大学の大統廃合時代における
真の経営統合メリットを享受するには

 

松田 智幸
公共ビジネスユニット
執行役員 プリンシパル

西 美幸
公共ビジネスユニット
シニアマネージャー

はじめに

本格的な少子高齢化社会に突入し、就学人口の減少を受けて、全国の大学が自らの生き残りをかけてあらゆる経営手段や方法を模索している。
このような状況を見越し、政府でも大学の経営統合を後押しするため、一つの国公立大学法人が複数の大学を運営する「アンブレラ方式」の制度化等、法整備を進めている。国立では名古屋大学・岐阜大学等の旧帝国大学等の歴史ある大学の統合が進み、私立でも慶應義塾大学と東京医科歯科大学の経営統合等、経営やブランド強化のための大型の大学統合が誕生している。
このように、日本の大学では、あらゆる形態の経営統合が進んでいるものの、効果的な経営統合・組織作りをして、その効果を十分に享受できている組織はまだ少ない。
本インサイトでは、超少子高齢化時代において大学が存続する有効な手段の一つである経営統合について、大学が経営統合によってどのような価値を見出していくべきか、またその価値をどのようにしたら享受することができるのか、その方策を考察する。

加速する大学の経営統合

2018年度の「文部科学白書」では、2009年頃から10年間程は120万人前後で安定していた18歳人口が2018年頃から減少に転じ、2040 年には90万人を割り込むと推計されている。一方、日本国内には国公私立大学を含め約800弱の大学が存在し(2020年時点)、その数は増え続けている。その結果、就学人口と大学数のアンバランスは一層顕著となり、文部科学省が発表した「私立学校の経営状況について(概要)」によると、既に私立大学の1/3以上が定員割れの状況となっている。
政府もこのような状況を手をこまねいて見ているわけではない。「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(2018年11月26日中央教育審議会)によると、政府は、2040年を見据えた教育研究体制の構築のためには、大学等の人的・物的リソースを効果的に共有するとともに、教育研究機能の強化を図ることが必要であると説く。そのうえで、具体的な方策として、大学等の連携・統合の促進に向けた3つの方法を提示している。

① 国立大学の一法人複数大学制の導入(通称「アンブレラ方式」の導入)
② 私立大学の連携・統合(学校法人の統合、学部単位等での事業譲渡等)
③ 国公私立の枠組みを越えた連携の仕組みの導入(大学等連携推進法人の設立等)

「アンブレラ方式」については、既に先行する大学がこの方式での法人統合に着手している。2020年4月に誕生した東海国立大学機構(名古屋大学、岐阜大学)を筆頭に、2022年には北海道国立大学機構(小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学)、2023年には国立大学法人奈良(奈良教育大学、奈良女子大学)が誕生する。
また、私立大学の統合については、国内有数の私立大学である慶應義塾大学と東京医科歯科大学が合併に向けた協議を開始することが2020年11月に報じられた。
大学等連携推進法人についても、四国の5つの国立大学(愛媛大学、香川大学、高知大学、徳島大学、鳴門教育大学)が経営資源の一部共有を含む連携の強化を目的に、「一般社団法人四国地域大学ネットワーク機構」を設立し、大学等連携推進法人として2021年度中に文部科学省から認可を受けることを目指している。

経営統合の生み出す価値、期待効果

このように、法整備の後押しもあり、全国の大学で様々な形態の経営統合が加速している。その一方で、真にその効果を享受できている大学が多いとは言い難い。
では、大学における経営統合の期待効果とは一体何か。それは、「経営の高度化」と「業務の効率化」である。
「経営の高度化」とは、財源の多様化や高度な人材の輩出等を指す。国立大学の運営費交付金の削減や私立大学の入学者減少に伴う学納金の縮減傾向等が続く中、政府も、外部資金獲得強化等による収支改善を意図した“経営”という言葉を使い、大学の“経営”へのシフトを後押ししている。この“経営”に舵を切るために、「学問分野の融合」や「地域の特色を活かした教育研究活動の推進」等によって、財源の多様化や高度な人材の輩出等の効果が期待されている。
また、「業務の効率化」は、企画・評価、財務、人事、総務等の経営管理部門を共通化・合理化することで、経営コストを削減することを指す。民間企業では、シェアードサービス等が既に浸透しているが、大学においても同様の考え方に基づき、間接部門の「サービス」を同一法人内で「シェア(共有)」することで、コスト削減や業務効率化、品質向上等が期待されている。

