前項で掲げた2つの課題に対する有効な解決策について、「新規事業検討プロセスを意識しつつ、工夫しながら事業化に繋げる」という観点で、アビームコンサルティングのプロジェクト実績・経験、および携わった事例などを基に一例を挙げる。
課題a. “「PoCを実施すること」自体が目的化してしまい、その先にある事業展開プラン(=サービスイメージ、事業化・収益化のシナリオ案など)の検討がなく、次に進めない”に対する解決策
解決策a.- ① PoCのゴール・期待値をすり合わせる
PoCのゴール(何を検証し、検証結果を次フェーズにどのように繋げるか)や期待値は、企業間だけでなく、時には同じ企業内でも同じチーム内でも個々にイメージが異なる。そのため、PoC開始前に、事業会社・スタートアップ間で議論し、共有することは非常に大切である。まず、事業会社側が、自社の狙い・想いと共に、制約・希望条件(期間・予算・人員体制など)をスタートアップ側に明示した上で、スタートアップ側も「自分たちは何をどこまでできるか(技術・リソース面の制約含め)」「PoCとその後の展開で何を期待するのか」を事前に事業会社に明確に伝えることが重要だと考えられる。
この段階で、事業会社とスタートアップのいずれか一方の意向のみが優先されたり、一方が過大な期待を抱いたりすると、PoCを進める中で「こんなはずではなかった」という状況に陥ってしまう可能性がある。互いの立場・意向を相互に理解・尊重し、率直に話し合える信頼関係を築くことも、PoCから事業化に進めるための一つの鍵となる要素である。
解決策 a.-② PoC前の「アイディアの”種”発掘」~「ビジネス案作成」のステップを大切にする
事業会社がスタートアップと出会った後、「とりあえずPoCを行う」ことを目指すのではなく、PoCに至る前の「アイディアの”種”発掘」~「ビジネス案作成」に時間を割くことも重要である。PoCはあくまでも全体構想の中の一部分を検証するものという位置づけを明確にすることで、PoC終了後の道筋が描きやすくなる。また、仮にPoCの結果が想定通りでなくても、全体構想におけるPoCの位置づけが明確であれば、代替プランも考えやすくなると想定される。
事業会社・スタートアップともに、事前検討にかけられるリソースは限られているケースもあるが、いざPoCを実施する際には、よりコストがかかり、ステークホルダーも増える可能性が高い。そのため、事前準備をおろそかにするのは得策ではないと考えられる(「アイディアの”種”発掘」~「ビジネス案作成」の詳細は、『スタートアップとの真の「共創」を実現するために ~出会いからPoCに至るまで~』(前編・後編)を参照いただきたい)。特にスタートアップ側のリソースは限りがあるため、事業会社側が、外部の知見なども活用しながら、積極的に考え、提案・推進する必要があると考えられる。