地域金融機関におけるリテールチャネル戦略の在り方

インサイト
2021.11.18
  • 銀行・証券
487684149

執筆者情報

  • 佐藤 哲士

    Principal

1.地域金融機関のリテールチャネルを取り巻く環境変化

地域金融機関は、人口減少、低金利環境の長期化、デジタル技術の進展等、大きな環境変化に晒されている。人口減少に伴う地域経済の停滞や縮小といった課題に直面するとともに、低金利環境の長期化を受けた預貸金利ザヤ低下により収益環境は厳しさを増している。また、デジタル技術の進展やデジタルネイティブ層の増加を受け、リテールチャネルはインターネットバンキング等のデジタルチャネルへシフトしており、店舗への来店客数は減少傾向にある。将来的な人口減少やデジタル技術の進展を踏まえれば、厳しい収益環境や来店客数の減少は今後も続くものと予想される。

このような環境変化を受けて、地域金融機関はリテールチャネル戦略の在り方を模索している。店舗チャネルについては、コスト削減の一環として、既存店舗の統廃合や店舗形態・機能の見直し等を進めている一方、デジタルチャネルについては、顧客の利便性を高めるべく、インターネットバンキングの機能拡充や専用アプリの開発等を進めている。

本インサイトでは、アビームコンサルティングが独自に実施した調査結果から利用者のニーズを紐解き、地域金融機関のリテールチャネル戦略の在り方について解説する。

  • 地域金融機関の間では過去5年間で来店客が2割減少したとする例があるほか、メガバンクでは過去10年で4割減少した例もある

2.国内の金融機関チャネルに対する利用者ニーズ

アビームコンサルティングでは、2021年3月にリテールチャネルにおける店舗の利用ニーズに関して「金融機関チャネルに対する顧客意識についてのアンケート調査」を、日本国内に居住する20歳以上の個人2,500名を対象に実施した。

本アンケートで、メインバンク(最もよく利用している金融機関)の選定理由を質問したところ、「店舗が近い」を選定理由に挙げた割合が53%と最も多い結果となった。特に地方銀行や信用金庫、信用組合といった地域金融機関では同割合が7割を超えており、利用者にとって店舗の重要性が依然として高いことが分かった。加えて、近隣に店舗がなくなった場合の当該金融機関との取引継続意向を質問したところ、地域金融機関では近隣に店舗がなくなった場合、取引を「継続したくない」、あるいは「どちらとも言えない」と回答した利用者が5割を超えており、近隣に店舗がなくなると一定数の顧客が離反する可能性があることが分かった。

国内の金融機関チャネルに対する利用者ニーズ

また、今回のアンケートでは金融機関との取引種別毎に希望するチャネルの調査を行った。その結果、住宅ローンや資産運用等の相談を伴う取引は、「店舗」を希望する割合が「店舗以外」のチャネルよりも高くなった。一方で、振込等の事務的な手続きは、デジタルチャネル等の「店舗以外」のチャネルを利用した割合が「店舗」よりも高くなっており、取引種別によってチャネルに対する利用者ニーズが異なることが確認された。

金融機関との取引において希望するチャネル、利用したチャネル

調査結果から、地域金融機関がリテールチャネル戦略の在り方を考えるにあたっては、近隣に店舗がなくなると一定数の顧客が離反する可能性があるため、単純に店舗を廃止していくことは望ましくないと考えられること、および取引種別によって「店舗」チャネルとデジタルチャネルを始めとした「店舗以外」のチャネルに対する利用者ニーズが異なることを踏まえる必要がある。

3.地域金融機関のリテールチャネル戦略の在り方

以上を踏まえて、地域金融機関のリテールチャネル戦略の在り方について、店舗チャネルとデジタルチャネルの2つの側面で考えられる取組例を紹介する。

まず、店舗チャネルは一定程度維持する一方で、各店舗の収益性向上を図る必要がある。そのために、従来のフルラインナップ型店舗だけではなく、店舗周辺の顧客層を踏まえた各店舗のターゲット層に合わせて相談業務等の機能特化型店舗へシフトすることで、運営コストを抑制して店舗の収益性向上を図る方法がある。例えば、宅地エリアでは高齢層をターゲットとして資産運用相談特化型店舗へ、商業施設エリアでは若年のファミリー層をターゲットとしてローン相談特化型店舗へのシフト等が考えられる。

