以上を踏まえて、地域金融機関のリテールチャネル戦略の在り方について、店舗チャネルとデジタルチャネルの2つの側面で考えられる取組例を紹介する。
まず、店舗チャネルは一定程度維持する一方で、各店舗の収益性向上を図る必要がある。そのために、従来のフルラインナップ型店舗だけではなく、店舗周辺の顧客層を踏まえた各店舗のターゲット層に合わせて相談業務等の機能特化型店舗へシフトすることで、運営コストを抑制して店舗の収益性向上を図る方法がある。例えば、宅地エリアでは高齢層をターゲットとして資産運用相談特化型店舗へ、商業施設エリアでは若年のファミリー層をターゲットとしてローン相談特化型店舗へのシフト等が考えられる。
加えて、店舗の収益性向上のためには、店舗業務の電子化や自動化による店舗事務経費の削減、顧客のライフサイクルに応じたマーケティング・プロモーション施策、来店してもらうための新たなサービスの提供等も重要である。今回のアンケートでは、金融機関の新たなサービス提供に対する顧客ニーズも調査したが、その結果、「店舗近隣飲食店や小売店のクーポン等の発行」は78%、「自治体・行政機関の手続き代行」は70%が利用したいと回答する等、金融機関の店舗において新たなサービスを提供することに対して顧客は好意的であることがわかった。規制緩和や業法の変更を待たなければならないサービスも含まれるが、今後の店舗チャネルでは新たなサービス提供による集客を行い、収益に繋げる取組みを検討していくことが求められる。
一方、従来店舗で行ってきた預為業務・諸届といった事務手続きは、アンケート結果からも利用者の多くは店舗チャネルではなくデジタルチャネル等を利用していたが、各地域金融機関が単純に手続きをデジタル化しただけではネット専業金融機関等の競合他社との差別化が難しい。デジタルチャネルで差別化を図るには、地域に密着した店舗網を持つ地域金融機関だからこそ実現できる、店舗とデジタルを融合したサービス提供が求められる。
例えば、ある百貨店は店舗を「モノを売る場」ではなく「体験を提供する場」として位置づけ、デジタルチャネル(ECサイト)で購入してもらう取り組みを実施している。顧客が知らなかったブランドやグッズを偶然発見するような店舗ならではの体験を提供することで、新たな購買意欲を喚起するとともに、商品の現物を見ることによる安心感を提供し、購入手続きはデジタルチャネルとすることで現金決済や在庫不足といった煩わしさから顧客を解放している。
金融取引も同様に、顧客は店舗で運用相談をした後、運用商品の購入手続きをデジタルチャネルで完結できるサービスを実現する等が考えられる。店舗では対面で相談することで様々な疑問を解消できる安心感を提供し、購入手続きはデジタルチャネルとすることで店舗での滞在時間を短縮でき、手続きのために再度来店するといった煩わしさから顧客を解放できる。
さらに中高齢層も含めたあらゆる世代にデジタルチャネルを実際に利用してもらうためには、利便性の高いUI/UXを備えることも考慮しなければならない。例えば、高齢者にも分かりやすく安心して使用できるアプリや利用者個々のニーズ、取引頻度に合わせて取引画面をカスタマイズできるアプリ等が考えられる。
その他、地域金融機関ならではのデジタルチャネル活用という視点では、地域における商圏の情報を取り揃えたローカルスーパーアプリの開発も選択肢となる。地域金融機関が提供するローカルスーパーアプリでは、一般的な金融取引を完結できるだけではなく、地域共通ポイントや地域商店のクーポン発行、金融機関から地域の商店への送客といった金融と商業サービスの融合を図るといった取組が想定される。このようなアプリを通じて、地域商店や地域住民の利便性向上を図る取組は中長期的には地域経済の活性化に繋がり、地域金融機関のビジネスチャンス拡大にも寄与すると思われる。