日系自動車部品サプライヤーの生き残り戦略

 

2021年10月27日

武藤 彰宏

戦略ビジネスユニット
ダイレクター

 

国内で約70万人の雇用を抱える自動車部品サプライヤーが、2030年以降の生き残りをかけた戦いを始めている。
自動車生産台数が2017年から2018年にかけてピークアウトしていることに加え、自動車メーカーで進むモデルベース開発への対応や、脱炭素・循環型社会への対応など、部品サプライヤーに求められることも大きく変化してきている。いま舵取りを間違えれば2030年頃から売上が激減する可能性が高く、2020年代は、2030年以降も生き残れるかを決する重要な時代になると考えている。

このような背景の中、既に多くの日系自動車部品サプライヤーが2030年以降も生き残るために、「既存事業の強化」に加え、「事業ポートフォリオ転換」に向けたチャレンジを開始している。しかし、日系自動車部品サプライヤーの事業ポートフォリオ転換は、他国・他産業以上に、困難に直面することが想定される。
それは、自動車業界という特殊性に起因する要素が大きい。アビームコンサルティングでは、日系自動車部品サプライヤーの生き残りをかけた戦いの本質は、この自動車業界の特殊性へのチャレンジだと考えている。

本インサイトでは、日系自動車部品サプライヤーの2030年以降の生き残り戦略の方向性を示した上で、自動車業界の特殊性にチャレンジするための着眼点と、現経営陣がやるべきことを解説する。

生き残りに向けた基本戦略

自動車業界のキーワードを2010年代までと2020年代で比較してみると、自動車部品サプライヤーにとってのチャンスの拡がりが見えてくる。
2010年代までは、CASE(コネクテッド/Connected、自動運転/Autonomous、シェアリング/Shared & Services、電動化/Electric)というキーワードに代表される「クルマ」を中心とした世界観であった。例えば、電気自動車の部品である「電池」やその原料、もしくはインフラとしての電力網・通信網に注目が集まっていた。この時代は、自動車製造を中心としたバリューチェーンで供給者側の論理に寄っていたと言える。
一方、2020年代に入ると、「サブスク」「オンライン販売」などバリューチェーンで需要者側のテーマが登場してきた。さらに、クルマが「動く蓄電池」と見られVPP(仮想発電所/Virtual Power Plant)に組み込まれるデバイスと見られるようなったり、「サービスを運ぶ箱」と見られ移動サービスに組み込まれるデバイスと見られるようになったりしており、自動車を中心においたバリューチェーンでは表現できない世界に進化している。

この世界観の拡がりが、日系自動車部品サプライヤーにとって事業ポートフォリオを転換するチャンスになる。基本戦略の方向性は大きく7つに集約される。

図1 7つの基本戦略

7つの基本戦略

・自動車業界
まず、CASEという潮流において、「従来の車」が「次世代自動車」に進化を遂げた。それにともなって、EVのバッテリー等の熱マネジメントが必要となったことからバッテリー冷却システム、自動運転に対応するために自動運転制御システムが新たに必要となった。それらに対応するために、新たな部品が求められるようになっている。
この新たな部品を狙っていく方向性が、「① 次世代自動車向け部品開発・拡販」。この戦略は、これまでのように特定の自動車メーカーの特定のモデルへの個別アプローチではなく、モデルベース開発を前提に他自動車メーカー・他モデルも狙っていけるようにすることが前提となる。さらに、部品単位ではなくプラットフォームやシステム単位で狙っていくのが「② 次世代自動車プラットフォーム/システム開発」。他業界からの参入も相次いでいるEVプラットフォーム等がこの例である。
また、メガサプライヤーがこれらのプラットフォームだけなく、車1台分の製造も視野に入れていることから、「③ メガサプライヤーへの部品供給」という方向性もある。
さらに、自動運転車などの次世代自動車が普及していくには、その安全性を車内外で見守るサービスなどの支援サービスが想定される。EV向け充電サービス等も含めて、「④ 次世代自動車向けサービス開発」という方向性である。