加えて、店舗の収益性向上のためには、店舗業務の電子化や自動化による店舗事務経費の削減、顧客のライフサイクルに応じたマーケティング・プロモーション施策、来店してもらうための新たなサービスの提供等も重要である。今回のアンケートでは、金融機関の新たなサービス提供に対する顧客ニーズも調査したが、その結果、「店舗近隣飲食店や小売店のクーポン等の発行」は78%、「自治体・行政機関の手続き代行」は70%が利用したいと回答する等、金融機関の店舗において新たなサービスを提供することに対して顧客は好意的であることがわかった。規制緩和や業法の変更を待たなければならないサービスも含まれるが、今後の店舗チャネルでは新たなサービス提供による集客を行い、収益に繋げる取組みを検討していくことが求められる。

一方、従来店舗で行ってきた預為業務・諸届といった事務手続きは、アンケート結果からも利用者の多くは店舗チャネルではなくデジタルチャネル等を利用していたが、各地域金融機関が単純に手続きをデジタル化しただけではネット専業金融機関等の競合他社との差別化が難しい。デジタルチャネルで差別化を図るには、地域に密着した店舗網を持つ地域金融機関だからこそ実現できる、店舗とデジタルを融合したサービス提供が求められる。

例えば、ある百貨店は店舗を「モノを売る場」ではなく「体験を提供する場」として位置づけ、デジタルチャネル(ECサイト)で購入してもらう取り組みを実施している。顧客が知らなかったブランドやグッズを偶然発見するような店舗ならではの体験を提供することで、新たな購買意欲を喚起するとともに、商品の現物を見ることによる安心感を提供し、購入手続きはデジタルチャネルとすることで現金決済や在庫不足といった煩わしさから顧客を解放している。

金融取引も同様に、顧客は店舗で運用相談をした後、運用商品の購入手続きをデジタルチャネルで完結できるサービスを実現する等が考えられる。店舗では対面で相談することで様々な疑問を解消できる安心感を提供し、購入手続きはデジタルチャネルとすることで店舗での滞在時間を短縮でき、手続きのために再度来店するといった煩わしさから顧客を解放できる。

さらに中高齢層も含めたあらゆる世代にデジタルチャネルを実際に利用してもらうためには、利便性の高いUI/UXを備えることも考慮しなければならない。例えば、高齢者にも分かりやすく安心して使用できるアプリや利用者個々のニーズ、取引頻度に合わせて取引画面をカスタマイズできるアプリ等が考えられる。

その他、地域金融機関ならではのデジタルチャネル活用という視点では、地域における商圏の情報を取り揃えたローカルスーパーアプリの開発も選択肢となる。地域金融機関が提供するローカルスーパーアプリでは、一般的な金融取引を完結できるだけではなく、地域共通ポイントや地域商店のクーポン発行、金融機関から地域の商店への送客といった金融と商業サービスの融合を図るといった取組が想定される。このようなアプリを通じて、地域商店や地域住民の利便性向上を図る取組は中長期的には地域経済の活性化に繋がり、地域金融機関のビジネスチャンス拡大にも寄与すると思われる。

ローカルスーパーアプリのイメージ図 ローカルスーパーアプリのイメージ図

このように、店舗チャネルとデジタルチャネルのいずれにおいても、地域に密着した店舗網や顧客基盤を持つ地域金融機関ならではの強みを活かす必要があり、きめ細かなサービスを提供できる店舗チャネルと利便性の高いデジタルチャネルの双方を通じて、いかに地域顧客のニーズに応えていくか、顧客ニーズを起点としたリテールチャネル戦略の構築が重要である。

アビームコンサルティングでは、金融リテール分野やDXに精通した多種多様な人材を揃えており、金融機関に合わせたご支援が可能である。金融機関の次世代店舗戦略策定からデジタルチャネル戦略策定まで、リテールチャネル戦略に関する幅広いご支援実績を多数保有するため、ご相談いただきたい。

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