DX時代を生き抜くための効果的な人材育成とは
第3回 実践におけるIT人材育成の進め方

 

2021年11月29日

デジタルテクノロジービジネスユニット ITMSセクター
井上 覚
鈴木 大介 日高 基成 浦田 康弘

 

前回のインサイト「組織のゴールを見据えてスタートラインに立つ」では、組織に求めるIT人材像とスキルを定義し、現状把握により組織及び個人として足りていないスキルを明らかにしたうえで、育成計画を行っていく流れをお伝えしてきた。不足するスキルを強化するために、様々な研修を企画し、実施されているかと思うが、研修受講後にメンバーがすぐに力を発揮し、実務で活躍することは難しい。ご存じの方も多いだろうが、アメリカの国立訓練研究所による学習モデルにラーニングピラミッドというものがある。講義や読書などのインプット学習による学習定着率は30%程度であり、学習定着率を上げるにはアウトプット学習が必要とされている。もちろん、各社の研修の中にもアウトプット学習を組み込まれているかと思うが、実務で発生する様々なケースに対応することは難しく、すぐに実務で活用できるレベルには至らない。このため、最終的には、プロジェクト実務を通じてスキルを身に付けていくほかない。では、どのようにしてプロジェクト実務を通じてスキルを身に付ければ良いのか、今回は実践におけるIT人材育成の進め方とポイントについて解説していく。

実践におけるIT人材育成の進め方

プロジェクト実務の中で人材育成するには、目標を掲げて取り組み、実践の中で定期的にフォローアップし、実践終了後は振り返りを行い、次のプロジェクトに向けた対策を行うPDCAサイクルを回すこと、すなわち育成の仕組みづくりが必要だ。図1に示しているのは、アビームコンサルティングが考えるプロジェクトを通した人材育成の仕組みである。一見、簡単なことのように見えるが、どれだけの企業でその仕組みを構築できているだろうか。改めて自社の状況を振り返っていただき、仕組みとしてできている部分、できていない部分を再認識いただきたい。

図1 IT人材育成の仕組み

図1 IT人材育成の仕組み

Step1 個人目標の設定
プロジェクト実務における人材育成には、目標を掲げて取り組むためにも、まずは個人目標の設定が必要だ。前回のインサイトでもお伝えしてきたが、目標とするスキルは自社の求める人材像やスキル定義とのギャップから明らかにしていく。ただし、全てのスキルをプロジェクトで伸ばしていくのは難しいため、アサインされたプロジェクトの特性を鑑みてスキルを選定する。
ここでお伝えしたいポイントは、目標と併せてアクションプランも検討することだ。なぜアクションプランが重要なのか。人材育成は漠然となることが多く、具体的な目標値、目標達成に向けた具体的なアクションを決めなければ、日々の作業に忙殺され、実務を通して何を得たいのかを見失ってしまう。そのためにも、目標値、アクションプランを検討することが求められる。目標値は、習熟度合いをレベルという形で定義しておくことでプロジェクトの中で目指す目標値が具体化される。ご参考までにスキルレベルの例を下図2にご紹介する。例えば、あるスキルについて現時点ではL1の状態であるが、アサインされたプロジェクトを通して、L2まで引き上げるといった形で具体的に目標を設定していくことが効果的だ。
 

図2 スキルレベル定義

図2 スキルレベル定義

アクションプランについては、スキルレベルに応じて内容を検討することが求められる。例えばL0の「知識、経験なし」のスキルであれば、まずは知識不足を補うためのトレーニングが必要になるため、アクションプランとしては、具体的なトレーニング受講計画を立てる必要がある。一方L3であれば、ある程度独り立ちしたポジションでの経験が必要となるため、リーダーなどのポジションでプロジェクト推進することをアクションプランに盛り込む必要がある。このようにスキルレベルに応じて、不足する部分を補うためのアクションを決めることで、より具体的な育成計画になるだろう。