ここまでは、自動車業界の中で、新たなチャンスを掴む4つの方向性である。

・他業界
次の3つの方向性は、自動車業界の外に目を向ける基本戦略である。日系自動車サプライヤーが他国・他産業以上の困難に直面すると想定されるのが、ここからの3つの方向性である。
まず、自動車業界で培った自社技術・製品を、ドローンのような他産業に転用する方向性が「⑤ 技術・製品をもって他業界に進出」である。事業ポートフォリオ転換として、想起しやすい戦略である。一方で、図1において逆三角形で描いているように、これまでの「部品サプライヤー」での位置づけでの参入が想定されやすいが、後述する自動車業界の特殊性がない中で「部品サプライヤー」としてのポジションを確保していくことはチャレンジが大きい戦略でもある。

・モビリティサービス
次に、図1において上部にモビリティサービスの世界観を逆三角形で描いている。この世界観では、これまで自動車業界の頂点に君臨していた「自動車」が、1つのデバイスでしかなく、ベースに存在している。モビリティサービスは、複数のサービス領域・事業者を横断して最適化され提供されるため、情報連携基盤が同じくベースとなる。その上に、課金や認証等のプラットフォームが存在し、その上でカーシェア、配車、フードデリバリなどの個々のサービスが提供される。消費者はこのサービスを利用することになる。図の配置から明らかなように、自動車部品サプライヤーがモビリティサービスに進出することは、これまでのポジションとは真逆のポジションを取ることを意味する。チャレンジは大きいが、これまでとは違う戦い方に挑むことで企業変革にもつながっていく方向性が「⑥ モビリティサービスの展開」である。
さらに、モビリティサービスが増えてくると、そこで使われる「サービスカー」の台数が増えてくることになる。そこで、それらのサービスカーに対してメンテナンス等の支援サービスを提供するのが、「⑦ モビリティサービサー向けサービスの展開」という方向性である。

以上の7つの基本戦略が、日系自動車部品サプライヤーが生き残りをかけて事業ポートフォリオを転換する方向性である。もっとも、全ての企業が7つの基本戦略を自由に選べるわけではない。例えば、アプリ系のソフトウェアやメカトロニクスに関する能力を有しているか否かによって、とりえる戦略には制約がでてくる。
 

日系自動車サプライヤーが本気で取組むべき変革

いずれの基本戦略を選択するか、つまり、いかなる事業ポートフォリオに転換していくか、その未来像を構想することは重要な経営アジェンダである。
しかし、日系自動車部品サプライヤーにとって、全社をあげて本気で取り組むべき変革は、未来像を構想すること以上に、それを実現できる組織に進化することではないだろうか。それは、日系自動車部品サプライヤーが、企業文化や組織・制度・業務プロセス等の企業の諸要素を、「日系自動車メーカーを主要顧客する自動車部品事業」に最適化してきたため、事業ポートフォリオ転換が他国・他産業の企業より困難になっていると考えられるためである。具体的には、日系自動車向け自動車部品事業に最適化してきた企業の諸要素が、新たな領域に打って出ようとした際に「外部情報の壁」と「社内体制の壁」として立ちはだかってくるからである。

(1)外部情報の壁
主要顧客である日系自動車メーカーを向いて仕事をしてきたため、「エンドユーザーの声」や「既存製品以外の情報」を取り込む構えができておらず、既存の事業領域外のチャンスが見えなくなっている。

  • 「エンドユーザーの声」を聴く構え不足
    • エンドユーザーの声を収集するマーケティング機能を担う組織がない
    • 多数の異なる意見が寄せられる「エンドユーザーの声」の受け止めに慣れていない
  • 「既存製品以外の情報」を取り込む構え不足
    • 自動車業界、自社取扱い部品カテゴリー以外で起きつつあるトレンド・ニーズを捕捉する組織がない
    • 自動車業界以外の人と会話するための人的ネットワークを属人的にしか有していない

(2)社内体制の壁
高品質な製品を大量に安定的に生産する仕事が中心であるため、新しいことにも「手堅さ」を求めてしまう。そのため、基本戦略に向けた構えが取れなくなっている。

