医療・ドラッグ業界を激変するオンライン医療改革と
推進すべき DX・ラストワンマイル戦略とは

【連載 第2回】ドラッグ業界が取るべきDXのポイントとは
(DRUG magazine)

2022年11月7日

 前号では、政府によるオンライン医療改革とそれによって起こり得るバリューチェーン上の変化を述べた。このような環境下において、調剤・ドラッグ業界では今後どのようなサービスが求められるかについて解説する。

ドラッグ業界に必要な 3つの重要成功要因

 現在、国内で調剤サービスを提供する薬局・ドラッグストア(DgS)は約6万軒ある。大きく分類すると、病院のすぐ近くにある門前薬局と調剤併設型のDgS に分かれ、面分業が進んでいる。しかし、2021年8月から認定薬局制度が開始されたことで、薬局としての在り方を見直す事業者も多いだろう。
 例えば、「地域連携薬局と専門医療機関連携薬局の役割をどのように定義するのか」「地域との連携をどのように行うのか」などの課題が挙げられる。
 また、薬剤師からの情報提供・指導は形式的なものにとどまっており、薬局は薬を受け取るだけの場所となり、価値が見えにくいとの指摘も挙げられる。加えて、オンライン医療改革によって、患者は今まで以上に自分に合った薬局や調剤を求めることが予想され、そうしたニーズにいち早く対応していくことも求められている。
 このような背景の中で、ドラッグ業界は、3つの重要成功要因フレームワーク(以下 QVD)に合わせて、施策を講じていく必要があると考えている(図表①)。
 

図表① 3つの重要成功要因フレームワーク(QVD)

図表① 3つの重要成功要因フレームワーク(QVD)

 QVD とは、調剤品質(Quality)、付加価値(Value)、ラストワンマイル(Delivery)を指す。
 調剤品質(Q)とは、薬剤師がどれくらい患者を理解し、どれくらい満足度を上げられるかを示した指標である。患者や薬剤師が、時間や場所にとらわれず欲しい情報に瞬時にアクセスでき、薬が欲しい人に適切な形で処方できることを指す。例えば、オンライン診療システムの活用で、さまざまな診療データを蓄積し、データで得られる示唆をもとに、調剤することによって品質を向上できると考えられている。
 付加価値(V)とは、地域に根差した調剤サービスの提供や専門医療の提供等に加えて、患者が付加価値を感じてもらえる仕掛け作りをすることである。例えば、日用品や生鮮食品とのセット売り等をすることで利便性を向上したり、AI/IoT の活用により薬の飲み忘れや飲み過ぎの防止を促したりすることで、向上させることができる。
 最後に、ラストワンマイル(D)とは、オンライン服薬指導を受けた後に、患者がストレスなく、服薬タイミングに合わせて迅速に入手できることである。また、安全に配送できるよう、配送中の温度・湿度管理や品質保全などにも、細心の注意を払うことが重要である。

QVD を兼ね備えたDX が普及 海外のオンライン診療市場

 実際にQVD によって成功している事例を紹介する。
 1つ目は、中国の東軟熙康(XIKANG)が、湖北省宜昌市で、オンライン専用の「雲医院(クラウド病院)」を設立した事例である。デジタル保険証を使用し、オンラインで診療を行った後、デジタル処方箋を薬局に送付し、薬局が家まで配送するか、患者が好きな薬局で受け取るかを選ぶことができるサービスを展開している。
 また、クラウドプラットフォームを通じて、地域医療センター、ローカル衛生サービス機関などの医療保険サービスを人々に届け、家庭での動的な健康管理と住民健康アーカイブシステムとのシームレスなリンクを実現し、高い質の医療資源を現場、家庭、そして個人にまで浸透させている。
 2つ目は、中国の大手保険会社平安保険(PING AN)が、「平安好医生(Ping An Good Doctor)」というオンラインとオフラインを統合した総合健康プラットフォームサービスを開始した事例である。社内に常勤する医療チームや独自のAI をベースとしたシステムを活用し、24時間体制でオンライン診療、処方、医療機関の紹介・予約、セカンドオピニオン、医薬品宅配、保健器具の宅配、健康情報のライブ配信などの総合的なサービスを提供している。
 3つ目は、米国Amazon が、「amazon pharmacy」というオンライン薬局サービスを開始した事例である。オンラインでの処方箋、医薬品の注文から、購入、処方箋の管理、各種保険の登録などが可能となっており、18歳以上のAmazon会員であれば誰でも利用できる。薬剤師による24時間年中無休の電話相談、処方薬を飲むタイミングに合わせた個別配送、慢性疾患患者向け薬剤の定期的な自動配送、音声認識AI「アレクサ」を活用した服薬リマインダー設定や補充用医薬品注文など、オプションサービスも提供している。
 また、22年7月にはプライマリ・ケアサービスを提供するOne Medical 社の買収を発表し、オンライン診療にも事業拡大することが想定されている。さらに、23年には日本市場へ参入すると言われている。
 国内においては、QVD 全てを実現している事業者は現時点では少数であるものの、各事業者が順次取り組みを行っている。
 アクシス(東京)が20年8月に自社のクラウド型電子薬歴システム「MEDIXS」に新機能「Medixs投薬フォロー」を追加した。これにより、ショートメッセージ(SMS)やEメール、LINE を通じて、患者を専用サイトに誘導し、患者が専用サイト内の質問事項に回答して返信することで、服薬指導のフォローアップによる質の高い服薬指導を提供することが可能になった*1
 また、ファミリーマートと凸版印刷の100%子会社である、おかぴファーマシーシステム(東京)は、ファミリーマートの店舗にて処方薬を送料・手数料無料で、最短翌日に受け取ることができるサービス「ファミマシー」を22年5月より東京都内約2400店舗で開始した*2
 このように、QVD の3つのポイントを押さえたDX は今後必須になってくる。

  • *1 Axis「Axis ホームページ」(20年8月)
    *2 Family Mart 「Family Mart ホームページ」(22年5月)

 次号では、QVD の中で特に競争力強化のポイントとなり得る「ラストワンマイル(D)戦略」を強化するための施策として、中央薬局構想について紹介していく。

 

永澤 英之

アビームコンサルティング
コンシューマービジネスユニット Manager

永澤 英之(ながさわ・ひでゆき)

金融、通信キャリアの事業企画部門を経て、2016年アビームコンサルティングに入社。小売業を中心に、戦略・構想策定から業務改革、システム導入まで幅広いプロジェクトに参画。近年は、EC チャネルのラストワンマイルを改革するMFC(マイクロ・フルフィルメント・センター)構築サービスの責任者を兼務。

並河 隆行

アビームコンサルティング
素材・化学ビジネスユニット Senior Consultant

並河 隆行(なみかわ・たかゆき)

製造業を中心に、生産ラインIoT 化/ 製造KPI見える化による製造部門のDX 推進、経営管理部門の業務改革等のプロジェクトに参画。近年は、Sustainability Transformation 推進や、製造DX のグローバル展開、ヘルスケア業界のインサイト発信の取り組みにも従事。

 

  • ※株式会社ドラッグマガジン発行「DRUG magazine 2022年11月号掲載」

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