Step2 個人目標の確認
上司やプロジェクト上位者は個人の立てた目標を客観的な視点で評価し、より実現性を持ったアクションプランにしていく必要がある。個人の目標は高ければ高いほど良いというものではなく、達成不可能な目標にしていては意味がない。目標値が無理な設定値になっていないか客観的な視点で判断して、目標値を補正する必要がある。
上司、プロジェクト上位者の視点でより実現性をもったアクションプランとするには、例えば、設定した目標レベルに応じてプロジェクトでのポジションを準備する必要がでてくるだろう。ある程度経験のあるメンバーにはストレッチを考慮して、リーダーやマネジメントの役割を与え、実践での力を養ってもらいたい。このようなプロジェクトの体制に関しては、目標設定者ではできないことが多いため、アクションプランの実現性を上げるためのサポートをしっかりと入れる必要がある。
このように、体制構築において上司、プロジェクト上位者は、個人スキルを見極め、育成とプロジェクト成功のバランスを取った要員配置が求められる。自分達で推進することを基本方針としつつも、自社リソースだけで内製化するには、プロジェクトの遂行リスクも出てくる。専門知識を持つコンサルティングファームも併用して「プロジェクトの成功+人材の育成」を達成することが重要だ。

Step3 実践の中でのフォローアップ
個人目標の確認が済んだら、目標としたスキルレベルを目指しプロジェクト実務を開始する。しかし、プロジェクトを進めるうえでは日々課題が発生し、今のスキルレベルではできないことや、つまずくことが多く発生するのが実態だ。育成においては、このような問題を適時、適切にフォローアップすることで学びの機会が増え、成長が加速していく。具体的なフォローアップの手段としては、例えば日次、週次などの短サイクルで定期的に時間を確保したフィードバックをお勧めしたい。フィードバックというと半期に1度まとめて実施することが多いが、育成という観点においてそのタイミングでのフィードバックは効果的と言えるだろうか。特にプロジェクトが始まると、業務が多忙になり、理解しないまま進んでいくことは、多くの方も経験があるだろう。機会を失わないためにも、短サイクルで定期的に時間を確保したフィードバックの仕組みを構築することが重要だ。
ただし、短サイクルのフィードバックはフィードバックする側の負荷も考えなければならない。高頻度でのフィードバックはそれだけに時間を割くことになりかねない。全員同じ粒度で実施するのではなく、例えば経験の浅いメンバーにはより短いサイクル、経験値の高いメンバーには一定スパンでの実施など、育成担当者のスキルに応じたフィードバックの仕組みを構築し、育成担当者に合わせた成長の気付きを与えていきたい。

Step4 実践終了後の振り返り
最後にプロジェクトを通した育成実績の振り返りを行う。プロジェクト実務で高い成果を残しても、経験をきちんと振り返らなければ学びとして蓄積されづらい。プロジェクト実務での経験を振り返り、内省・検証し、学びを可視化していくことでスキル獲得につながっていく。
振り返りにおいて、まず取り組むのが目標としたスキルの到達度確認だ。具体的には前述の通り、スキルレベルを用いて定量的な評価を行い、到達できたスキル、できなかったスキルを確認していく。
プロジェクト実務を通しての定量的な到達度が確認できたら、次に到達度を糸口として目標到達・未達の要因を分析していく。達成できた目標に対しては、なぜうまくいったのか、成功パターンは何なのか。未達になった目標に対しても同じく、なぜできなかったのか、失敗した要因を探っていく。できなかった出来事、状況、行動を振り返るリフレクションを用いた分析をするのも良いだろう。重要なのは結果に対するプロセスを検証していくことだ。
最後は、検証を通して見えた課題や、課題を解決するためのアクションプラン、また、継続すべき良かったアクションを検討し、検討結果をプロジェクト実務で得た学びとして残していく。Step2でも述べた通り、上司、プロジェクト上位者の第3者視点を含めた客観的な視点も忘れずに入れていきたい。
継続的な育成サイクルにつなげるためにも、実践終了後は上記の流れで振り返りを行うことが重要だ。
 

知識獲得におけるポイント

ここまで、トレーニングで身に付けられるのは知識メインで、実践的な力を養うことは難しいことや、知識獲得だけでは実践において武器にならないことをお伝えしてきた。とはいえ、実践をより効果的な場にするうえでも、前提となる知識獲得は重要な手段だ。知識獲得がないまま実践に入る場合と、しっかりと前提知識を得た場合とでは、実践の中での育成の質やスピード感が大きく違ってくるだろう。ここでは、知識獲得のポイントとなる「タイミング」「対象者」「方法」について解説していく。