  • 体制構築にはビジネスの「手堅さ」が必要
    • 新しいことを実行に移すためにメンバーを集めようにも、誰もが既存事業で仕事をもっている
    • 既存事業のメンバーを専任化するには、手堅いビジネスプランが求められる
  • 「新しい戦略」への抵抗感
    • 5~10年後の売上までは、既存事業で見通すことができるため、営業部隊中心に既存事業で忙しく、「新しい戦略」の実行に抵抗感がある

この2つの壁を築かせている背景は、自動車産業という巨大かつロングスパンな産業に軸足を置いてきたという、日系自動車部品サプライヤーの宿命的な事実である。この宿命が、他国・他産業の企業よりも事業ポートフォリオ転換を困難にしている元凶である。
自動車業界は数百万円の高額商品が年間1億台の規模で生産・販売される稀有な規模感を有するとともに、5-7年ごとのフルモデルチェンジ(FMC)の周期で動くという稀有な時間軸をもった特殊な産業である。この2大特殊性が、既存事業でも2030年前後までは生き残れる感覚をもたらし、他産業の日系メーカーが既に取り掛かっている生き残りに向けた戦いに後れを取っている元凶となっている。

図2 日系自動車部品サプライヤーが宿命的に築いた壁

日系自動車部品サプライヤーが宿命的に築いた壁

日系自動車部品サプライヤーが、本気で取り組むべき変革は、宿命的に築かれた壁を乗り越え事業ポートフォリオを転換する能力を組織で習得していくことである。なぜならば、事業ポートフォリオの転換は、企業が存続する限り繰り返されるため、1回限りの成功を得るだけでは不十分であり、それを繰り返していくことが重要だからである。
さらに、この組織能力を2020年代に習得しなければ、遅きに失する可能性が高い。なぜなら、①ロングスパンの自動車業界であっても既存事業での売上が見えるのは2030年頃まで、②中国系自動車メーカーの海外進出にあわせて中国系自動車部品メーカーのグローバル展開が見込まれる、そして③組織能力の習得には数年単位の時間を要するためである。

本気の変革に向け、日系自動車部品サプライヤー経営層がやるべきこと

現経営者が2020年代にやるべきことは、揺るがない北極星に向け社内をまとめ、2030年以降の生き残りを次世代リーダー候補に託すことである。
事業ポートフォリオ転換に向けた組織能力は、新しい顧客の開拓やこれまで取引がある企業とは異なる思考・行動様式をとるパートナーとの協業など「仲間づくり」に関する能力や、新しい仕事の仕方を考え、定着させていく「仕組みづくり」の能力など多岐にわたる。これらの組織能力は、教科書を読んで身につくものでも、人に教わって身につくものでもない。実行の中で、直面する困難を自ら乗り越える経験を通じて、徐々に習得していくものである。
一方で、日系自動車サプライヤーは既に生き残りに向けた戦いを始めるタイミングにあり、組織能力の習得のみを目的とした取り組みを行っていく時間的猶予は残されていない。
よって、アビームコンサルティングでは、生き残り戦略における戦略策定・実行の王道アプローチを5ステップで定め、4,5番目の戦略実行のステップに、2030年以降の自社を担う次世代リーダー候補を実行責任者として起用し、実行の中で育成するアプローチを提唱している。

  1. 経営層で、現状・将来の見立てを共有。生き残り戦略の必要性を腹落ちし、揺るがない覚悟をつくる
  2. 経営層で、7つの基本戦略のうち、自社の生き残り戦略を決定し、揺るがない北極星をつくる
  3. 経営層で、戦略ビジョン/事業ポートフォリオに具体化具体的な戦略テーマを設定し、明確な道標をつくる
  4. 経営層で、戦略テーマごとに担当役員を指名。必要な組織/人事を手当し、明確な体制をつくる
  5. 経営層と担当役員が戦略テーマの進捗・課題を討議必要に応じて経営判断する場を設定し、実行担保の仕掛けをつくる


このアプローチの中で、実行責任者に任命された次世代リーダー候補のみの成長を期待するのではなく、次世代リーダー候補とともに取り組む実行メンバーやその周りの仲間もともに成長していくことが重要である。

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