この改革の流れは、業界全体のバリューチェーン(図表③)においても大きな変化をもたらす。
以下、バリューチェーンの各工程で予測される変化について解説する。
① 製薬
まず最上流の「製薬」では、リアルワールドデータ※2の利活用促進が期待される。
現状、さまざまな課題に直面する医薬品メーカー。いまだ治療法が確立されない疾患に対する創薬ニーズが日々世界中から届く中、研究開発費は増額し続けながらも開発成功率は年々低下している。
また、メガ・ファーマの存在感はより強まり、グローバル競争も激しくなる一方で、国内市場は医療費高騰を背景とした薬価引き下げ政策等の影響により縮小傾向が続いている。
今回の変化は、これらの課題解消の機会となることが予測される。
具体的には、現場活用が主であった治療や服薬指導に関する患者データの収集と共有がより進化されるだろう。また未病段階や予後のデータ取得の期待も高まる。
そして、患者との直接接点を持つことが難しかった医薬品メーカーでも、これらの活用機会が増えることで、新薬開発時の治験効率化や承認プロセスの早期化など、多くの効果が期待される。
結果、将来的にはより多くの革新的な新薬開発、そのスピードの加速へとつながると考えている。
② 運搬
「運搬」では、医薬品の在庫最適配置に向けた動きが活発化すると予測している。
医療機関への医薬品配送を担う医薬卸や物流業者は、各種規制や業界固有の商習慣への対応に加え、相次ぐ自主回収による業務負担も重荷となっており、多くの企業は利益率の低下に苦しんでいる。
一方、流通時の品質保証を強化していくことが期待されている。各医薬品特性に応じた温度・湿度等の状態管理、偽薬混入防止やトレーサビリティの確保がその例である。
加えて、安定供給への貢献も重要かつ緊急性の高い課題である。一部メーカーの不正製造に始まった後発医薬品の供給不足において、在庫切れにより必要な薬が提供できない状態を解消すべく、代替品手配や必要在庫量の確保、廃棄ロス防止等への対策も必要になる。
そして、この点でも規制緩和による変化が期待される。
これまで事前に把握することが難しかった治療や、処方に伴う医薬品の提供実績や需給予測情報をタイムリーに把握することができれば、その情報を基に各地域における在庫状況の可視化と適正配置、さらには予測に基づく所要量確保といった安定供給に向けた取り組みも強化できると考えている。
③ 診療
「診療」は、現状では多くの課題を抱えている。
コロナ禍で顕在化した医療資源の枯渇の問題は、必要な時に必要な治療を受けることができる、従来の医療提供の在り方を過去のものとした。
「患者の搬送先が決まらない」「入院が必要な患者も病床不足により自宅待機を余儀なくされる」「治療に必要な医療機器の確保も十分にできない」事態が多発した。また地域間の医療格差も広がっている。
居住地により受診可能な医療サービス、治療機会の提供にも差が生じている。
加えて、各医療機関では診療控えによる収入減、感染防止のための設備投資コスト増などが重なり経営状態は悪化している。
また、医療従事者は、従来の人材不足や長時間労働の問題に加え、COVID-19の患者数に比例して増加する業務量や感染リスクへの対処に追われ、厳しい状態が続いている。
そして、今回の規制緩和によって、まず期待される変化は、オンライン診療の拡大による「リアル・デジタルを組み合わせた新たな医療提供方式の確立」である。デジタル化に伴い、現状オペレーションの改善機会も生まれるだろう。
さらには地域内の病院や診療所、薬局間の連携もオンライン化を機に、より一層シームレスな情報共有が推進されることも予測される。そして何より、「場所や時間の制約を受けずに多くの患者へ必要な医療を届けること」が実現できる。
④ 提供
医薬品の「提供」は、規制緩和を機に最も大きな変化が見込まれる領域と捉えている。
具体的には、異業種参入や業界再編、特定の地域に集中的に店舗を出店するドミナント戦略の加速により、店舗間の競争は一層激化している。
また、人々の外出控えやインバウンド需要消滅等の影響によって、対面での販売機会も減少している。
一方、ドラッグ業界の求められる役割はより大きくなっている。人々の健康意識の高まりを背景としたセルフメディケーション需要への対応、患者個々人の薬歴管理・服薬指導の強化、さらには地域内での病院間、病院・薬局間の連携強化による包括的サポートへの貢献である。
だからこそ、この変化を機会と捉えた次なる動きが期待されている。
例えば、診療から処方、服薬指導と薬の受け取りまでを一気通貫で、必要な時に必要な薬を確実に受け取れる。未病段階ではオンライン・店舗双方の薬剤師のサポートによって、自身の健康維持を目的とした商品提供やアドバイスを受けられる。
不調の際は、医療機関受診の推奨に加えて、OTC を含む医薬品の処方も選択肢とされ、自身の体調や薬歴にあった適切な薬を自宅で受け取ることが可能になる取り組みである。
このように、今後オンライン診療や服薬指導が一層普及することで、デジタルとリアルの融合による新たな顧客提供価値が生まれてくると考えている。そして最も患者と向き合う機会の多い薬局・ドラッグストア業界こそ、この顧客接点の変化へ迅速に対応し、DXによる付加価値の向上、そして販売から配送までのシームレスなサービス提供の実現が重要であると考える。