① ビジョンづくりとステークホルダーとの合意形成
経営統合は、複数年にわたって様々な取組みを継続し、その効果の享受を目指すべきものである。しかし、取組みの期間が長くなればなるほど、“経営統合”と称した組織の見直し等の施策自体が目的化してしまい、経営統合の目的が置き去りにされてしまうことが少なくない(目的と手段の逆転)。
そのため、経営統合の取組みを開始する段階で、経営統合によって何を達成するのかを示すビジョンづくりが欠かせない。ビジョンとは、「将来の目指す姿」である。経営統合によって、どのような大学を目指すのか。関係者が理解しやすく、達成目標が明確なビジョンが望ましい。このビジョンを経営統合に向けた取組みの期間中、関係者間で目的に立ち返る原点として、随時、活用する。
また、経営統合を推進するためには、経営統合に向けたビジョン作成後のステークホルダーとの合意形成も欠かせない。大学の経営統合自体は、大学や法人の幹部内等の限られた関係者内で決定されるが、大学には数多くのステークホルダーが存在する。日々の大学の業務を支えているのは、大学の教職員である。また、大学は、地域における知の拠点であり、地域の重要なインフラでもある。そして、最も重要な構成員として、学生や教員(研究者)が存在する。学生は、大学の理念を入学の重要な判断材料とし、教員や研究者はその環境でどれだけの教育研究の成果を上げることができるかに着目している。円滑な経営統合を実現するには、これらのステークホルダーを含めた合意形成や意識改革が必須である。
ビジョンが不明確なまま、形だけの経営統合を推進しても、ステークホルダーの理解は得られない。また、ビジョンを作成し、一過性で発信をするだけでは、ステークホルダーの十分な合意形成は難しい。何を実現するために、何に取組み、どのように推進するのか。これらがセットになった経営統合のビジョンを、経営統合を推進する期間中・経営統合後と、継続的に発信していくことで、関係者の理解や合意形成が進み、改革の意識が醸成される。
② 経営統合後のガバナンス方針の策定
経営統合を進めるには、組織編成・予算・人事等の権限の所在を明確にすることが必要となる。経営統合の推進をどの組織が担うのか、経営統合のための投資判断は誰が行うのか、こういった様々な判断を誰が担うのか。これらが不明確な場合、必要な意思決定が遅延し、経営統合という大規模な改革の推進は困難となる。
なお、経営統合のための準備の際、多くの場合は、新法人設立準備室の設置や幹事大学を決め、これらが主導する。新法人設立準備室等では、施策の検討は行うものの、最終的な決定権を持つことは少ない。これらの組織の検討結果をどの組織で決定するのか、最終的な意思決定機関を明確にしておくことが肝要である。
また、後続の業務プロセスの見直し等を効果的・効率的に実施するためには、経営統合後のガバナンス方針(権限の所在)も明確にしておく必要がある。企画・評価・予算編成等、新たな法人に策定権を持たせるのか、各大学に権限を残すのかで業務プロセスや組織の在り方は大きく異なる。このため、経営統合のビジョン策定後、個々の施策に取り組むにあたっては、経営統合後のガバナンス方針を優先して定めることが必要となる。
③ 業務プロセスの見直し
業務プロセスの見直しにあたっては、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の手法を用いることが一般的である。民間企業や組織におけるBPRは、「統合」「廃止」「汎用化」「標準化」「集約化」「自動化」等の視点で業務を再構築していくが、大学の経営統合においては、この中でも「廃止」と「標準化」が特に重要なポイントとなる。
BPRの手法を活用する際、業務の「廃止」は業務の効率化に直結するため、ぜひ積極的に検討したい。例えば、複数の大学が経営統合をする場合、現状分析において、統合対象となる大学の業務を横並びで比較することになる。この段階で、一方の大学が実施していて、もう一方の大学が実施をしていない業務は、「廃止」の有力な候補となる。既存業務を廃止することは、現場の教職員の抵抗が大きいが、経営統合を機に他大学と自大学の業務をベンチマークすることで、廃止の明確な理由(根拠)を得ることができる。このため、経営統合を業務廃止の好機と捉え、見直しを検討することが望ましい。
また、経営管理部門の共通化・合理化を促進し、業務の効率化を実現するためには、業務の「標準化」も重要なポイントとなる。各大学の業務を共通化し、法人等に集約するためには、各大学の業務手順が同一である(=標準化されている)ことが必要となる。業務が標準化されていない状態で組織だけを統合しても、業務の集約効果・効率化効果を得ることはできない。
④ 情報システムの統廃合
民間企業等では、デジタル化が競争の源泉である昨今、情報システムへの投資の割合が高まっている。大学も例外ではない。講義やレポート等は情報システムでの管理が主流であり、大学経営に関わる会計・人事等の業務の大部分も情報システムが支えている。大学における情報システムへの投資も経営の大きな部分を占めるようになっている。
このため、経営統合を機に情報システムにもメスを入れることで経営統合の効果を一層高めることができる。財務会計システムや人事給与システム、文書管理システム等の情報システムは、大学によって取り扱う情報の差異が比較的少ないため、システムの統廃合によるコストメリットを享受しやすい。
昨今では、「クラウドファースト」の考え方に則り、情報システムを自組織で運用・管理するという発想を捨てる大学も増えている。自前主義を脱却し、利用料だけを払い、既存の「サービス」を徹底的に活用することで、情報システムの整備・運用にかかる物的・人的コストを大幅に削減する事例も増えている。また、既存のサービスに自大学の業務を合わせることは、大学の独自業務の廃止にも繋がり、結果的に業務の標準化・効率化が進むという副次的効果も得ることができる。