提案の良し悪しだけを軸に評価し、協議の継続を判断しているケースが多く見られます。しかし、多くのスタートアップにとって、大規模で複雑な事業会社のビジネスを深く理解することは難しく、特に初回の提案では、事業会社の課題やニーズに十分に訴求できない可能性があります。事業会社も受け身ではなく、積極的に自社について情報提供を行い、スタートアップと共に何ができるかを考えることで、議論を前に進め、共創の実現に着実に近づくことができると考えられます。
一方で、事業会社側に「自ら考える」意思があっても、考え方が分からず、アイディアを出せないということもあります。考え方のヒントとして、最近のトレンドとなっている「未来のニーズや世界観を想像する」思考が挙げられます。世の中の変化のスピードは増しており、日々アンテナを高く張り、「世の中が将来(10年程度)*1こう変わるだろう」という予測の元にビジネスをデザインすることで、より自由な発想で独自性のあるサービスを生み出せる可能性が高まると考えられます。
(*1 事業内容などにより適切な時期は異なるものの、10年が一つの目安となる)
また、事業会社とスタートアップの1:1だけの関係では、事業領域や活用可能なリソースなどが限られ、事業の拡大も限界があります。その場合、他の事業会社とコラボレーションし、「n:n」の枠組みの中でアイディアを練ることも選択肢になり得ます。複数企業の強みを共存させ、またリソースを融通し合うことで、より広がりと深みのあるサービスを生み出せる可能性があります。さらに、昨今はコンサルティングファームなどによる「共創」支援が拡大しており、こうした社外リソースの活用が検討の推進力を上げる一つの方法となります。
図3 事業会社が課題を乗り越えるための解決策
スタートアップとの「共創」実現に向けて
金融ビジネスユニット
NewTechアドバイザー (新規事業開発/共創担当)
吉田 知広