「経営の高度化」と「業務の効率化」を実現する方策

ここまで述べたように、本来、大学の経営統合では、「経営の高度化」と「業務の効率化」のメリットを享受することを目的としている。その一方、昨今の大学統合は、「統合」という冠の下、新たな組織の形を整える範囲に留まり、抜本的な経費削減や大幅な収入拡大等に繋がっている事例は多くない。
では、一体どのようなことに取り組めば、「経営の高度化」と「業務の効率化」のメリットを享受することができるのか。大学の経営統合のメリットを最大限に享受するためには、以下の取組みが必要となる。

① ビジョンづくりとステークホルダーとの合意形成
② 経営統合後のガバナンス方針の策定
③ 業務プロセスの見直し
④ 情報システムの統廃合
⑤ 人員の再配置
⑥ 規程等の各種ルールの再整備


図1 経営統合による効果を最大化するための取組み

図1 経営統合による効果を最大化するための取組み

① ビジョンづくりとステークホルダーとの合意形成
経営統合は、複数年にわたって様々な取組みを継続し、その効果の享受を目指すべきものである。しかし、取組みの期間が長くなればなるほど、“経営統合”と称した組織の見直し等の施策自体が目的化してしまい、経営統合の目的が置き去りにされてしまうことが少なくない(目的と手段の逆転)。
そのため、経営統合の取組みを開始する段階で、経営統合によって何を達成するのかを示すビジョンづくりが欠かせない。ビジョンとは、「将来の目指す姿」である。経営統合によって、どのような大学を目指すのか。関係者が理解しやすく、達成目標が明確なビジョンが望ましい。このビジョンを経営統合に向けた取組みの期間中、関係者間で目的に立ち返る原点として、随時、活用する。

また、経営統合を推進するためには、経営統合に向けたビジョン作成後のステークホルダーとの合意形成も欠かせない。大学の経営統合自体は、大学や法人の幹部内等の限られた関係者内で決定されるが、大学には数多くのステークホルダーが存在する。日々の大学の業務を支えているのは、大学の教職員である。また、大学は、地域における知の拠点であり、地域の重要なインフラでもある。そして、最も重要な構成員として、学生や教員(研究者)が存在する。学生は、大学の理念を入学の重要な判断材料とし、教員や研究者はその環境でどれだけの教育研究の成果を上げることができるかに着目している。円滑な経営統合を実現するには、これらのステークホルダーを含めた合意形成や意識改革が必須である。

ビジョンが不明確なまま、形だけの経営統合を推進しても、ステークホルダーの理解は得られない。また、ビジョンを作成し、一過性で発信をするだけでは、ステークホルダーの十分な合意形成は難しい。何を実現するために、何に取組み、どのように推進するのか。これらがセットになった経営統合のビジョンを、経営統合を推進する期間中・経営統合後と、継続的に発信していくことで、関係者の理解や合意形成が進み、改革の意識が醸成される。

② 経営統合後のガバナンス方針の策定
経営統合を進めるには、組織編成・予算・人事等の権限の所在を明確にすることが必要となる。経営統合の推進をどの組織が担うのか、経営統合のための投資判断は誰が行うのか、こういった様々な判断を誰が担うのか。これらが不明確な場合、必要な意思決定が遅延し、経営統合という大規模な改革の推進は困難となる。
なお、経営統合のための準備の際、多くの場合は、新法人設立準備室の設置や幹事大学を決め、これらが主導する。新法人設立準備室等では、施策の検討は行うものの、最終的な決定権を持つことは少ない。これらの組織の検討結果をどの組織で決定するのか、最終的な意思決定機関を明確にしておくことが肝要である。
また、後続の業務プロセスの見直し等を効果的・効率的に実施するためには、経営統合後のガバナンス方針(権限の所在)も明確にしておく必要がある。企画・評価・予算編成等、新たな法人に策定権を持たせるのか、各大学に権限を残すのかで業務プロセスや組織の在り方は大きく異なる。このため、経営統合のビジョン策定後、個々の施策に取り組むにあたっては、経営統合後のガバナンス方針を優先して定めることが必要となる。