図3 知識獲得のポイント

図3 知識獲得のポイント

①知識獲得のタイミング
プロジェクトが開始しているにも関わらず、プロジェクトの途中で必要な知識を獲得するのはタイミングとして遅すぎる。遅くともプロジェクトやフェーズが開始される前には最低限の知識を習得していないと、プロジェクトはスムーズに立ち上がらない。ポイントは適切なタイミングで知識獲得を行い、人材の準備を整えることだ。
多くの場合、プロジェクト計画書やWBSといった計画系のタスクはしっかり準備を行う。一方で、推進するメンバーのスキル準備といった観点ではいかがだろうか。アサインはしてみたが、スキルの問題で計画通り進められなかったという経験も少なくないのではないか。これを解決するには、必要な知識を必要なタイミングで獲得する場を、プロジェクトの準備と捉え、メンバーのスキル準備を計画に盛り込むことだ。

図4 知識獲得のタイミング

図4 知識獲得のタイミング

しかし、プロジェクト開始前に必要なスキルを全て獲得するには時間もかかり負荷も高い。具体的な計画としては、図4のようなフェーズカットでの知識獲得を計画することをお勧めしたい。知識獲得の時間も分散され、基礎知識や前提知識をもった状態でフェーズに入れるようになるため、フェーズ初期段階でのつまずきの解消も期待できるだろう。

②知識獲得の対象者
知識獲得の対象者について、これまで通りIT部門だけを対象にしていては円滑なプロジェクト推進は期待できない。業務部門も対象者にしていくことが重要だ。なぜならDXとはデジタルテクノロジーやデータを活用してビジネス変革を進めることであり、業務部門においても、デジタル技術の知識を身に付け、どのように自社のビジネス変革に結びつけていくかを考える必要がある。ITのことはIT部門に任せれば良いという時代ではなくなってきている。
一方、IT部門においても同じことが言えるだろう。これまでのように業務部門から出てくる要望を実現することが主目的ではなく、より経営やビジネスに価値がある提言をすることが求められる。ビジネス・ITを繋げて・広げる、複合的・実践的なスキルを備えるべきだ。昨今のデジタル化を推進するプロジェクトにおいては、これまで以上に業務部門、IT部門の協業体制を構築することがカギであることが、様々なメディアでも声高に唱えられている。そのためにも、業務部門、IT部門双方において、共通言語を生み出すための知識獲得が必要ではないだろうか。

③知識獲得の方法
世の中に様々なトレーニングが溢れているなか、知識獲得においては、どのようなトレーニングを受講させるかが非常に難しい。ポイントは、考えて手を動かすことだ。前述の通り、座学だけでは知識を得ただけに過ぎず、プロジェクトを推進するための武器を得たとは言い難い。効果的に学ぶには、座学と組み合わせて、実際の事例を題材としたハンズオンやディスカッション、またグループワークなどを含めた、自ら考え、手を動かす質の良いアクティブラーニングが有効だ。学習定着率も高く、座学による知識獲得よりもはるかに現場で武器として使えることも多い。さらに、現場からの経験に基づく知識獲得も重要と言える。そのためには、活きた教材となる講師をしっかり選ぶ必要がある。経験の中から生まれてくる知識や知見はトレーニングからは得られないこともあり、例えば、リスク察知力などはトレーニングの知識からは得ることのできない経験から得られる知見と言える。アビームコンサルティングの事例においても、実際の事例を題材とする教材、現場第一線での実務経験からの活きた知見、経験を語る講師による講義を行うことで、講義後にスキルが身に付いているという声も多くいただいている。

最後に

今回お伝えしたのは、実践の中でこそ人は育つということである。そのためにも現実的な目標設定、実現性のあるアクションプラン、実践終了後の振り返りといった、実践の中での仕組み作りが重要であることを解説してきた。特にIT人材育成においては、難易度の高いプロジェクトが増えている中、いかにして知識獲得を行っていくかもポイントになってくる。改めて読んでいただきどう感じたであろうか。書いてあることは、読者には至極当然と感じられた部分も多いとは思うが、今回解説した仕組み作りができているか、改めて自社の状況を振り返っていただきたい。仕組みとしてできている部分、できていない部分を再認識いただき、実践における人材育成を推し進めていただきたい。

DX時代を生き抜くための効果的な人材育成とは

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