③ 業務プロセスの見直し
業務プロセスの見直しにあたっては、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の手法を用いることが一般的である。民間企業や組織におけるBPRは、「統合」「廃止」「汎用化」「標準化」「集約化」「自動化」等の視点で業務を再構築していくが、大学の経営統合においては、この中でも「廃止」と「標準化」が特に重要なポイントとなる。
BPRの手法を活用する際、業務の「廃止」は業務の効率化に直結するため、ぜひ積極的に検討したい。例えば、複数の大学が経営統合をする場合、現状分析において、統合対象となる大学の業務を横並びで比較することになる。この段階で、一方の大学が実施していて、もう一方の大学が実施をしていない業務は、「廃止」の有力な候補となる。既存業務を廃止することは、現場の教職員の抵抗が大きいが、経営統合を機に他大学と自大学の業務をベンチマークすることで、廃止の明確な理由(根拠)を得ることができる。このため、経営統合を業務廃止の好機と捉え、見直しを検討することが望ましい。
また、経営管理部門の共通化・合理化を促進し、業務の効率化を実現するためには、業務の「標準化」も重要なポイントとなる。各大学の業務を共通化し、法人等に集約するためには、各大学の業務手順が同一である(=標準化されている)ことが必要となる。業務が標準化されていない状態で組織だけを統合しても、業務の集約効果・効率化効果を得ることはできない。

④ 情報システムの統廃合
民間企業等では、デジタル化が競争の源泉である昨今、情報システムへの投資の割合が高まっている。大学も例外ではない。講義やレポート等は情報システムでの管理が主流であり、大学経営に関わる会計・人事等の業務の大部分も情報システムが支えている。大学における情報システムへの投資も経営の大きな部分を占めるようになっている。
このため、経営統合を機に情報システムにもメスを入れることで経営統合の効果を一層高めることができる。財務会計システムや人事給与システム、文書管理システム等の情報システムは、大学によって取り扱う情報の差異が比較的少ないため、システムの統廃合によるコストメリットを享受しやすい。

昨今では、「クラウドファースト」の考え方に則り、情報システムを自組織で運用・管理するという発想を捨てる大学も増えている。自前主義を脱却し、利用料だけを払い、既存の「サービス」を徹底的に活用することで、情報システムの整備・運用にかかる物的・人的コストを大幅に削減する事例も増えている。また、既存のサービスに自大学の業務を合わせることは、大学の独自業務の廃止にも繋がり、結果的に業務の標準化・効率化が進むという副次的効果も得ることができる。


図2 経営統合後の情報システムの整備イメージ

図2 経営統合後の情報システムの整備イメージ

⑤ 人員の再配置
新たな組織を作ろうとすると、組織とともに、その組織に紐づく人員をどう配置するかが大きな課題となる。経営統合の効果を最大限享受するためには、限られた人員を新たな組織に効果的に配置することが求められる。人員配置を検討するにあたっては、前段で述べた「業務プロセスの見直し」や「情報システムの統廃合」によって削減される業務量を十分に加味する必要がある。統合前の各大学の人員数をそのまま新組織に再配置するのではなく、業務量の削減を見込んだ人員を配置する。「業務」「情報システム」「人員」の効率化が一体で行われることで、政府が唱える「人的・物的リソースを効果的に共有する」状態がはじめて実現される。

また、人員を配置するにあたっては、「人材マネジメント」のあり方を検討することで、人員のスリム化と組織の強化を両立することが可能になる。「人材マネジメント」とは、どういった能力を持つ人材をどのように確保・配置するかの視点である。大学の事務機能を強化するための人員のあり方をセットにして検討することで、大学としての競争力の維持・強化と業務の効率化を両立することができる。


図3 経営統合後の人員配置の考え方

図3 経営統合後の人員配置の考え方

⑥ 規程等の各種ルールの再整備
大学における規程等は、大学運営の原理原則と位置づけられ、組織運営の重要な指標・ルールである。経営統合にあたっては、規程をはじめとした各種ルールの再整備も必須となる。前段で業務プロセスの見直しを実施し、業務の「廃止」や「標準化」を進めることで、規程類の統一も比較的容易に進めることができる。業務プロセスや情報システムの統廃合をせず、規程類の整備から着手をすると、既存ルールが業務や情報システムの改革を阻害する要因となりかねない。このため、必ず業務プロセスの見直しや情報システムの統廃合の検討を十分に進めた後に、あるべき姿に合わせてルール整備をしていくことが、経営統合の効果の最大化に繋がる。

■アビームコンサルティング 公共ビジネスユニットの取組み
ここまで見てきたように、大学の経営統合は活況を呈しているものの、その効果を最大限に享受するためには、一つひとつの取組みに真摯に向き合い、確実に実行していくことが求められる。
当社の公共ビジネスユニットでは、大学等の文教分野をはじめ、行政・科学・医療分野の公的組織等を対象に、業務改革・組織改革・システム改革等の総合経営コンサルティングを行っている。大学の経営統合についても、業務標準化・新組織設計・情報システムの最適化支援等、幅広い支援の実績を有しており、今後も国公私立を問わず、大学の存続・成長のため、リアルパートナーとして力強い支援をしていく。

 

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